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「津田令子のにっぽん風土記(122)」南伊豆の風に誘われて~ 静岡県・南伊豆編 ~

2026年9月13日(日) 配信

「伊豆の味おか田」の店内
伊豆の味おか田 2代目店主 岡田正司さん

 伊豆へ向かう道を走っていると、少しずつ風が変わっていく。窓を開けると潮の香りが届き、肩の力がすっと抜けていく。

 旅には、そんな瞬間がある。

 南伊豆は、海や山の美しさだけでは語れない町だ。

 ゆっくり流れる時間、穏やかな人柄、そして訪れる人をさりげなく迎えてくれる空気。その土地の魅力は、暮らす人の表情にも映し出されているように思う。

 私が長くご縁をいただいている「伊豆の味 おか田」も、そんな南伊豆を感じさせてくれる一軒である。

 伊豆の味おか田は、40年以上前の1985年に創業。

 金目鯛や伊勢エビなど、新鮮で味の良い魚料理を出す店として、地元の人たちに愛されるだけでなく、多くの観光客を受け入れてきた南伊豆を代表する郷土割烹の店だ。

 お父様の時代に初めて暖簾をくぐってから、気がつけば長い年月が流れ、店主も2代目へと代わった。

 2代目店主の岡田正司さんは、派手に自分を語る人ではない。それでも話をしていると、日本各地を訪ね歩き、土地の味や店づくりを自ら楽しみながら学び続けていることが伝わってくる。その積み重ねが、お店の空気にも自然と表れているのだろう。

 店から車で5分ほどの場所にある弓ヶ浜は「日本の渚百選」に選定されている人気の景勝地。

 夏は多くの海水浴客らで賑わうが、これから秋にかけての季節は少し静かになる。

 浜辺を歩いて、おか田で食事をするのも素敵な旅ではないだろうか。

 毎年のようにお願いしていた金目鯛の煮付けのお取り寄せも、今年は終わっていた。

 電話口で岡田さんは笑いながら、「もう手が回らなくなっちゃってね。お店のほうが忙しくて」と話してくれた。

 その言葉には、忙しさを誇る響きはなく、申し訳なさそうな温かさがあった。

 少し残念な気持ちになった。でも、電話を切ったあと、自然と思った。

 それなら、南伊豆へ行けばいい。

 旅には、その土地でしか味わえない時間がある。風の匂い、人との会話、店に流れる空気。そのすべてが重なって、一つの思い出になる。

 また南伊豆の風に吹かれながら、岡田さんの笑顔に迎えられたい。

 日本には、そんなふうに「また訪ねたい」と思わせてくれる人と町が、まだたくさん残っている。

 

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