【特集 No.683】旅館経営教室 現地セミナーin清風荘 清掃・洗濯、食材加工の内製化学ぶ
2026年9月1日(火) 配信

旅行新聞新社(石井貞德社長)は7月15–16日の2日間、福井県・あわら温泉の清風荘(伊藤由紀夫社長)で、第6回「旅館経営教室 現地セミナー」を開いた。清風荘が進める洗濯や食材仕入れ・加工の「内製化」、若いスタッフの採用と定着できる「組織改革」などの取り組みを、同社・伊藤将太取締役が紹介した。全国から参加した13施設35人の経営者や現場責任者らは、工学博士・内藤耕氏による解説とともに、バックヤードや客室の清掃、ベッドメイクなど「業務フロー」の改革の現場を見学しながら学んだ。
【本紙編集長・増田 剛】
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□170室の宿で“民宿型経営”目指す
主催者を代表して旅行新聞新社の石井貞德社長は、「旅館経営教室現地セミナーは6回目を迎えた。物価高騰など厳しい経営環境のなか、清風荘の洗濯や食材の仕入れ・加工の内製化を学び、各施設に持ち帰って、変革のきっかけとしてほしい」と語った。
清風荘の伊藤由紀夫社長は「当社は2021年から業務改善に取り組み、今年で6年目になる。さまざまな改善の成果が少しでも皆様の旅館経営の参考になれば幸い」と歓迎のあいさつを述べた。
セミナーは、清風荘で改革を進める伊藤将太取締役による講演からスタートした。
清風荘は74年前に創業した総客室170室、最大収容人数900人の大型旅館。伊藤氏は30歳で他業界から宿に入った最初の感想は、「旅館業は利益率が低い」こと。旅館の仕組み自体がそもそも現代に適応できていないのではないかと考え、「大型旅館でありながら、民宿型経営をする」をテーマに、さまざまな改革を進めてきた。
フロント、レストラン、清掃、調理など縦割りがあるから「中抜け」や「待ち時間」が発生する。その人にしかできない業務があるから特定のスタッフに業務が属人化する。「中抜けを無くす“マルチタスク”をするために清掃や洗濯の内製化をしている」と語った。
全スタッフが全工程を行うマルチタスク体制で、高効率化と長時間労働の解消により、利益率の向上を目指している。
「旅館はトップダウン方式が正しく、美しい経営方針」と信じる一方で、若いスタッフは上からの指示を守るだけの仕事に興味はない。「自ら考えて行動しない環境は離職率を高める」と捉えている。
一例として、夏休みに子供たちを楽しませるイベントを企画する際にも、テーマと予算規模だけを伝え、現場のスタッフに任せる。ロビーのラウンジで提供するメニューも同様だ。成功・失敗体験を得ることによって自ら考える力をつけていくことが狙い。
「全員が経営者であること」。かつて日本の家族経営が持っていた機動力と温かさを大型旅館のスケールで再現する。これこそが清風荘が提唱する「民宿型経営」と力を込める。
入社面接などで伊藤氏は「小さな民宿ではお出迎えや接客、料理、布団敷き、洗濯や掃除、お見送りまですべてやってお客様をもてなす。当社はそれを170室の大型旅館でやる」と説明する。この3年間で新卒18人、中途2人の計20人の若い社員は「民宿型経営」に賛同して入社している。
以前7部署あったが、総合営業部と調理部に集約。15分刻みにシフトを組み、中抜けは皆無に近い。これにより、「午前10―午後3時のお客様がいない時間帯に、すべての社員に仕事を振ることができるようになったことが内製化の最大の功績」と話す。
売上拡大に大きく貢献している劇場型ビュッフェ「虹」には、洗い物を少なくするために小鉢もお盆もない。作り立ての料理を何度も取りに行く楽しみを提供している。
その日に何を作るか分からないから、メニューもない。「メニューがあると、旬ではない食材も仕入れなければならずコスト高になる」。
3年前の高卒初任給17万円が19万5千円に、賞与は年間2カ月分から4カ月分に増えた。新卒18人の離職率は0%。清掃とリネンは外注していたが、これら外注費の内製化で削減できた7千万円は利益となった。
伊藤氏は「日本の旅館文化を未来へ残す。このためには、働く人が幸せである旅館でなければならない。組織を変え、業務を変え、人を育て、そして文化をつくる。私たちが目指すのは、旅館業界の新しいスタンダード」と語った。
