「ZOOM JAPON(ズーム・ジャポン)(5月号)」

2026年6月2日(火) 配信

特集&主な内容

 本誌5月号の特集は、駄菓子屋です。戦後の日本で広く普及し、現在は数が激減したとはいえ、日本の子供たちの原風景として欠かせない駄菓子屋の歴史や独自の文化を詳しく取り上げました。豊島区雑司が谷の鬼子母神堂境内に位置する、江戸時代から続く日本最古の駄菓子屋「上川口屋」も訪れました。定番商品である「うまい棒」の驚きの秘密にも注目しています。また日暮里では、40年以上も手作りのおでんを提供し続けている人情味溢れる駄菓子屋を訪れました。特集以外では、日本に惹かれた人たちを取り上げる今号からの新コーナーで、注目のバンドデシネの仏人アーティストコンビ「アトリエ銭湯」を取り上げています。旅行ページでは、広島駅から無料送迎バスも運行されている広島県屈指の温泉地、湯来町を詳しく紹介しています。

〈フランスの様子〉使い捨てのプラ袋・容器は2040年に全面禁止

「プラ削減:スーパーは非協力的」5月5日付。消費者団体QUE CHOISIRのウェブサイトより

 日本では「レジ袋」「ポリ袋」「ビニール袋」など、さまざまな名称があるが、フランスでは「プラスチック袋」という包括的な言葉のみで、すべての石油由来の袋を指すのが一般的だ。◆2016年から、フランスでは50ミクロン以下のレジ袋が法律で禁止されている。◆だが、実際にはグレーゾーンも存在する。規制が「使い捨て」に限定されているため、厚手の袋や一部の容器は対象外となるほか、再利用可能と見なされれば、現在もレジ袋は普通に販売・使用されている。◆それでも、袋だけでなく容器やペットボトルを含むすべての使い捨てプラスチックについて、2040年までの完全禁止を目標とした法律が制定されており、段階的なロードマップも策定されている。◆しかし、消費者団体「UFC-Que Choisir」が5月に発表した調査によれば、量り売りコーナーを設置している大中規模スーパーの割合はこの3年で57%から38%へと減少している。具体策を明言している企業もほとんどなく、現状はプラスチック削減の目標には程遠い状況だ。

ズーム・ジャポン日本窓口 
樫尾 岳-氏

フランスの日本専門情報誌「ZOOM JAPON」への問い合わせ=電話:03(3834)2718〈旅行新聞 編集部〉

東武トップツアーズ、幼児園児から感謝状 三宅町のふるさと納税で

2026年6月1日(月)配信

東武トップツアーズの百木田康二社長(前列左)と、三宅町の森田浩司町長

 東武トップツアーズ(百木田康二社長、東京都墨田区)はこのほど、奈良県・三宅町の森田浩司町長と吉弘拓生副町長が同社本社を訪れ、企業版ふるさと納税に対する幼児園児からの感謝状を贈呈された。

 同社は、三宅町の「第2期三宅町共(協)創による持続可能なまちづくりプロジェクト」に対し、企業版ふるさと納税を通じた支援を実施。寄附金の一部を、三宅町での「町の未来を担う子どもたちのための取組」として、町立三宅幼児園で園児用おもちゃの購入費に充てられた。

 森田町長は、新しいおもちゃを手にした子供たちが喜び、楽しく過ごしていると報告し、感謝の印として園児たちが心を込めて作成した「手作り感謝状」を園児に代わって手渡した。

 同社は「企業版ふるさと納税を、単なる寄附という枠組みを超え、地域と企業がともに成長する『共創の架け橋』として捉えている。今後も地方自治体としっかりと手を携え、持続可能なまちづくりと地域活性化に尽力していく」と述べた。

長野県旅行業協会、石和温泉への団体送客CP実施へ 2026年度総会開く

2026年6月1日(月) 配信

合同総会のようす

 協同組合長野県旅行業協会(上原道徳理事長、131会員)は5月26日(火)、ホテル圓山荘(長野県・戸倉上山田温泉)で2026年度通常総会を開いた。今年度は山梨県・富士山石和温泉郷への団体送客キャンペーンを実施する。

