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「観光人文学への遡航(69)」 外交における観光・パラオから学ぶ③

2026年3月7日(土) 配信

 パラオは2015年から、中国からのチャーター航空会社が就航し、中国本土からの客数が一気に増加した。

 13年の統計では、日本が34%、台湾が24%、韓国が16%、中国が9%、米国が8%、欧州が5%で、この順位はそれまでほぼ変わっていなかったものが、15年では突然中国が初めて日本を抜いて28%とトップに立ち、日本は27%、台湾が21%、韓国が10%、米国が5%、欧州が4%となった。

 今までどんなに日本からの観光客が増えても年間4万人を超えられなかったのに、この年中国人観光客は一気に9万人を超えた。

 パラオの観光業界はこの中国の躍進に歓喜した。パラオの国旗をあしらった尾翼を持つチャーター機が次々に団体を送客してくる。そして、リゾートホテル建設の投資も進み、中国資本のホテル建設も始まろうとしていた。パラオの観光地はどこも中国人で活況を呈するようになった。

 パラオの観光業界が中国マーケットの旨味を十分に味わったそのタイミングで、中国政府は台湾との断交と中国との国交締結を求めてきた。

 もともとパラオは、新首都の建物を台湾からの援助で建設したりするなど、独立後から継続して台湾と良好な関係を築いてきた。その一方で、中国を敵視したりはせず、すべての国と良好な関係を築く尽力をしてきた。だから、中国からの観光客がにわかに増加しても、他国への対応と変わらず、島ならではのホスピタリティで歓待していた。

 それにもかかわらず、中国は台湾との国交を断つよう外交圧力をパラオにかけた。当然世論は二分された。とくに観光業界は、中国マーケットの旨味を知ったことで、親中派が増えていた。

 しかし、当時のトミー・レメンゲサウ大統領は、その強い外交圧力の前に一歩も引かず、台湾との関係を継続することを選択した。それは、どこの国も拒否することはせず、すべてにオープンな現状のままやっていくということである。

 事態が進展しないことに業を煮やした中国政府は、パラオにおける自国民旅行者の安全を保障することができないとの理由で、17年11月にパラオ行きのツアーをいきなり禁止とした。それだけでなく、中国資本で建設が進んでいたリゾートもそのまま放置された。その結果、18年は中国からの観光客は5万人へと激減した。

 観光への打撃だけでなく、中国人とみられるハッカー集団からの執拗なサイバー攻撃も受けることになった。大きな経済的打撃を被ったにもかかわらず、レメンゲサウ大統領はひるまず、観光誘客は一国に依存するよりも多様な国から受け入れたほうが望ましいと国内外にアピールした。

 世論は分断されたまま、20年、コロナ禍が世界を襲い、国際観光がストップすることになる。

 

 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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