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内藤耕氏は、経営者にとってリネンの内製化は非常に関心が高い。しかし、長時間労働で人手不足の中で社員がやってくれるかと心配する。実際にベッドメイクを現場のスタッフにやってもらうと、作業負担の軽減の大きさから、むしろ現場から「内製化を早くやってほしい」と催促してくると紹介した。
ゴルフ場や健康ランドでは、早くからタオルや部屋着の洗濯は内製化していたが、宿泊施設にはシーツがあることが大きな課題だった。しかし、良い生地メーカーとの出会いによって、基本はプレスをしない(アイロンをかけない)ため、作業負荷が減る。それ以上に、3次元形状のボックスシーツが可能となり、ベッドメイクが1人でもできるようになったメリットを挙げる。
内藤氏は「客室案内を100%やる」ことが改革の中核だと力説する。理由は「人数や属性に合わせた客室セッティングを一切していないから」。
清掃やベッドメイクなどの時間を短縮して、生まれた余力をすべて客室案内に回す。「お客がいない時間帯にセッティングしていたものを、お客がいるときにタイミングを変えるだけ」。前もってセッティングすると予測が外れたときにやり直さなければならない。やり直すのが大変だからチェック作業が発生する。私の考え方は「予測しないで、お客がいるときに、お客が求めるものをすべてやる。ビュッフェレストランも、お客が食べるときに作る」。
社員と会社はウィン―ウィンの関係にあり、給料と生産性は比例関係にある。これからの時代は「給料を上げることが会社のメリットになると考えられるか」がとても重要になると語った。
□内藤氏の解説とともに客室や洗い場を見学
現場視察では、参加者らは洗濯の内製化に向けて新たに開発したシーツやデュベなどリネン類を手で触れ、実際にベッドメイクしながら、内藤氏や清風荘の担当者と意見交換をした。
館内に導入した洗濯機・乾燥機や、本厨房、食器洗浄コーナー、ビュッフェレストラン「虹」も内藤氏の解説とともに視察した。
□“清掃・リネンはフロア完結型” 現場責任者と参加者が意見交換
セミナー2日目は、清風荘の現場責任者と参加者との間で約2時間、質疑応答が熱く行われた。
中隆太支配人は「内藤先生と改革を進めていくなかで、今は全社員が同じ方向に進んでいる。一般社員は当初、『生産性向上って何?』という感覚だったが、ムダを省き、利益を上げ、分配原資を作ることで、皆に還元されるという考え方が浸透している」と語った。
中村淳太郎総料理長は「料理は美味しくて当たり前、美味しさの上に楽しさがある『楽味』を若いスタッフにも伝えながら作っている。楽しさには人の温かみが必要で、マイクパフォーマンスや板前が目の前で作り立ての料理を提供する『劇場型ビュッフェ』をテーマにしている」と紹介。
食材の仕入れについて中村総料理長は「できるだけ業者さんや生産者さんに値切らないようにしている。言い値で買うと、お互いに信頼関係が生まれ、結果的に良い食材を納品してくれる」とメリットを挙げた。
田﨑裕之内務課長には、客室清掃や、リネンの洗濯内製化における作業工程などについて質問が集中した。
洗濯のタイムスケジュールは、午前8―9時まで早朝の大浴場から出てきたバスタオルを、脱衣場の清掃をしているパートスタッフが回収し、館内で洗濯・乾燥して脱衣場に戻す。10―午後7時までは客室のボックスシーツを回収し洗濯する。
ボックスシーツは前日洗濯・乾燥したシーツを6階に持っていき、はがしながらベッドメイクする。その間に洗濯した6階のシーツを5階に持って行って順にフロアごとにベッドメイクすると説明した。清掃の工程は、1部屋完結型ではなく、チームによるフロア完結型。「リネンの内製化をしたため、最初にシーツの回収をしなければならない。それに合わせてベッドメイクをするので、清掃の前にベッドメイクが入る。その後、床回り、水回りの清掃が入り、最後にセッティングを兼ねて点検が行われる。1部屋完結型だと道具も客室分そろえなければならない」と述べた。
人の配置についての質問には「以前はスタッフが得意な作業を担当していたが、不慣れな人に変わると失敗もあった。今は誰がどの作業に当たっても変わらないように回している。総合営業部から来る若い社員はすべてできる」と答えた。
内藤氏は「ベッドメイクが早く終わると、次のフロアに行かずに遅れているところに入って手伝う。これによってスピードアップし、業務の標準化・平準化に良い効果を与えている」と語った。


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