観光庁「地域・日本の新たなレガシー形成事業」活用した大山阿夫利神社の挑戦 文化財を利用した新たな地方誘客へ

2026年2月2日(月) 配信

鼎談は1月16日に大山阿夫利神社で行われた

 観光庁は来年度も引き続き地方誘客に向けて各地の訪日旅行の拡大をはかる。今年度、将来にわたって国内外から旅行者を惹きつけ、継続的な来訪や消費額向上につながる、地域・日本のレガシーとなる新たな観光資源を形成するための支援「地域・日本の新たなレガシー形成事業」を実施。観光庁の村田茂樹長官と同事業を活用する神奈川県伊勢原市の大山阿夫利神社の目黒仁宮司、内閣府地域活性化伝道師で跡見学園女子大学の篠原靖准教授が1月16日、文化財を観光資源として活用する価値を語り合った。

【木下 裕斗】

 篠原:2025年は、好調なインバウンド需要が一層拡大し、観光振興が進んだ1年となりました。26年度に向けた観光庁の方針を教えてください。

篠原靖准教授

 村田:25年11月末における訪日客数は24年を上回っており、25年は4千万人を超えることが確実となっています。(※25年の訪日客数は約4268万人「26年1月21日公表データ」)消費額は9月末時点で、6兆9千億円(※消費額は暦年で約9兆5千億円「26年1月21日公表データ」)と力強く成長しました。我が国の旅行市場の中心である国内旅行の消費額は25年1月から9月期の累計で20兆円を超え、順調に推移しています。

村田茂樹長官

 一方で、観光客が一部地域や時間帯に集中することで、地域住民の生活への影響などへの懸念も出てきました。今後は、観光客の受け入れと住民生活の質の確保を両立していくことに重点を置きながら、地域の課題解決や、地方誘客の促進などさまざまな政策を推進していきます。観光が地域住民に裨益していく姿、観光地が持続的に発展していく姿を国民の皆様に示し、理解してもらうことを念頭に置いて、取り組んでいきます。
 今年は、観光立国基本推進計画の改定を年度内に実施する予定となっています。このなかで、①インバウンドの受け入れと住民生活の質の両立②国内交流とアウトバウンドの拡大③観光地・観光産業の強靭化――の柱を掲げます。
 そのための財源として、国際観光旅客税を拡充することが昨年末の税制改正の大綱に盛り込まれ、26年度の観光庁当初予算額は約1383億円と大幅に増額されました。関係省庁とも連携しながら、政策を推進していきます。

 篠原:訪日旅行について、国は数だけではなく質も追求する高度化した受入体制を構築することになりました。住民との協調をはかる仕組みも整えることが重要です。
 一方、コロナ禍など過去の危機的な状況で、国内旅行は観光事業者を下支えしてきました。インバウンドとの両立をどのように推進していきますか。

 村田:インバウンドは成長分野ですが、まずは旅行者数と消費額の割合の多くを占める国内旅行の振興をはかり、安定した基盤を築き、そのうえで訪日客向けの施策を進めていきたいと考えております。

 篠原:文化庁では、真の日本の魅力を訴求するため、多くの予算を確保しています。

 村田:日本各地の文化資源を活用した観光客の誘客のため、文化庁の事業として、約200億円が計上されました。観光庁では、地域資源を活用した観光まちづくりを推進する事業や、広域連携DMOの支援事業など地域の関係者同士が連携して、魅力ある観光地づくりを行うための予算も充実させています。さまざまな事業が活用され、各地域で積極的な誘客が行われることを期待しています。

 篠原:大山阿夫利神社は、日本観光の起源といわれます。約2200年の歴史を有する江戸庶民の信仰をベースに〝憧れの旅〟の目的地として繁栄し、日本の文化の発展に大きな役割を果たしてきました。

 目黒:大山阿夫利神社は、2200年以上前の崇神天皇のころに創建されたと伝えられている式内社です。

目黒仁宮司
目黒仁宮司

 また自然崇拝の元祖でもあります。山にかかる雲を眺めて、雨を予想し、農作業の日程を調整したりしていました。この雲による雨は飲料水や海の漁場の環境を整えることから、大山は日ごろの恵みに対する感謝を示されていました。
 古来では別名「あめふり山」とも呼ばれ、雨乞いや五穀豊穣の祈願の対象でした。武運が長く続くよう、源頼朝公が当社に刀を納めたことから「納太刀」という風習も生まれました。
 庶民からの崇敬も厚く、江戸の人口が100万人だったころには、年間20万人を超える人々が大山詣りを行ったと記録されています。さらに、参拝者は日々の感謝の気持ちとして、食料を収めることもありました。現代では、金銭に変わっています。
 こうした史実が重なり、1つの山にすがる文化が築かれました。

