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【特集 No.679】清風荘(あわら温泉) 清掃・洗濯の内製化で給与アップ

2026年5月1日(金) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士の内藤耕氏が、その人気の秘訣を探っていく対談シリーズ「いい旅館にしよう!」は、今回からシリーズ4(Ⅳ)となる。その1回目に、福井県・あわら温泉「清風荘」取締役の伊藤将太氏が登場。「雇用条件を良くしていくには、清掃・洗濯の内製化とマルチタスクは必須」と語る伊藤氏と、「客室案内と清掃の一体的な改革」の必要性を説く内藤氏が熱く語り合った。

【増田 剛】

清風荘 取締役 伊藤将太(いとう・しょうた)氏

 伊藤:東京の大学在学中に起業し、そこから10年ほど人材斡旋の仕事に携わっていました。コロナ禍後の30歳を機に起業した会社を畳み、幼いころから親しんできた実家が営んでいる福井県・あわら温泉の清風荘に入社しました。23年4月のことでした。

 当時の清風荘の新卒社員の採用条件を見ると、高卒者の初任給は17万3千円でした。旅館業界は大体そのくらいの水準でしたが、少なくとも旅館として「今後は賃金や休暇・休日といった労働条件で選んでもらえるような企業にしよう」との想いがありました。

 それを具体的に実現するため、どこの旅館も全面的に外注して多額の現金を外部に支払っている清掃やリネン類の洗濯、食材調理といった業務を完全に内製化し、その現金を内部で回せるようにする“大改革”に取り組み始めました。

 当館は最大150室ありますが、正社員は約70人と、そもそもかなり少ないと思います。労働生産性を上げながら、これら外注業務の内製化を同時に進めていくには、社員たちが積極的にマルチタスクを進めていく必要があります。

 ――宿に入っての印象はいかがでしたか。

 伊藤:清掃や洗濯、調理補助、フロント、接客、レストランなどの縦割り化された専門部署を、組織改革によって、全業務を担う「総合営業部」という部署に統合していましたが、問題は、この組織の「縦割り意識」が社員一人ひとりの中に強く残っていたことです。

 マルチタスクを進めるうえで、一番の課題が担当以外の業務を行う「応援」という言葉で、空いた時間に「ちょっと手伝っている」という感覚が現場に強く根付いていました。

 会社として「必ず給与を上げるし、中抜けもなくなる」からと労働条件を改善することを強く説明しましたが、正直なところ上手く伝わらず、残念なことに内製化に取り組み始めてからの1年以内はスタッフが辞めていくこともありました。

 そこで掛け声だけでなく、マルチタスクによる内製化が始まってすぐに給与をアップすると、新卒社員が5人入社しました。そのスタッフがさらにマルチタスクを進めてくれたおかげで、もう一段階給与水準を上げることができるようになりました。

 今は一般的な旅館よりも2万円ほど高く、休日数は108日プラス有給休暇。この労働条件の改善により、25年は10人の新卒社員が入社してくれました。さらに、現在、在籍する社員は最初からマルチタスクを理解したうえで入社しています。

 これにより、多くの若い社員が内製化された清掃や洗濯の業務を毎日現場で担うようになっていることで、労働生産性も改善して利益水準も上がり、賞与は旅館業界の中でもトップ水準の4カ月分を出せるようになりました。

 ――シフトについて。

 伊藤:例えば午前中に出社したスタッフは、朝食やチェックアウト業務のあと、客室の清掃に向かいます。午後出勤では、清掃後に休憩してチェックインの対応やレストランに入ります。これらシフトはパターン化され、これまでの労働生産性向上に向けた現場の業務プロセス改革のおかげで、お客様がいるところに最も人数を厚くできるようになっています。逆に、お客様のいない時間帯には、バックヤードでの清掃や洗濯だけでなく、仕込みなど調理補助も行います。

 ――洗濯の内製化に着手したのはいつからですか。

 伊藤:23年6月からまず清掃を内製化して、11月に洗濯機が届き、バスタオルからスタートしました。半年後から部屋着となる作務衣を、そして今はシーツ類の洗濯に取り組んでいます。

 旅館単館の規模でプレス機を導入するとコスト高になるだけでなく手間も甚大になるので、生地メーカーと協力してプレスを掛けずにしわのできにくい作務衣やシーツを導入しています。とくにシーツ類は、ポリエステル素材で伸縮性があるため、ベッドや布団類に掛けるとしわが伸び、耐久性も高い素材です。