 上原理事長は「石和温泉がある山梨県笛吹市などから助成金をいただいた。既にプレキャンペーンを開始した。成功に向けて、協力してほしい」と呼び掛けた。

上原道徳理事長

 同CPは貸切バス1台に付き12人以上の宿泊を伴う旅行に3万円、15人以上の日帰りツアーに1万円を補助する。対象の施設はホテル石風やホテル古柏園、石和びゅーほてる、モンデ酒造など21施設。実施期間は8月17日(月)~12月25日(金)。

 今年度は募集型企画旅行2本と手配旅行1本を実施する。仕入れの効率化とコスト軽減をはかるため、共同仕入れの研究も行う。さらに、生成AIの研修会を開催し、業務の効率化を支援する。

 同日には、長旅協協定会員連盟(風間秀一会長、72会員)と長野県旅行業協会(長崎義一理事長、167会員)の総会が行われたあと、3団体の合同総会が実施された。

風間秀一会長

 長旅協協定会員連盟の風間会長は同CPについて、「静岡県と神奈川県の旅行業協会も対象になっている。3県で1万5000人の集客を目指す。連盟の会員が利益を確保するには団体旅行が欠かせない。各地域が地元行政と連携して、団体送客キャンペーンなどを実施できるよう、笛吹市での成功事例などを共有していきたい」と語った。

 今年度は、団体送客CPのほか、新規入会会員の発掘に努める。

 長野県旅行業協会の長崎義一理事長は「デジタル化やAIの普及で社会の在り方が変わるなか、我われの強みは、地域密着で長年築いてきた厚い信頼と人間関係だ。これを生かすことで、協会の会員は発展し続けることができる。皆様と知恵を出し合い、時代に適応していきたい」と力を込めた。

長崎義一理事長

 今年度は団体旅行がコロナ禍前の水準に回復していないことから、旅行業の完全復活と旅行者の安全・安心な旅行の確保に取り組むため、講習会などを開催する。

 3団体の合同総会で、来賓の㈱全旅の小林裕一副社長は「下呂温泉と協定を結び、団体送客CPを行い、地域活性化を目指している。CPを成功に導き、好事例として全国に展開し、地方創生をはかりたい。もう一度、団体旅行を活気づけたい」と話した。

小林裕一副社長

JTB連結決算、3期連続で売上1兆円超 事業や人材に積極投資

2026年6月1日(月)配信

山北栄二郎社長

 JTB(山北栄二郎社長)が発表した2025年度(25年4月~26年3月)連結決算によると、売上高は前年同期比5.6%増の1兆1332億9900万円と3期連続で1兆円を超え、増収増益を達成した。営業利益は同2.2%減の145億3400万円、経常利益は同4.2%増の173億4500万円、当期純利益は同40.6%増の120億7000万円。営業利益は前年を下回ったが、計画値の120億円は上回った。

 同日に開いた記者会見で、山北社長は「25年度は当初の予定通り、将来にわたって大きく成長を成し遂げるための基盤を構築する1年と位置づけ、M&Aを通じたグローバル事業への投資や人材投資、システム投資を積極的に進めた。これら投資は、JTBグループが2035年に向けて描いた長期ビジョンの実現に向けて変革を進める布石となった」と話した。

 25年度は、事業拡大と収益性向上とともに、中長期的な成長に向けた投資を実行した。世界的な人流拡大を受け、グローバル旅行(訪日・第三国間旅行)が伸長。旅行の高付加価値化による収益性が向上し、MLB観戦や海外企画商品、教育旅行が好調に推移した。

 一方、旅行外の取り扱いも拡大し、MICE事業の競争力が向上。大阪・関西万博関連事業でグループ総合力を発揮したパビリオン運営や催事運営などを行ったほか、商事や決済事業が引き続き堅調に推移した。

 このほか、中長期の成長に向けた経営基盤の強化を継続し、グローバル戦略の加速に向けた成長投資を行った。

 部門別の売上高は、国内旅行が4246億円(同3%減)、海外旅行が2439億円(同9%増)、訪日旅行が752億円(同21%増)、第三国間旅行が1286億円(同15%増)。旅行全体が同5%増の8725億円で売上高全体を占める割合は77%、旅行外が同9%増の2608億円で割合は23%を占め、旅行外が旅行全体を上回る伸びを見せた。