鼎談前に行われた視察で披露された宝物

 篠原:このような文化を後世に継承することの価値は高く、将来への伝承に当たって、観光は分かりやすく文化を伝える手段であり、価値があります。

 村田:山岳信仰は現代にも引き継がれています。さらに大山阿夫利神社には、先導師が参拝者に提供する宿坊や納太刀などの文化を知ることができる観光素材が多くあります。こうしたなか、大山詣りは2016年、我が国の地域の風土に根ざし世代を超えて受け継がれている、文化などを認定する日本遺産に認定され、さまざまな観光資源の一層の充実がはかられています。
 今後、多くの人を惹きつけ、文化的価値を認めてもらうことが、伝統を後世に引き継いでいくことにつながります。

 目黒:文化の継承については非常に難しく、悩みを抱えています。宿坊は明治―昭和ごろに、100軒以上ありました。現在は40軒ほどまで減少しています。地域の最大の課題である後継者不足を解決するため、宿坊の主人であり、参拝のお世話をする先導師を魅力ある職業に確立する必要があります。神前に奉納する伝統文化「神楽舞」の継承も欠かせません。

 篠原:生まれ育った地域に住み続けたいと思っても、安定した収入を得るのが難しいため生活できないと感じ、都市部に移り住む人も多いなか、各地の素晴らしい地域ならではのレガシー(遺産)を活用できる体制を整備する必要があります。
 観光庁では、「地域・日本の新たなレガシー形成事業」を展開し、将来にわたり国内外から旅行者を惹きつけ、継続的な来訪や消費額向上につながる地域のレガシー(遺産)となる新たな観光資源を形成することを目的に支援を行っています。大山の宿坊の再生と文化財登録を目指す「江戸から令和、そして未来へ ~令和版大山詣り~甦れ! 宿坊『源長坊』再活用事業」が、24年度にこの事業に採択されています。

 目黒:大山の宿坊は廃業によって空き家化が進行していることを受け、観光庁のこの事業を活用し、廃業した宿坊「源長坊」を登山者の休憩と大山ならでは歴史的体験を提供する施設としての活用に向け検討しているところです。大山全体の観光の拠点として機能させることを目指します。
 さらに、近隣の宿坊や店舗、歴史的スポットなどと連携し、観光客の周遊ルートを形成することで、地域全体の振興をはかっていきます。
 結果として日本の新たな象徴的観光地の拠点となることも目指します。

 村田:観光庁では、地域の観光資源を生かした地域活性化を支援する施策を講じています。大事なのは、観光庁の事業への応募によって、地域の方々がそのエリアの将来を考えるために集まることです。大山については、活気に満ちていた宿坊を現代で活用するための議論の場を提供することになります。
 一度に意見をまとめるのは難しいものの、丁寧な議論を重ねることで方向性が定まっていくものと考えます。地域の課題は共通なので、リーダーが具体的な計画を示したうえで、メンバーのサポートや、必要に応じて計画を修正し、合意形成をはかっていくことが重要です。
 源長坊は地域の拠点として情報を発信することや、観光の目玉になるポテンシャルを有しています。将来、新たなファンやリピーターの獲得につなげてほしいと思っています。

 篠原:長い歴史を有するレガシーのカタチを変えずに受け継ぐことは難しいなか、歴史を守りながら、時代に沿ったアイデアで消費者のニーズに応えた商品を造成することが、持続的な伝承の可能性を高めることにつながります。

 村田:新たなファンやリピーターを獲得するには、名所や景観の良さだけでなく、歴史的背景を伝えることが重要です。地域では気づきにくい価値や魅力を掘り起こすため、外部事業者ならではの視点やノウハウも活用してほしいと考えています。

 目黒:宿坊に行き、白装束を着て、編み笠をかぶりながら、大山に登ることが大山詣りの原点でした。観光客がガイドから大山詣りの歴史的背景を聞きながら山を登り、頂上で美しい眺望を楽しむ一連の体験を造成できれば、地域ならではの大変魅力的な観光商品になります。この企画の運営には地域外の協力も欠かせません。

 篠原:大山地域では日帰り観光客が多く、滞在時間が短いことが課題です。観光庁の「地域・日本の新たなレガシー形成事業」を活用して宿坊を再生し、宿泊需要のある訪日外国人など新たなマーケットの開拓を含め、地域観光のさらなるステップアップをどのように進めていきますか。

 目黒:地域らしさを体験に盛り込むため、宿坊のスタッフが一緒に同行するなど、地域の人が観光客とコミュニケーションをはかれる企画の展開を計画しています。

 篠原:観光庁はこれまで、地域・日本の新たなレガシー形成事業をはじめ、観光資源を活用した地域活性化のため、さまざまな支援を行ってきました。今後、さらなる地域の発展に向けて、どのように取り組んでいきますか。

 村田:我が国の観光地の魅力を高めるためには、既存の資源に付加価値を加えるとともに、魅力を効果的に発信していくことが重要です。こうした取り組みを進める過程で、地域の人々が話し合いを重ねることは、郷土愛の醸成にもつながります。
 観光庁は今後も、観光資源の魅力向上に必要な予算の確保やアイデア創出、体制構築などを支援しながら、観光を通じて地域住民の幸福度も向上する地域づくりを進めていきます。