工学博士 内藤耕氏

 内藤:逆に糊付けやプレス(アイロン掛け)しないことから、シーツ類の形状の自由度が高まります。「フィットシーツ」と一般的に言われていますが、ベッドにシーツを乗せるだけなので作業負担が大幅に軽減できます。プレスしないメリットをいかに最大化するかがポイントになります。

 清風荘では清掃の最初にシーツをはがして、そのまま洗濯、乾燥する。極端に言えば、使ったシーツを同じベッドに戻す。そうすることで、きちんと「畳む」や、まとめて「保管」といった作業を減らすことができます。保管枚数を極限まで最小化できれば、「今日何枚シーツを準備すればいいか」といった枚数を数えることもなくなります。当然、数を管理する事務作業がなくなり、洗濯工程は身軽になって労働生産性も上がっていきます。これに、畳んで保管する作業が入ってきますと現場の作業工程は複雑化して、ミスが多く発生することで人手も必要となり、労働生産性が下がって企業業績も悪化させていきます。

 ――全客室でシーツ類の洗濯の内製化をやられているのですか。

 伊藤:シーツ類の洗濯は昨年9月から始めたばかりなので、試験的にベッドの客室40室のシーツから着手し、今年に入って敷布団のシーツも始めたところで、こちらも40室です。現在洗濯機と乾燥機は2台ずつですが、シーツ類を全面的に洗濯しようとすると、さらに洗濯機と乾燥機の導入が必要になっていくかもしれません。

清風荘では洗濯機と乾燥機がそれぞれ2台ずつ稼働している

 内藤:洗濯機や乾燥機を館内に導入するには、機械自体が重たく搬入経路が制限されます。下水管が近くにあることや換気設備も必要で、火器の安全性が確保されていることも条件となり、既存の旅館施設への導入には多くの制約が伴います。

 伊藤:清風荘では本厨房の隣に団体客向けにご飯を炊くスペースがありましたが、個人客の増加でデッドスペースになっていました。そこに洗濯機と乾燥機を2台ずつ設置して1日16時間稼働しています。

 朝から昼にシーツ、午後からは作務衣、夕方から朝にかけてはその日使ったタオル類を洗濯しています。専属のスタッフはいません。マルチタスクで30分ごとに洗濯機から隣の乾燥機に入れ、清掃が終わったスタッフなどが、設置したテーブル台の上に簡易的に積んで置くという流れです。

 ――タオルの枚数は外注していたときよりも減りましたか。

 伊藤:客室には新品のフェイスタオルを置いていますが、バスタオルは大浴場にまとめ置きしています。外注していたころはバスタオルの使用枚数が増えると、その分コストが上がりましたが、自分たちで洗濯しているのでコストの心配はなくなりました。当館では宿泊客1人に対してバスタオルを平均2・8枚使う計算で、外注していたバスタオルだけでも月に200―300万円のコスト削減につながっています。

 内藤:タオル類の洗濯を外注すると、通常のサイクルでは4―5日分の在庫が必要になります。これを夕方に使用したタオルを夜に洗濯して、翌朝使ったタオルを昼にこまめに洗濯することができれば、たとえ300人以上のお客が1人平均2・8枚使ったとしても、必要枚数の半分で足りる計算になり、保管の手間も減らすことができます。

 ――今後の予定については。

 伊藤:今は敷布団のシーツに取り組んでいますので、これから掛布団のシーツと枕カバーに着手します。

 内藤:掛布団はお客が直接目に触れる部分のため、乾燥機から取り出したあと、できるだけ丁寧に扱って客室まで運ぶなど、しわの管理に工夫が必要ですが、作業自体は単純です。

 現状でも冷静に見ると、洗濯業者によって洗濯された掛布団にもそれなりのしわが寄っています。すべてに一長一短はあり、現場ではどの長所を取り、どの短所を割り切るかの判断が大事だと考えます。

 これまで洗濯の内製化を旅館で議論するとき、どこでも共通しているのが、現場で働いている清掃スタッフにとって業務量が増えるにも関わらず、むしろ内製化を「早くやりたい」と言ってくることです。「単に作務衣やタオルもいいけど、早くシーツを内製化してほしい」と話します。ベッドメイクが1人でできるようになるだけでなく、肉体的な負担の軽減が決定的に表れます。現場にいるからこそ作業がラクになるのが分かっているからでしょう。