26年度の通期見通し、飛躍に向けた重要な年

 26年度の通期見通しでは、売上高は1兆2450億円、営業利益は165億円を目指す。長期ビジョン「OPEN FRONTIER 2035」と、新たな中期経営計画の初年度であり、グローバルへの飛躍に向けた重要な節目の年と位置づけた。世界の人流拡大や企業イベントが活況の潮流を捉え、高付加価値型の旅行プランやソリューションを提供することで、事業拡大と収益性の向上を目指す。また、M&A投資に加え、AI技術の活用と事業への実装を推進する方針だ。

 今後、長期ビジョン達成に向けた経営基盤の強化を目指し、①グローバル戦略加速への成長投資②人財への投資③データドリブン経営への投資④価値共創のカルチャー構築への投資――の4つに取り組んでいく。山北社長は「新交流時代のフロンティア企業となるために、引き続き変革に取り組んでいきたい。同時に社会から支持され、信頼される企業であり続けるため、サステナビリティへの取り組みを強化し、企業価値の向上を目指す」と語った。

飲食店「プロスパー」(水戸市)、特別清算開始命令受ける(帝国データバンク調べ)

2026年6月1日(月) 配信

 プロスパー(代表清算人=本田真人氏、茨城県水戸市)は5月7日(木)、水戸地裁から特別清算開始命令を受けた。帝国データバンクによると、「負債は2022年8月期末時点で約10億3700万円だが、その後変動している可能性がある」としている。

 同社は1990(平成2)年12月に旅行代理店として設立された。その後、95年にグループ会社から飲食事業を引き継ぎ、水戸市内で飲食店の運営に進出した。

 和食料理店や韓国料理店、焼き肉店、ハンバーグレストラン、居酒屋など幅広い業態を展開し、事業規模を拡大。2016年8月期には、豚しゃぶ店を主力に最大で15店舗を運営し、年間売上高約12億6600万円を計上するなど、地域では一定の知名度を有していた。

 しかし、その後は新規出店した新業態「えんま大王ステーキ」が想定通りに集客できず、「不採算事業として業績の足かせとなっていた」(帝国データバンク)。

 さらに新型コロナの影響もあり、21年ごろから不採算店舗の閉鎖など、本格的に事業規模の縮小をはかり、25年7月31日に開いた株主総会の決議により解散していた。

長野県旅館ホテル組合会青年部会、成果につながる活動展開へ 2026年度通常総会開く

2026年6月1日(月) 配信

総会のようす

 長野県旅館ホテル組合会青年部会(河野克幸部会長、55部員)は5月30日(木)、常盤屋旅館(長野県・野沢温泉)で2026年度定時総会を開いた。今年度は「シンプルで、実りある青年部活動」をテーマに、部員一人ひとりの時間を有効に活用し、効率的で成果につながる活動を目指す。

 河野部会長は「長野県では人手不足やインバウンド対応が求められるなか、青年部活動の効率化とさらなる価値向上をはかり、経営力の強化に向けた未来への投資につなげたい」と意気込みを述べた。さらに「(青年部では)各地域の魅力を発信する方法が時代に合っていないことが課題。マーケティングセミナーを積極的に実施する」と語った。

河野克幸部会長

 具体的には、マーケティングセミナーやAI、ホスピタリティに特化したセミナーと理事会を同時開催する。部員と協定商社の情報共有の活性化もはかる。

 来賓の長野県旅館ホテル組合会の中村実彦会長は6月1日(月)からスタートした長野県の宿泊税について「我われの事業の発展に重要な役割を果たすことが県から説明され、組合会として賛成している。今後は宿泊税の使われ方を皆様と注視したい」と語った。

中村実彦会長

 また、27年の信州DC期間中に善光寺の御開帳、アフターDCとなる28年に諏訪地方で御柱祭が開催されることに触れ、「絶好のタイミングだ。県内津々浦々に観光客が訪れ、リピーターを獲得できるよう、取り組んでいきたい」と話した。