 目黒:神奈川県伊勢原市の大山地区は6町から構成され、人口は1千人以下である一方、年間100万人ほどの観光客を迎えています。行政や観光事業者などとの連携を強化することで、伝統と住民の生活の質を維持しながら、大山への登山を含む大山詣りなどの観光体験の提供を通じて、さらなる地域活性化をはかりたいと考えています。

 篠原:さらなる誘客には地域内の連携を強固にしたうえで、取り組むことが不可欠です。観光庁の事業を通じて、さまざまな事業体や行政、市民など地域の関係者が協議を重ねて、地域の方向性をまとめることが、持続可能な観光地域づくりにつながります。
 多くの地域が観光庁のさまざまな支援策を活用し、一層の発展を遂げることを期待しています。

来年度の地域・日本の新たなレガシー形成事業の概要。詳細は観光庁ホームページ掲載される

〈旅行新聞2月1日号コラム〉――宿の真の実力 メンテナンス業務を自分たちで担う

2026年2月1日(日) 配信

 本紙1月1日号(前号)の新春特集で、「清掃・洗濯の内製化」をテーマに、工学博士・内藤耕氏のインタビュー記事を掲載した。これにあわせて、宿の経営者らに「清掃や洗濯の内製化」について話を伺った。すると、口をそろえて「外注コストの高騰に頭を悩ませている」と話された。さらに、「自館で洗濯の内製化を検討している」という声も幾つか聞かれた。

 物価高騰や人手不足の問題が、宿泊業界の現場に大きな影響を与えており、多くの宿泊施設ではIT化やDX化を進め、コストの削減に努めている。

 例えば、予約やチェックイン・アウトは人を介さずタッチパネルやスマートフォンで行われる施設が増えた。浴衣やアメニティグッズは、フロント近くのスペースから宿泊者が必要なものを客室に持参する。最近の傾向として、宿泊料金システムの「オールインクルーシブ」化によって、ラウンジにアルコールやソフトドリンク、お菓子やおつまみなどが並び、夕食後もコーヒーやデザートなどを楽しめるようになった。ラウンジだけでなく、大浴場近くでは冷たいハーブティーやアイスクリームなどもフリーで提供される。

 宿側はモニターなどで確認しながら補充すればよく、少人数での対応も可能となる。宿泊客にとっても、滞在中にいつでも自分の好きなものを気軽に飲食できるため、その自由度の高さから満足度も高い。このようなスタイルは今後もさらに増えていくことが予想される。

 しかし問題は、宿泊業にとって宿命的に必要な客室の清掃と、タオルやシーツ、浴衣・作務衣などの洗濯である。これはいくらIT化やAIが進展しても、省人化は難しい。東京都心のある大型ホテルでは、客室清掃が間に合わず、夜間に清掃をせざるをえず、宿泊需要はあるのに相当数をクローズしなければならないことも耳にした。極言すれば、今や清掃や洗濯業務を上手く機能させることが可能な宿のみが運営を維持できる時代になったことを感じる。

 先日、神奈川県・箱根の旅館に取材で訪れた。この宿はスタッフが増えたため、社員寮を1棟拡充した。その社員寮内に業務用の洗濯機と乾燥機を備え付け、自社が運営する2館のバスタオルやフェイスタオル、作務衣などを洗濯している。

 以前は外注していたが、稀に生乾きの匂いなどのクレームがあり、それであれば「自分たちで洗濯した方が高品質を保つことができる」と決断した。将来的には自社の宿だけでなく、近隣宿泊施設の洗濯業務を請け負うことも視野に入れている。

 この宿は、パティシエの手作りした洋/和菓子を各客室に置くサービスが、とても好評だという。バースデーケーキも自館で作り宿泊客の誕生日を祝う。ケーキも近隣のホテルや旅館に販売することも計画中だ。

 高付加価値化事業が進む旅館・ホテルの宿泊料金は軒並み高くなった。高価格帯のラグジュアリーホテルも増えた。しかし施設の素晴らしさに頼って、人の温もりが希薄な宿には虚しさが漂うのはなぜだろう。人が試行錯誤を繰り返すなかに“見えない力”が蓄積されていく。その力とは、地道なメンテナンス業務を外部に丸投げするのではなく、可能な限り自分たちで担うことではないか。宿への“想い”も培われる。これこそが宿の真の実力なのだと最近強く思う。

(編集長・増田 剛)

【特集 No.676】下呂温泉の誘客 “観光は地道な取組みの繰り返し”

2026年2月1日(月)配信

 2024年度、岐阜県・下呂温泉の宿泊客数は5年ぶりに100万人を超え、コロナ禍からV字回復した。25年度も昨年12月末までに74万6229人(前年同期比99.9%)と、昨春の大型施設リブランドに伴う休館や中国の訪日自粛があるなか、100万人を超えるペースで集客している。実績の華々しさとは逆に、下呂温泉観光協会の瀧康洋会長(水明館社長)は「誘客は、地に足のついた地道な取り組みの繰り返し」と語る。下呂温泉で実践する誘客について、瀧会長に聞いた。