 ――清掃を内製化した効果は。

 伊藤:一番大きいのは自社でPDCAサイクルを回せることです。一定数の清掃の不備は常に出るものですが、それに対する対策方法が、外注の場合には「また髪の毛が残っていました」と業者に伝えるしか術はありません。

 しかし内製化によって、髪の毛が残っていた原因の追求が可能になり、清掃の業務フローの見直しがいつでもできるようになりました。

 内藤:外注に任せていると、犯人探しや責任追及というマイナスの作用を生む行動に奔りがちです。そうすると現場は萎縮して問題を隠蔽する悪循環に陥ります。 

 伊藤:そこで当館では「客室のドアを開ける」といったところから、具体的な行動に基づくマニュアルを作成して、清掃を担うすべてのスタッフにそのマニュアルに沿って清掃することを徹底しています。初めての人でも清掃ができるように、一人ひとりの能力に帰属した清掃の品質に陥らないよう、業務フローの単純化・標準化にも取り組んでいます。日々、改善がなされるので、文書による箇条書きと写真で示していますが、いずれ動画でマニュアルを作りたいと考えています。

 不備が発生した際は、犯人探しと責任追及を行うことなく、マニュアルのどこに不備があるか、またはマニュアル通りに清掃ができていないかのどちらかに原因があると考えますが、基本的にマニュアルを疑うようにし、その改善方法を徹底的に会社全体で考えるようにしています。このようにすることで、例えば冷蔵庫に前日のお客様のモノが残っていた場合、「冷蔵庫の清掃方法を見直そう」となり、結果として問題が発生するたびマニュアル自身が進化していきます。このPDCAサイクルを構築できたことが大きな成果だと捉え、これにより清掃の不備は清掃の内製化を始めてから激減しています。

 ――作業の単純化の過程でやめたものは。

 伊藤:数多くあります。細かなことですが、福井は雨が多いので各客室の玄関に傘立てを設置していましたが、撤去しました。座卓や座椅子もなくし、ゴミ箱も1つに減らし、ゴミ箱には袋もかけていません。お茶菓子も、アメニティも客室に置かず、モノを一つずつ外し、日々の各客室の各種セッティングを客数や属性、性別によって変えることなく、客室にあってもその数は出す座布団でさえも定数化していきました。クレームが起こるのではないかと心配もありましたが、評価点数はむしろ上がっています。

 内藤:清風荘の現場の考え方はとてもシンプルです。すべてのお客様の客室案内を行うことで、お客様が求めているものは客室案内のスタッフがすべて案内時に提供する。客室から撤去した茶菓子は、ロビーのウェルカムラウンジに集約し、飲み放題・食べ放題にし、それらを自由に客室に持って行けるようにもしました。

 客室案内の手間が掛かると思われるかもしれませんが、逆に事前の準備もなく、またお客が求めていないものは一切やらないことを徹底することで、「お客様の満足」と「業務の効率」の二兎を得ています。

 つまり、1人のお客が髭剃りを求めると、全室の男性客の数を数え、帳票を準備し、それを清掃担当のスタッフに渡して、数をそろえ、間違えるといけないからさらにチェックにも入る。これでは手間が掛かり過ぎ生産性も上がりません。そうではなく、「髭剃りは必要ですか」と客室案内時に直接お客に聞けばいい。大浴場に置いてあるが、客室で必要ならばその場でお客に直接手渡せばいいだけの話です。

 お客に寄り添うことが大事なサービス業なのに、全員に等しく提供することによって、寄り添うことをやめてしまっています。チェックイン前の多くの事前準備作業をやめることによって、お客のいるところにサービス提供を集約していくことが大事です。

 伊藤:唯一、洗面台のコップを清掃時に洗うのが大変なので人数に関わらず、定数2にしたところ、多くの“お小言”がありました。クレームというよりも、「3人なのに2つしかなかった。忘れていましたよ」というトーンです。このため、コップは食洗機ですべてまとめて洗うように変更し、定数4に増やしました。それでもあまり使われてはいません。

 年に1―2回は「客室にお茶菓子がない」という声もありますが、その代わりウェルカムラウンジを充実させたために、費用対効果と満足度も上がり、大きな効果が見えています。