 その後、旅館さかや(野沢温泉)で懇親会が開かれ、出席者は交流を深めた。

静岡県内のフェリーや鉄道を1枚の電子チケットで 「しず旅きっぷ」の発行開始

2026年6月1日(月) 配信

しず旅きっぷ

 静岡県はこのほど、駿河湾フェリーやバス、鉄道の2次交通を1枚でつなぐ県内周遊電子チケット「しず旅きっぷ」の発行を開始した。県内の観光周遊を促進し、地域経済の活性化をはかりたい考え。

 同県は「令和7年度デジタル地域通貨活用事業」にeギフトプラットフォーム事業を展開するギフティ(太田睦・鈴木達哉社長、東京都品川区)のデジタルプラットフォーム「e街プラットフォーム®」を採択し、今回の電子チケットの発行が可能となった。これは環駿河湾地域5市町で1月に開始した「旅先納税®」と電子商品券「しず旅コイン」の導入に続く2案件目。

 今回の「しず旅きっぷ」は駿河湾フェリーと東海バス、伊豆箱根鉄道の乗車券を組み合わせたデジタルチケットで、4種類を用意した。「駿河湾フェリー片道乗船券」と「東海バスフリーきっぷ全線2日券」をセットにした標準版と、これに「伊豆箱根鉄道駿豆線デジタルフリー乗車券(2日間)」加えたワイド版(大人・子供)で、「しず旅チケットポータル」から購入できる。標準版は大人6900円・子供3450円。

【特集 No.680】対談 大村智博士×秋山秀一氏 「韮崎」のまちづくりに力を注ぐ

2026年6月1日(月) 配信

 2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した化学者・大村智博士と、旅行作家の秋山秀一氏は日本エッセイスト・クラブの会長と常務理事という縁で知り合った。昨秋、2人は大村氏の故郷・山梨県韮崎市を歩き、韮崎大村記念公園を訪れて意気投合した。化学者という枠を超え、「韮崎市まちなか美術館」など文化豊かなまちづくり事業にも取り組む大村氏と、世界中を旅する秋山氏が対談。「人づくりには情操教育が大切」や、「言葉によって自分の歩みや生き方を変えることができる」など、深く語り合った。

【本紙編集長=増田 剛】

 秋山:大村先生が日本エッセイスト・クラブの会長に就任され、私が常務理事というご縁で知り合うことができました。大村先生はノーベル生理学・医学賞を受賞された偉大な化学者のみならず、人間的な魅力に惹きつけられてしまいます。

 大村:昨年10月21、22日の2日間、雑誌の企画で秋山さんと、私が生まれ育った故郷・韮崎市内を歩きました。

 秋山:韮崎の名所で関東三観音の一つ、平和観音が立つ七里岩の上に登ると、そこからは韮崎全体の風景を見渡せます。七里岩を通り抜けるトンネルや山本周五郎文学碑などを訪れたあと、甘利沢川沿いに韮崎大村記念公園へと続く、大村先生が中学生時代に歩いた通学路「幸福の小径」を歩くのも乙な旅です。桜の名所「わに塚のサクラ」も素晴らしい。

 大村:2人で韮崎のまちをあちこち歩きましたが、私がいない時間にも秋山さんは1人で隈なく歩かれ、旅行作家として本当に熱心な方だと思いました。

 秋山:韮崎はもともと宿場町で、その雰囲気は今でも残っています。訪れるたびに自然や歴史、文化の豊かさや懐の深さを感じています。
 いわゆる有名観光地ではないけれど、一度訪れると、その魅力に魅了される地です。

 大村:大学を卒業する22歳まで韮崎に住んでいました。帰るたびに新しい発見があり、やはり故郷はいいものですね。とくにまちを取り巻く山並みの美しさが一番気に入っています。

 秋山:大村先生がノーベル生物学・医学賞を受賞したのが、2015年の80歳のときでした。それから10年を経て25年7月12日、90歳の誕生日に韮崎大村美術館の隣に「大村智記念館」がオープンしました。
 大村智記念館は、先生の学業や研究関係、蒐集された美術品などをゆっくりと見ることができます。とくに面白いのは、中学生のころの通信簿や亀のコレクションなど、大村先生の足跡や人柄にも触れることができる空間になっています。
 隣接する韮崎大村美術館は、女性の絵がたくさん展示されています。