【営業統括部長・鈴木 克範】

国内団体の誘客に注力

 ――下呂と言えば、緻密なマーケティングに基づいた誘客です。始めたきっかけは。

 マーケティングに本格的に取り組むようになったきっかけは、2011年の東日本大震災です。社会全体が自粛ムードに包まれた結果、団体旅行のキャンセルが相次ぎました。危機感を感じた私たちは、発災直後に行政、観光協会、旅館組合、商工会が合同で、緊急会議を開きました。このとき最初に行ったのが、中小の旅行会社やOTA(オンライン旅行会社)からの情報収集です。並行して「地域を盛り上げるために何ができるか」を議論しました。

 スピード感を持って動けたのは、「観光が地域にとって大きな産業」という共通認識があったからです。会議では「不安や疲れを感じている人たちにとって、温泉が心身のリフレッシュになるのでは」という意見が出ました。そこで、多くの観光地が慎重な姿勢を続けるなか、「今こそ温泉に浸かり、心身を癒してください」というメッセージを、いち早くテレビやラジオで発信しました。イメージだけでなく「震災復興応援」と題した宿泊プランも造成しました。

 一連の取り組みで、3月の発災からわずか2カ月後には、宿泊者数が前年同期を上回るまでに回復しました。一方、その中身は従来主流だった団体に代わり、個人客が大きな割合を占めるようになりました。この成功体験が、温泉街におけるデータ活用や定期的に会議を行う契機となりました。

 ――その後、どのような過程を辿りましたか。

 月に1度の「誘致宣伝委員会」を継続開催しています。メンバーは行政や観光協会、旅館組合、商工会など主要団体の関係者30人ほどです。議題は「現在の情報共有」と「今後のプロモーション」の2つです。全員で宿泊者の年齢層や旅行形態、交通手段などを共有し、具体的なプロモーションにつなげています。それまで個々に活動していた組織が同じ目標を見据え、誘客に取り組むことで、重複などのムダも無くすことができました。

 決めた方針に則り活動するなか、想定より集客が少ない、あるいは社会情勢に変化などあった場合は、翌月の会議で再度議論し修正を加えます。これを地道に繰り返すことで、24年度は年間宿泊者数が5年ぶりに100万人を超えるなど、温泉街は活気を取り戻しています。

 ――温泉街での食べ歩き企画「素肌美人スイーツ」も顧客ニーズを知ることから生まれました。

 きっかけは15年、観光客1万人に実施したアンケートです。温泉街に求めることとして、1位が食べ歩き、3位はスイーツでした。当時は温泉街でスイーツを提供する店がほとんどありませんでした。そこで「食べ歩き用スイーツ」をゼロから企画し、16年度に4店舗で販売を始めました。

 このプロジェクトでは、各店舗が開発した地元特産品スイーツを、持ち歩きしやすい透明カップに入れて提供しています。19年度には販売11店舗、売上も約6倍に拡大し、街の新たな収益と雇用を生み出しました。現在は12店舗で販売し、食べ歩きは温泉街の風物詩になっています。

 スイーツ開発のポイントは「街を歩いてもらう仕掛け」をつくれたことにあります。温泉街の回遊性が高まり、若者や女性グループを中心に飲食店や土産物店への立ち寄りが増加しています。観光客が街歩きを楽しむことで、商店街などで地元住民同士や住民と観光客の交流も活発化しています。新しく開業した店舗が住民向けの割引サービスを提供するなど、観光と日常生活が上手く共存するようになりました。

 ――24年度の国内プロモーションでは、遠方からの集客を伸ばしています。

 観光協会のホームページにアクセスした人の居住地をみると、47都道府県のなかで、21年に10位だった北海道が22年には6位、23年には5位と年々順位を上げていました。コロナ禍をきっかけに(近距離で旅行を楽しむ)「マイクロツーリズム」が注目されましたが、北海道から「行ってみたいという潜在需要」があるということが判りました。

 一方、地元客は中部圏から出ていく傾向も予測していました。この見立てに基づき、遠方に加重したプロモーションを行うことで、中部圏の集客は減りましたが、北海道や東北、関東、北陸、関西、中四国、九州・沖縄からの誘客を合わせると前年度比で2万人ほど増えました。結果、国内総計もプラスになりました。

 ――エコツーリズムの理念にDMOをプラスした「E―DMO」も下呂の特色です。

 地域の自然や文化、歴史といった資源を生かしながら、観光振興と環境保全を両立させたいという強い思いがE―DOM誕生のきっかけです。観光協会は、下呂市全体のDMOとして活動しています。そのエリアは下呂地区をはじめ、萩原、金山、小坂、馬瀬の5地区で構成されています。

 5つの地区は04年に下呂市として合併する以前は、別々の自治体でした。このため、住民の多くは近隣地区の観光資源を知らない状況でした。行政区分上は1つになりましたが、全体の活性化に向けては一致団結していなかったように思います。

 地域全体で旅行者に魅力的な資源を提供することで、地域が活性化し、資源も守られていくというエコツーリズムの理念を取り入れることで、全体の合意が得られると考えました。地元自治体や旅館組合、各観光協会・商工会などに声を掛け、16年9月に下呂市エコツーリズム協議会を設立しました。DMOとエコツーリズム協議会を融合させた取り組みが「E―DMO」です。