 内藤:旅館で働く人は「クレーム」をとても気にします。先ほど「お小言」という言葉を使われましたが、お客が単に不備を良かれと思って旅館側に伝えてくれただけなのに、旅館側が「クレームだ、どうしよう」と過剰反応してしまうケースも見られます。過剰反応せずに、二度と起こらないための改善に努力することが大事だと思います。

 ――一部屋を清掃する時間は。

 伊藤:全清掃に要した労働時間を部屋数で割ったデータを日々モニタリングしています。内製化した当初は50―60分かかっていましたが、今は38分まで短縮できるようになっています。シーツの洗濯を完全内製化できると、シーツ掛けがラクになり、作業負担が大きく減るので、最終的に30分を割るところまで持っていけるのではないかと思います。

 清掃方法はフロア単位にまず1部隊が各客室の布団を上げ、シーツ類を回収していきます。次の2つの部隊がそれぞれ追い掛けるかたちで床や水回りの作業を各客室で進め、終わったところが遅れている部隊に入り、最後に客室のセッティングを行っていきます。

 1人だと見落としが発生してしまうので、一つの客室にたくさんのスタッフが入り、例えば金庫や冷蔵庫一つでさえも、それらの清掃に複数人が関わることで清掃の取りこぼしをなくしていくことを目指しています。

 内藤:客室係が自分の担当する客室を1人で仕上げていくというやり方もありますが、スタッフそれぞれのちょっとした癖が出て清掃の不備を作りやすくなりますし、スタッフ個人の生産性が会社全体の生産性を作ってしまうことになります。

 清風荘がフロアごとに客室を仕上げていくやり方にしている理由の1つに、シーツの洗濯内製化には、真っ先に全客室のシーツをかき集める必要性があるからです。

 伊藤:冷蔵庫一つに4人の目が触れる工程になっており、これだけあれば冷蔵庫にモノが残らないと思うのですが、それでも稀に残ってしまう。なぜ出てくるのか、どうそれを潰していくかという議論は日々終わることなくずっと続いています。

 ――スキマバイトを入れていますか。

 伊藤:繁閑差が大きい旅館は長期のアルバイトを抱えることは難しい。社員数を閑散期ベースに抑え、年末や夏休みなどの繁忙期にはスキマバイトが適しているので活用しています。しかしその日しか来ないゆえに何も分からない。だからこそ誰でもできる仕事を用意しています。具体的には、レストランの下膳や、布団を片端から上げてシーツを洗濯場まで持っていくなど、技術を教えなくてもできる業務です。

 内藤:清風荘はフロアごとに複数のスタッフが部隊を作り客室清掃していますが、常に社員が近くにいるので、当日初めてのスタッフでも上手に業務に取り組むことができる利点があります。

 「教育はとても大事」と言われますが、教育するということが、既に「業務が複雑だ」と認めていることになります。教育しなくていいように業務を単純化することが大事です。

 伊藤:4月入社の新入社員は12月にはフロントや清掃、調理の仕込み、レストランもすべてできるようになります。理想形は個人に帰属しないタスクにすることです。マルチタスクを含めたマニュアル化も、その人でなくてはできない仕事を減らすためです。

 ――トラブルへの対応は。

 伊藤:何か問題が発生した際に、お客様のチェックアウト時にフロントがそれを知っていることがとても大事で、最終的なケアをしています。

 内藤:放っておかれるからクレームになりやすい。清風荘では実質的に多くのお客がオールインクルーシブで宿泊されていますが、会計精算がなくてもあえてフロントがカギをチェックアウト時に受け取るようにしています。このことによって、トラブルがあってもお客が帰る最後に挽回できる機会を作っています。

 これまでの労働生産性向上に向けた現場の業務フローの改革で、チェックイン時や客室案内、レストランなど、顧客接点を数多く設定してきたことが、お客様の口コミ評価アップに大きく貢献してきました。

 伊藤:その部分が当館の勝負どころだと考えています。バックヤードはできるだけ簡素化して、「ビュッフェと接客で勝負する」ことを明確にしています。

 ――劇場型ビュッフェ「虹」は清風荘の大きな特徴となっています。

 伊藤:出来立ての料理のアナウンスや、さまざまなパフォーマンスでエンターテインメント性が高い「劇場型ビュッフェ」として、お客様が「調理しているところを見ることが楽しい」と思わせる数多くの仕掛けをしています。

