test

「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(187) ここでもう一度「価値の創り方」 〝どんな時間を提供するか〟

2026年8月23日(日) 配信

西川丈次のもてなし上手

 「いつもこの辺りのお席をご利用されていましたが、こちらでいかがでしょう」。案内されたその席は、私が以前から気に入っていた場所です。会場全体を見渡すことができ、お客様の笑顔やスタッフの動きが自然と目に入ります。空いていればいつもその席を選んでいました。そこは東京ステーションホテルの朝食会場「アトリウム」です。

 この場所で朝食をいただくのは、およそ5年ぶりでした。久しぶりの訪問にもかかわらず、スタッフの方は私の好みの席を覚えていてくださったのです。

 覚えていてくれた。それがどれほど利用者を感動させるものであるか。サービス業において、人はサービスそのものだけではなく、自分を覚えてくれたという体験に深く感動するものです。その日も、そのお気に入りの席から会場全体を眺めながら朝食を楽しんでいました。

 すると、あることに気付きました。それは、他のホテルの朝食会場ではあまり見ることのない光景でした。

 お客様同士が楽しそうに会話をされているのはもちろんですが、それ以上に、多くのお客様がホテルスタッフと自然な笑顔で会話をしているのです。

 一般的に多くのホテルの朝食会場では、スタッフはとても忙しく働いているため、お客様と会話を楽しんでいる姿を見る機会は多くはないのです。

 東京ステーションホテルでは、スタッフの皆さんは笑顔で会場内を歩き、お客様同士の会話を邪魔しない絶妙なタイミングを見計らいながら自然に声を掛けています。

 「昨夜はゆっくりお休みになれましたか」「今日はどちらへお出掛けですか」――そんな何気ない一言から会話が始まり、お客様の表情がさらに明るくなる。そのようすを見ているだけで、会場全体に温かな空気が流れていることが伝わってきました。

 朝食には、本来は料理の美味しさや品数は大切です。近年、多くのホテルが朝食に力を入れ、地元食材を取り入れたり、ライブキッチンを設けたりと料理の価値を高める工夫をしています。しかし、お客様の記憶に残るのは料理だけではありません。誰と、どんな時間を過ごしたかであり、その体験そのものが価値となるのです。

 サービス業は、商品や設備だけで差別化する時代ではありません。人が生み出す空気、人がつくる時間、人だからこそ届けられる感動。その積み重ねが、また来たいという気持ちを生み出します。お客様は料理を食べに来ているのではなく、心地よい時間を過ごしに来ているのです。朝食会場で改めて感じたのは、サービスの本当の価値は、何を提供するかではなく、〝どんな時間を提供するか〟にあるということでした。

 

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

 

 

いいね・フォローして最新記事をチェック

コメント受付中
この記事への意見や感想をどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。