 ――取り組みでは住民が地域に誇りを持てることを目指しました。

 E―DMO最大のテーマは、市民に新しい観光資源「地域の宝」を発見してもらい、自らの暮らしに誇りを持ってもらうことでした。具体化するために取り組んだのが、18年度に実施した「宝探し事業」です。

 全市民を対象に「あなたが思う地域の宝」を推薦してもらうもので、実に1054人の市民が地域資源2714種類を発掘してくれました。地域の宝を活用したフェノロジーカレンダー(暮らし暦)や宝の地図を作成し、各地区が発表することで、連携や地域の誇りの醸成につながりました。

 旅行商品も開発しました。温泉以外の資源を掘り起こせたことで、「新しい下呂市の価値」が生まれました。市民向けには500円と低価格で参加できるワンコインツアーも催行し、地域の魅力を体験してもらいました。参加者にはアンケートに協力してもらい、事業改善に役立てたほか、ツアーの質を上げるため人材育成講座も開講しました。

 このほか24年度は、市民向けに観光が市の経済に与える影響や、観光にまつわるさまざまなデータを小中学生向けにまとめた冊子「ここがスゴイよ 下呂温泉郷」を発行し、全戸配布しています。

 ――官民連携も下呂の特徴です。

 観光振興には官民連携が不可欠です。双方が対等な立場で議論し合い、それぞれの強みを生かして補完し合うことが重要です。下呂温泉の場合、観光協会が民間主体であるからこそ、宿泊客の動向や飲食店の利用状況など、現場の動きを敏感に捉えることができます。

 一方、広域観光やインフラ整備などは、行政のサポートなくしては進まない局面もあります。民間が主体的にデータを示し、「なぜこれをやる必要があるのか」を明確に提案しながら行政を巻き込むことが重要です。

 行政が進める観光施策に対しても、やみくもに乗っかるのではなく、マーケットの動向を踏まえ、「効果が見込めるか」を見極めることが重要です。データを活用し、民間主導で行ってきたプロモーションが結果を残し続けたおかげで、「街づくりは行政で、誘客は民間に」という役割分担ができました。

 現在は、行政と民間が対等な立場で協力し合い、それぞれの強みを最大限に生かせるようになりました。民間が計画し、行政がそれをサポートする。そこに市民が関与し、互いを尊重しながら企画を練り上げていく。この流れは、多くの地域が学ぶべき観光振興の在り方だと思います。

 ――現在、注力していることは。

 全体の宿泊単価が漸減傾向にあることを受け、国内団体の誘客に取り組んでいます。

 25年4―8月実績ですが、宿泊単価が前年度同期比で88・5%と落ち込みました。1泊2食、1泊朝食、素泊まり、それぞれの単価は上がっているが、全体でマイナスになるのは、単価の低い1泊朝食、素泊まりでの受け入れ比率が増えているからです。

 このような傾向が続き、価格競争に陥ると、経営的に厳しくなるのは小規模の宿泊施設です。負のスパイラルは宿泊施設だけでなく、取引業者にも及び、やがて地域が疲弊することになります。

 昨年9月からは下呂温泉旅館組合が「団体受け入れリスト」を作成しました。会員の6割にあたる22施設が担当者名付きで、団体(15人以上)の受け入れを表明しています。旅行会社からは「問い合わせの段階で(団体を)受け入れているのか分からないことも多いなか、ありがたい」という声をいただいています。団体なので動いてくるのは少し先になりますが、「下呂温泉の姿勢」を旅行業界に伝えていきます。

 もう1つ。昨年11月から観光協会のホームページにAI(人工知能)を活用したモデルコース提案を実装しました。観光地情報をAIに学習させ、閲覧者が選んだ選択肢に応じてモデルコースを生成する仕組みです。旅の形態や好みなど、3つの項目それぞれに当てはまるものを選択するだけで、おすすめコースが示されます。

 イベントやグルメ情報など、ホームページ上のさまざまなコンテンツがあるなかで、「モデルコース」の閲覧が多いことから、旅行者側のニーズを加味した提案ができるよう、開発しました。「穴場」と「定番」、どちらが好きかを調整できるなど、遊び心も持たせています。

 ――最後にひと言お願いします。

 観光協会では現在、地域内総生産のうち、観光や旅行による需要で生み出された付加価値の総額「観光GDP」の算定を進めています。これを把握することで、観光産業が地域経済全体にどれだけ貢献しているのかを定量的に示すことや、その増減から観光産業の成長性評価なども可能になります。地域の観光の力を最大限活用し、持続可能な観光地づくりを目指してまいります。

 観光の力で地域を活性化するという世界が本当にあるのか。まだ明確な成功事例は無いように思うなか、とことんやりきりたいと思います。

 ――ありがとうございました。

【本紙1967号または2月5日(木)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】

〈観光最前線〉大阪で大原美術館の名画を

2026年1月31日(土)配信

泰西名画を巡る旅へ「いってらっしゃい」

 3月29日まで、中之島香雪美術館(大阪市)で特別展「大原美術館所蔵 名画への旅―虎次郎の夢」が開かれている。改修工事で大原美術館(岡山県倉敷市)が休館することから、企画が実現した。