 この劇場型ビュッフェ「虹」では、色々な料理を作り立てで次から次に出しているため、「こまめに料理を取りに行ってほしい」との想いがあります。また、お盆を使わないのは、一度にたくさん料理をまとめて取って食べきれず残してしまうと、フードロスにつながり、食材原価が上がるだけでなく、下膳の手間も上がるからです。

 事前に確定したメニューはありません。メニューを固定化すると季節外れでも無理して仕入れる必要が出て食材原価が上がります。極端に言えば、その日の仕入れがその日まで分からなくても、例えば、その日に入ってきた旬の魚であれば美味しくて安い。それをビュッフェ会場で捌いて刺身だけでなく、寿司やマリネといった色々な料理にして提供します。

 フードマイレージの短い地元産の旬の魚や野菜といった食材を調理することで、仕入原価が大幅に軽減できます。

 今では、調理人が交代で市場に行き、その日に仕入れた食材を使って調理する料理をその場で考えるようになりました。

劇場型ビュッフェレストラン「虹」

 内藤:メニューから仕入れるのか、仕入れた食材からメニューを作るのかで、考え方が180度変わります。メニューから仕入れると、高くても仕入れせざるを得なくなる。仕入れたものから作ると、原価コントロールをしやすくなります。

 「原価が高い」と厨房に不満をぶつける経営者もいますが、メニューが決まっていれば現場では打つ手がほとんどありません。そうすると業者に無理を言うようなことも起こります。

 伊藤:宿に入って2年間でムダな備品や作業が減り、仕入原価もより管理できるようになり、外注費が大きく減りました。お客様の評価と利益が上がって社員の給与水準が大きく上昇しています。

 今の時代は、理念ややりがいだけでは人は動かない。宿の経営方針を説明し、具体的な働き方のマニュアルを作成し、さらにPDCAを回すなかで現場の一人ひとりが徹底して考えて改善を進めています。

 旅館業界で圧倒的に労働条件が良いことを理由に選んでいただいているので、私が採用したスタッフは3年間で1人もやめていません。

 このように労働条件を良くするには、少なくとも内製化とマルチタスクは必須です。バックヤードの改革が一番シンプルで、今できることはそれしかありません。

裏方は“創意工夫”必要な知的な業務

 内藤:清風荘で取り組んでいるように、実のところ客室案内と清掃、調理は一体的な改革が必要です。なぜならセッティングと案内、ウェルカムラウンジなどが一体化しているからで、それによって生まれた余力で付加価値の高い出来立ての料理をロスなく提供できるようになります。さらに、清掃係やサービススタッフがマルチタスクで働かなければすべてが回らない業務フローになっているからです。

 お客がいる瞬間というのは限られています。お客がいない、余った時間をどうするかというときに、社員のスポットワークを使ったマルチタスクという手法に行き着きます。すべての現場の業務がつながっており、一部の改革だけを行う「つまみ食い」では効果は限定的となります。そのうえでレストランや接客など、お金を生む現場にスタッフをできるだけ増やしていくことが大事になります。

 このように、清掃や洗濯、そして食材仕入れに始まる調理補助などに代表される旅館の裏方業務は、「できて当たり前の地味な業務」としてこれまで位置づけられることが多かったと思います。しかし、清風荘では実際の現場でPDCAを回すことで、徹底した改善を通じてこれら裏方業務の方法がどんどん進化し続けています。そうすると、これら裏方業務がとても「創意工夫が求められる知的な業務」となり、だからこそ多くの若いスタッフが意欲的に取り組んでいるのだと感じます。

 現在の人件費の高騰や物価高が続いている社会状況を考えれば、より多くの人手と材料を使っている業務の外注経費も並行して同時に高騰することとなります。したがって、清風荘がこれまで実際の現場でやってきたように、これら外注業務をより内製化することで、日々流出している多くの資金を少しでも止血することが喫緊の経営課題となります。

 これを実現することにより、人手が掛かっていない、より「生(なま)」に近い原材料をより多く仕入れ、社内のスタッフの人手で自ら加工度を積極的に上げていくことで、サービスの高付加価値化を実現できるだけでなく、顧客満足も合わせて上げつつ、最終的に流出している一般管理費を社員に分配することで賃上げも可能となります。

 このようにすることで、会社にとって必要不可欠な利益の確保と、社員の給与を含めた労働条件の改善が同時に実現し、会社と社員のウィン・ウィンの関係の構築から、より永続的な企業経営と雇用の維持も可能となります。

 ――ありがとうございました。

【本紙1970号または5月9日(土)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】

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