「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(188) 「知っている人がいる」が最幸のリピート戦略 「人の記憶」残す仕掛づくり
2026年9月9日(水) 配信

なぜ私はこの店に帰ってくるのだろうか。なぜこの施設を何度も利用してしまうのだろうか。理由は幾つもあります。
立地の良さ、価格、設備、商品の品質、サービス内容。それらはもちろん選ぶ理由になります。しかし実際には、予約をしようと思った瞬間に、それらを一つひとつ比較検討しているわけではありません。「そうだ、あそこにしよう」と自然に頭に浮かぶ施設を選んでいるのです。
以前利用した時の印象が良かったからでしょうか。もちろんそれも理由の一つです。しかし、人は日々たくさんの情報や刺激に囲まれて生活しています。感動や満足感も、時間が経てば少しずつ薄れていきます。
一方で、「もう二度と行きたくない」という嫌な記憶は驚くほど長く残ります。危険を避けようとする人間の生存本能が、その記憶を忘れないようにしているのでしょう。では、良い思い出は薄れてしまうのに、なぜ私たちは同じ店を選び続けるのでしょうか。
その答えは、「人の記憶」が残っているからだと私は思います。
私がよく利用する施設には、私の顔を覚えてくださっているスタッフがいます。入口で目が合った瞬間に「あっ!」という表情で笑顔を向けてくださるのです。施設によっては「西川様、お帰りなさいませ」と自然に声を掛けてくださいます。その一言だけで「また来て良かった」という安心感が生まれます。
サービスを受ける前から満足度が高まり、その時間そのものが特別なものへと変わっていくのです。もちろん、スタッフには異動や退職もあります。以前お世話になった方がいないことも少なくありません。それでも私はその施設を選びます。
思い返せば、その方が特別なサービスをしてくださったわけではありません。ただ、いつも笑顔で迎えてくださり、心地よい会話を交わしてくださった。その人の印象が、施設そのものの価値として私の心に刻まれているのです。
サービス業はサービスを売っていると思いがちです。しかし、お客様が本当に覚えているのは、サービスではなく誰と過ごしたかという時間なのです。だからこそ現場で本当に目指すべきことは「知っている人がいる場所」を作ること。「あの人に逢いたい」「またあの笑顔に迎えてもらいたい」そう思ってもらえたときに、お客様は価格や設備ではなく「人」を理由に戻ってきてくれるのです。
良いサービスは、もはや当たり前の時代です。そのうえで、お客様の心に「人の記憶」を残す仕掛けをつくること。それこそが、たった一度の出逢いを一生のお付き合いへと変え、リピーターを生み続ける最も確かな戦略となるのです。
コラムニスト紹介

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。