 目玉の1つ、エル・グレコの「受胎告知」は、聖母マリアが大天使ガブリエルからイエスを身ごもったことを告げられる、聖書の場面を描いたもの。昨年、黄ばんだ古いニス層や後世の加筆部分を取り除く修復が行われ、当初の姿を取り戻した。その過程では、他者が描いたとされる、マリアの頭上に描かれた12の星の冠をあえて残すなど、修復作業への興味は尽きない。

 企画展では1900年代初頭、単身欧州に渡り絵画や彫刻を買い付けた洋画家・児島虎次郎の足跡を辿りながら、西洋絵画の傑作を紹介している。

【鈴木 克範】

京都府旅行業協会 新春賀詞交歓会開く 「京都観光を盛り上げる」

2026年1月31日(土)配信

あいさつする森野茂会長

 京都府旅行業協会(森野茂会長)は1月20日、京都府京都市内のホテルで、会員や協定機関などを集め、新春賀詞交歓会を開いた。

 森野会長は「昨年の紅白歌合戦のテーマが、“つなぐ、つながる”だった。これは私たち旅行業者の仕事そのもの。地域と人をつなぐ、人と人をつなぐ、旅行を通じて何かと何かをつなげる。まさに私たちの役割だ。今回、京都のDMOと観光協会の皆さんと、私たちの旅行業者が集まって商談会をするという新しい試みを行ったところ、地域の熱い想いと旅行業者の知恵が混ざり合って、すごい熱気に包まれた。今年の京都の観光の盛り上がりにつながると確信している」とあいさつした。

 来賓の西脇隆俊京都府知事は「昨年は大阪・関西万博で大変盛り上がり、2025年の訪日外国人数が4270万人と国土交通大臣から発表された。京都市の松井市長とは2年前からトップミーティングを重ねており、『まるっと京都』というキャッチフレーズのもと周遊観光を促進している。今日のDMOとの商談会という新しいチャレンジも周遊観光につながっていくと感じている」と述べた。

 松井孝治京都市長は「私の実家は旅館で、観光や旅行というのは、人と人をつなぎ、日常とは違う出会いや気づきを生む仕事だと、子供のころから感じてきた。3月1日から宿泊税をいただき、市民にとっても本来の観光の喜びを再発見する機会をつくっていきたい」と話した。

【土橋 孝秀】

越前鳥の子紙 ユネスコ文化遺産に 手漉きの保護姿勢評価

2026年1月31日(土)配信

登録を祝う産地の職人ら

 福井県越前市が誇る伝統的工芸品「越前和紙」の1つ、「越前鳥の子紙」が昨年12月11日、ユネスコ無形文化遺産の「和紙:日本の手漉和紙技術」に追加登録された。手漉き技術の保護・伝承に熱心に取り組んでいることや、原材料となる植物を過度に採取しない姿勢が、持続可能性を体現していると評価された。

 「越前鳥の子紙」とは、奈良時代から漉かれてきた、雁皮という植物を原料とする手漉き和紙「雁皮紙」の一種。越前の地では、室町時代には既に漉かれていたという。繊維が短い雁皮を均一な紙に漉きあげるには、高度な技術が必要とされる。

 かすかに黄みを帯びた色合いで、表面は滑らかで光沢があるのが特徴。「鳥の子」という名前は、卵の殻の色に似ていることが由来ともされている。虫害に強く耐久性に優れていることから、古くは経典や貴重な書物、かな料紙などに使われていた。

 2014年に「和紙:日本の手漉和紙技術」がユネスコ無形文化遺産に登録された際、越前和紙は紙漉きの技術を保存・継承する団体が無いとの理由で選ばれなかった。

 その後、越前和紙職人らにより保存会が発足。鳥の子紙を漉く技術の継承や、原料となる雁皮の栽培などに取り組み、10年の歳月を経て、あらためて、その活動が認められ、今回の追加登録となった。

 越前市では昨年11月、越前和紙を体感できる工芸宿「SUKU(スク)」がオープン。和紙に囲まれた空間で宿泊できるだけでなく、簡単な和紙作りも体験できるなど、越前和紙の魅力を満喫できる宿として、注目を集めている。

鹿児島大観協 新年互礼会を開催 最新情報もアピール

2026年1月31日(土)配信

八反田ひろみ会長

 鹿児島県内のホテル・旅館の在阪営業所や観光施設、交通機関などで構成する鹿児島県大阪観光連絡協議会は1月20日、旅行会社やマスコミ関係者らを招き、大阪市内のホテルで新年互礼会を開いた。

 同協議会の会長を務める鹿児島県大阪事務所の八反田ひろみ所長は「昨年の鹿児島県は、6月にトカラ列島近海を震源地とする群発地震や、7年ぶりとなる新燃岳の噴火、8月には霧島を中心とする豪雨など、多くの災害に見舞われたが、実際の被害に加え、風評被害もあり、観光面では非常に厳しい年だった」と振り返った。一方で「2022年の和牛日本一に続き、24年には荒茶生産量が静岡県を抜いて初の日本一に、さらに25年には一番茶の荒茶生産量も初めて日本一に輝いた」と県特産品の躍進をアピール。「協議会としても、皆さんと力を合わせ、今後もこれら鹿児島県の魅力の発信に努めていきたい」とあいさつした。