 大村:女子美術大学との深い関わりもあり女流作家を顕彰しようという思いから、日本を代表する女性作家の作品を数多く収蔵しています。企画展、常備展のほか、鈴木信太郎記念室、陶磁器展示室なども備えています。

 秋山:美術館の2階にある展望室から見る風景も素晴らしいです。富士山や八ヶ岳連峰、茅ヶ岳、そして奥秩父の金峰山などを一望できます。

 大村:風景が美しく見えるように、展望室の高さも計算して建てています。美術館の絵を褒められるのも嬉しいけれど、展望室から風景を楽しんでいただけることは、もっと嬉しいですね。
 八ヶ岳は色々な山が重なっているため、全貌を見ることは難しいのですが、美術館の2階からは裾野が消えるまで、シンメトリーに八ヶ岳の優雅な姿が見えます。

 秋山:韮崎大村記念公園の敷地には、美術館、茶室、記念館だけでなく、日帰り温泉施設もあります。

 大村:私の生家を改修して学生たちが泊まり込んで学習できようにしました。すると学生を毎晩、車で30分ほどの温泉宿まで連れて行かなくてはならなくなりました。
 “温泉好き”が多い学生のために敷地内をボーリングで掘ると、良い泉質の温泉が出てきました。それが日帰り温泉「武田乃郷白山温泉」です。
 今では八ヶ岳の登山客も「泉質がいい」と言って、帰りがけにわざわざ入浴に訪れています。
 公園内のそば処上小路では「おざら」と言われる郷土料理、冷やしほうとうも提供しています。

 秋山:韮崎のまちを歩いていると、「韮崎市まちなか美術館」という看板に出会います。

 大村:その看板のある店に入ると、韮崎大村美術館が絵を貸し出しています。今はもう市内に20数カ所、100点余りになります。

 秋山:先生には生まれ育った韮崎に対する愛の深さを感じます。
 武田八幡宮から降りてくるところに、家が無くなっているまちの変貌に心を痛め、それが韮崎のまちづくりに力を注ぐようになった原点だとおっしゃっていました。

 大村:私が子供のころは、びっしりと軒並みがありましたが、上京してしばらく経って戻ってみると、過疎化と言われる状態になっていました。「これを何とかしなければならない、私ができることは何だろう」と考え、韮崎大村記念公園の事業に取り組み始めました。
 美術館や記念館の事業を進めていくと、追い風も吹いてきました。
 例えば、「螢雪寮」と名付けて学生のセミナーに使っていた私の生家が全面解体修理後に登録有形文化財に認定されるなど、すべてが良い方向に流れていきました。螢雪寮は地域の集いやトークショー、コンサートなどにも活用され、山梨県の文化の一部を担うくらいの場所になっていると自負しています。

 秋山:大村先生は、まちおこしをしている若いグループの活動も、応援されています。

 大村:若い人たちには、「同じものであっても、見方や角度を変えると、まったく別のものに見えてくる。モノを見るときに柔軟性が必要」などと話しながら、人間力向上を目指しています。

 秋山:大村先生自身はどのように教育され、育てられたのですか。

 大村:母親はいつも「情操教育が大事」と言っていました。今になってその意味がよく分かります。感性が涵養された、情緒の豊かな人は既存の知を超えた創造力を発揮し、化学者であっても大きく違ってきます。
 情緒は日常生活や人間関係においても、すべてに表れてきます。情緒を豊かにするために、絵を見なさい、習字をやりなさいと言われました。しかし一度も勉強しなさいと言われたことはありません。
 つまり母は子供たちに早くから、情緒豊かな人づくりを目指したのだと思います。そのような環境で育ってきました。
 意識をしていなくても、ふとした瞬間にアイデアが出てきたり、動作として表れたりするのは、それぞれの人が培ってきた情緒、感性だと思います。
 秋山さんが旅先で瞬間的に小さな特徴を捉え、しっかりと心に掴まれるのも、情緒が豊かだからではないでしょうか。