 会場では、協議会会員がそれぞれのトピックスなどを紹介したほか、来阪した各観光団体が、それぞれ旬の話題をPRした。

 指宿市観光協会は、第5代いぶすき菜の花大使の今村俊吏さんが2月7、8日に開催されるイベント「いぶすき菜の花マーチ」や、2月1日からスタートする指宿の旬の味覚を堪能できる企画「いぶすき春のグルメ祭り」などをアピールし、「身も心も温まる指宿に、ぜひお越しください」と呼び掛けた。

【塩野 俊誉】

東京都旅行業協会、新年賀詞交歓会を開く 訪日旅行への参入やAI活用を支援へ

2026年1月30日(金) 配信

会のようす

 全国旅行業協会東京都支部・東京都旅行業協会(小松信行支部長・会長)は1月28日に、京王プラザホテル(東京都新宿区)で新春賀詞交歓会を開いた。約300人が集まった。会員が成長トレンドを取り込めるよう、支援していく方針を示した。

 小松会長は、訪日旅行者数が4000万人を超え、急成長していることに触れ、「2024年と25年、会員向けに訪日旅行へ参入するためのセミナーを3回開催し、好評を得た」と語った。昨年実施した業態調査で、会員の約4割が訪日旅行を取り扱っていることを説明。そのうえで、さらなる会社の成長手段の1つとして、訪日旅行への進出の検討を促した。

小松信行会長

 また「生成AIを活用した講座なども開催する。会員が成長トレンドを取り込めるよう、さまざまな取り組みを実施していくので、セミナーなどに参加してほしい」と呼び掛けた。

 式典には来賓として小池百合子東京都知事が登壇した。「日本で人口が減少するなか、昨年1~10月の東京都における出生数は10年ぶりに増加に転じた。旅行市場の中心である国内旅行の持続可能性を高め、訪日旅行の発展にも取り組んでいく」と話し、東京の発展に向け、さらなる連携を求めた。

小池百合子知事

 観光庁の田中賢二審議官は「オーバーツーリズム防止のための地方誘客には、各地の魅力を熟知し、観光事業者とのネットワークを持つ皆様によるツアー造成が不可欠。各地と連携し、需要分散に資する商品を企画してほしい」と語った。

田中賢二審議官

 全国旅行業協会(ANTA)の近藤幸二会長は、2月11日(水)に国内観光活性化フォーラムを開催することに触れ、「1人でも多く参加してほしい」と呼び掛けた。直販が増えるなか、協定会員連盟の宿泊施設が旅行会社からの受け入れを継続していることに謝辞を述べ、「宿泊施設はこれからも、最も大切なパートナー。従来以上に協力していきたい」と語った。

近藤幸二会長

 ㈱全旅の中間幹夫社長は「東京都旅行業協会の昨年4~12月におけるクーポン、ペイメント、保険の売上はすべて1位だった」と報告。また、「5月以降には下呂温泉との包括協定を結ぶ。会員にとって有益な取り組みを展開できるよう、今後交渉していく。AIの研究と開発も進め、皆様が豊かになるよう事業を進めていく」と方針を述べた。

中間幹夫社長

 中華民国観光産業国際行銷協会の徐銀樹名誉理事長は25年の訪台日本人客数は約148万人とコロナ禍前の19年の約70%だったことを説明し、出席した旅行会社へ「お客様に台湾の魅力を一層積極的に紹介してほしい」と呼び掛けた。

徐銀樹名誉理事長

 東京都旅行業協会協定会員連盟の児島博司会長は「現在の観光業界はインバウンドが増え、国内客は減る変革の時期を迎えている。旅行会社の皆様と仲間として、共に頑張っていきたい」とした。

児島博司会長

 その後、中華民国観光産業国際行銷協会や和歌山県観光連盟、群馬県観光魅力創出課、のと里山空港利用促進協議会などによる観光PRや抽選会も交え、懇親を深めた。

台湾の魅力を大阪で体感 3月7・8日に「ビビビビ!台湾₋最愛台湾紀行₋」

2026年1月30日(金) 配信

ビビビビ!台湾

 台湾観光庁は3月7日(土)、8日(日)に大阪府・グラングリーン大阪で台湾の魅力を五感で感じるイベント「ビビビビ!台湾₋最愛台湾紀行₋」を開く。昨年の東京開催に続き、大阪でも実施する。

 イベントでは、台湾茶の試飲や占い体験、台湾夜市風のゲーム、グルメをモチーフにしたキーホルダー作りなど、各自の“偏愛”を見つけられる多彩なプログラムを用意した。台湾への旅行気分でポスター風の記念写真が撮影できるブースも設け、写真は持ち帰ることができる。また、会場で撮影した写真に指定のハッシュタグをつけて投稿すると、オリジナルノベルティがもらえる。