 秋山:ありがとうございます。色々な場所を旅して、多くの人との関わりのなかで、知らずうちに情緒が養われていたのかもしれません。「素直に感じる心」が大切だと、大村先生の話を聞きながら感じました。
 先生は旅先をどのように決められていますか。

 大村:テレビや新聞、人との会話の中で行ってみたい場所をメモして引き出しの中に入れています。旅行に行ける時間ができたときに「行ってみたいところ」と書いた引き出しの中から選びます。直感で選ぶのではなく、蓄積したものの中から旅先を選んでいます。

 秋山:大村先生は「実践躬行」など、言葉に強いこだわりを持たれています。

 大村:私は何か物事に向かうときには、中心となる言葉を選びます。
 今回は旅をテーマとした対談ということで、一つ浮かんだのが、「居は気を移す」=住まいは気を移す。私の大好きな言葉です。
 研究中など忙しくなると、考えがまとまらなくなります。そんなとき、少し移動するだけで新しい気持ちが生まれます。小さな旅に出る、少し歩いてみる、電車に乗ってみる。そうすると、「気」が変わり、新しいアイデアが湧いてくることが多くあります。研究中にはよく歩きました。1―2日、時間があると旅に出ました。今はそれもできないほど、忙しくなってきました。
 言葉を大事にすると、自分の歩みや生き方も変えることができます。私は文学者でもない、化学者の端くれですが、「言葉を大事にしよう」と日ごろから心掛けています。最初から言葉を覚えているわけではないし、子供のころはスキーや卓球で遊んでいたのですが、次第に言葉の持つ深い意味が分かるようになってからは、いい言葉と出会ったらメモしていくといったことを続けてきて、今日に至っています。

 ――ありがとうございました。

□大村智氏プロフィール
 大村 智(おおむら・さとし)氏 化学者。日本エッセイスト・クラブ会長。1935(昭和10)年山梨県韮崎市生まれ。北里大学特別栄誉教授、学校法人女子美術大学名誉理事長、韮崎大村美術館館長。微生物の生産する天然有機化合物の研究を専門とし、50年以上の研究生活を通して約520種類の新規化合物を発見。うち26種類が医薬、動物薬、研究用試薬として実用化され、感染症などの予防や撲滅、さらに生命現象の解明などに貢献している。そのうちの一つであるイベルメクチンは、オンコセルカ症(河川盲目症)やリンパ系フィラリア症、糞線虫症、疥癬といった寄生虫感染症の多くを予防・治療する特効薬となった。その業績が評価され、2015年、イベルメクチンを共同で開発した米国メルク社のウィリアム・キャンベル博士とともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。

〈旅行新聞6月1日号コラム〉――歴史上の革命期 “つながっていない”時間が本当の自分

2026年6月1日(月) 配信

 古いレコード盤やカセットテープで音楽を聴くことが若い世代には新鮮で、小さなブームになっているとニュースで見た。好きな音楽を聴き終えると、レコード盤を裏返したり、テープを巻き戻したりと、デジタルに比べ、アナログは何かと手数や手間が掛かる。あらゆるものが簡便になった世の中で、敢えての手数や、小さな自分だけの儀式(セレモニー)を楽しく感じる気持ちも理解できる。

 子供のころスーパーカーブームの真只中で、憧れの「ポルシェ930」のエンジン音だけが録音されたレコードのシングル盤を母親に買ってもらった。レコードジャケットから指紋が付かないようにドーナツ盤を取り出し、慎重に針を落として耳を澄まして聴いていた、あの手順は大事な儀式なのであった。

 漫画や映画、音楽などもサブスク化し、実際に本やレコードを手にすることが少なくなったが、やはりコレクションという魔的な趣味においては、アナログの世界の方が“悦び”に溢れている。そして、アナログの最大の利点は、現代社会と“つながっていない”世界にたった1人、没入できることの安全性、安心感なのであると思う。

 携帯電話が普及し始めて、いつでもどこでも人とつながり便利になった。その反面、もう逃げられなくなった。その後、インターネットが双方向に世界を一つにつなげ、現実世界よりも無限に広がる、ネット空間で過ごす時間が徐々に増えていった。 そしてSNSの台頭によって、個人と個人が世界中でつながった。しかしながら、広くつながることによって得られた“良いこと”だけではなかった。“疲れ”や“息苦しさ”などを感じる副作用もあった。

 今は、AIだ。その能力に驚愕する毎日だ。AIとつながることの利点は計り知れなく大きい。だが、それ以上に人類はAIに対して、既に“畏れ”に近い感覚に支配され始めている。

 そのAIが刻一刻、現在進行形で世界のあり方を根底的に覆す「歴史上の革命期」の傍らに佇んでいることを実感する。 

 仕事がデジタル化やAIによって管理されていくと、趣味はアナログ化に向かうのだろうか。例えば、最近は休日に下拵えから始める料理が楽しくてたまらない。

 料理だけではない。構造が単純すぎて使い勝手の良くない帆布の鞄がずっと、自宅の壁にぶら下がっていた。捨ててしまおうかと考えていたが、先日、手芸店に行って、ファスナーやマジックテープ、金属の留め具などを買ってきて手を加えた。

 いや、本当は不器用すぎる私ではなく、服飾系を学んできた妻にお願いして一から十までやってもらったのだが、平凡だった鞄が独創性溢れる唯一無二の鞄にグレードアップしたのだ。

 無個性なものを安く買って、ある程度使用したあと、自分なりに工夫して、アレンジやカスタムが奏功し、質感や使い勝手が新品時よりも向上していく過程が精神的に好ましい。

 少し前に、相当に使い込んだスーツケースの車輪が壊れたので、良質な車輪を注文して修理すると、これも購入時よりも高性能になった。単なる維持ではなく、手を加えることによって“現物”の機能やデザイン、価値が上がっていくと愛着も深くなる。SNSやAIとつながっていない、アナログな時間こそが、本当の自分なのだと強く感じる。

(編集長・増田 剛)

旧奈良監獄を生かす ミュージアムとして開館 星野リゾート

2026年5月31日(日) 配信

舎房一部を保存公開

 「奈良監獄ミュージアム by星野リゾート」(奈良県奈良市)が4月27日、オープンした。日本の近代化の象徴として築かれた「明治五大監獄」の中で唯一、全貌が残る「旧奈良監獄」をミュージアムとして保存活用したユニークな施設。星野リゾート(星野佳路代表)がミュージアム施設を手掛けるのは今回が初めて。

 コンセプトは「美しき監獄からの問いかけ」。監獄という特異な空間を通じて、日本の行刑の歴史と監獄という社会をひもときながら、来館者に「自由」を問いかける。

 旧奈良監獄は、近代化を目指す国の一大プロジェクトとして1908年に誕生。明治期に竣工された長崎監獄、金沢監獄、千葉監獄、鹿児島監獄とともに「明治五大監獄」と呼ばれた。1946年には「奈良少年刑務所」と改名。その後、歴史的価値と美しい建築意匠が評価され2017年、国の重要文化財に指定された。

 建物は、イギリス積みの赤レンガ壁と、中央の見張台から放射状に舎房が伸びる構造が特徴。5つある舎房のうち、中央に位置する全96室の独居房が連なる「第三寮」が保存エリアとして公開され、監視窓を備えた重厚な木製扉や堅牢な鍵など監獄の面影と空気感を直に感じることができる。

テーマ別の展示エリアも

 また、展示エリアは、奈良監獄の歴史と建築を紹介するA棟、受刑者の視点から刑務所の営みを紹介するB棟、かつての医務所をギャラリーとして活用し、アーティストや受刑者の作品を展示するC棟で構成。赤レンガをモチーフにしたカレーパンやご当地ソーダなどが味わえるカフェのほか、ポストカードや雑貨、アパレルなどのオリジナルアイテムをそろえたショップも備わる。

 開館時間は午前9時から午後5時まで(最終入館4時)。定休日なし(メンテナンス休館あり)。入館料は大人が日本在住者2500円、奈良県在住者2千円、海外在住者3500円。大学生・高校生は1500円、小・中学生は700円。来館時は公式サイトからの事前予約を推奨している。

 星野リゾートでは、旧監獄の舎房などを活用したラグジュアリーホテル「星のや奈良監獄」も6月25日に開業する。