 イベントの開催時間は両日午前11時~午後7時まで。会場はグラングリーン大阪 ロートハートスクエアうめきた(大阪府大阪市北区)。

来島海峡遊覧船や造船所見学、海事都市・今治の強み観光に(しまなみ)

2026年1月30日(金) 配信

造船中の大型船が手の届きそうな距離で見られる遊覧船

 しまなみ海道で遊覧船運航をはじめ、多彩な事業を展開する愛媛県今治市のしまなみ(村上秀人社長)が、海事都市・今治ならではの強みを生かした観光コンテンツづくりで存在感を高めている。

 日本三大急潮流の一つ、来島海峡で運航する「しまなみ来島海峡遊覧船」は、同社の看板商品の1つで、来島海峡の渦潮と瀬戸内の多島美、そして造船所群を間近で体感できるクルーズだ。海事都市・今治の魅力を分かりやすく伝え、自然景観と海事産業を同時に体感できる観光商品として高い評価を受けている。

 来島海峡のなかで潮流が速い中水道や西水道の渦潮スポットを通過。とくに中水道は条件が整えば最大10・3ノット(時速19・1キロ)、落差2メートルにも達する迫力の渦潮が見られる。最大の特徴は今治の造船業の原点ともいえる造船業発祥地「波止浜(はしはま)湾」を運航ルートに組み込んでいる点だ。湾内には大小のクレーンが立ち並び、建造中の巨大船舶が手に届くかのような距離感で迫ってくる。この規模の造船現場を、海上から、しかも遊覧船で間近に体感できる例は、日本全国を見渡してもほかに類を見ない。今治の造船業が持つ圧倒的なスケール感と臨場感を、五感で感じられる希少な体験だ。遊覧船は所要約50分間が基本だが、オプションで遊覧ルートの途中にある「小島」「馬島」の上陸コースを設定する。

 さらに、タイミングが合えば、新造船が轟音とともに滑り出し、水しぶきを上げながら海へと送り出される「進水式」を海上から見学することも可能。海事都市・今治を象徴する光景を間近で体感できるのも、来島海峡遊覧船ならではの魅力だ。

 遊覧船の前後には、同社が運営する「道の駅よしうみいきいき館」での海鮮七輪バーベキューがおすすめ。館内には魚市場のように充実した新鮮な魚介類が生け簀で泳ぎ、食材を選んでから屋外の特設バーベキュー場で味わうスタイルは、海を望む絶景と相まって観光客の満足度を高めている。

 また、来島海峡大橋の主塔頂上(高さ約184メートル)に登る「来島海峡大橋搭頂体験ツアー」や、各島でのミカンやイチゴ狩りといった体験型メニューなど、しまなみ海道ならではの体験をワンストップで手配できる点も同社の強みだ。

 こうした観光の枠組みに、新たなコンテンツとして加えようとしているのが、今治市が日本最大の海事都市であるという特性だ。日本と海外を結ぶ物流の99%以上を海運が担うなか、今治市には海運、造船、船用工業など500社以上の海事関連企業・機関が集積する。とりわけ日本と外国との間で荷物を運ぶ「外航海運」においては、国内の外航船3977隻のうち約35%にあたる1385隻(2024年度実績)を、いわゆる「今治オーナー」と呼ばれる船主が保有。北欧、香港、ギリシャと並ぶ世界4大オーナーとして、「IMABARI」の名は世界に知られている。造船業においても、建造量国内首位、世界4位を誇る今治造船をはじめ14の造船所が集積し、市内に本社や拠点を置く造船グループ全体で、日本で建造される船舶の3分の1以上を手がける。

 この今治独自の「海事産業文化」を新たな観光資源として再定義しようと、同社は観光コンテンツとしての価値創造に取り組んでおり、今年2月からツアー商品の販売を始める予定だ。観光庁の令和7年度「地域観光魅力向上事業」に採択されたプロジェクトで、今治明徳短期大学や今治の造船会社数社、今治市海事都市推進課などと連携した産官学協働体制のもと、塩作りや村上海賊に始まる歴史から、現代の造船・海運・船用工業へと続くストーリーを体系的に学べる観光コンテンツを造成する。

 造船会社の工場見学の一例では、造船行程を映像で学ぶ「座学」(約15分)、操業中の工場内見学(約60分)、質疑応答で約90分の行程。平らな鋼板を滑らかな曲面外板に形成する特殊加工「撓(ぎょう)鉄」が見られるケースもある。ほかに、海の安全を守る海上交通機関や海事関連行政機関、船舶会社との組み合わせたプランを予定している。教育旅行を主なターゲットとし、コースや内容はオーダーメイドで対応する。教育旅行を主軸にしながら一般旅行客の参加も可能だ。

 将来的には、舶用工業や海事教育分野との連携を広げ、「しまなみ海道観光×海事産業」というミクスチャー型コンテンツを増やしていく構想だ。観光の力で海事産業の魅力を可視化し、地域への誇りを醸成するとともに、次世代の担い手育成や関係人口の創出、持続可能な地域づくりへと繋げていく。

造船所のドック内見学