津田令子の「味のある街」「ミニどら」――青山紅谷(東京都港区)
2026年8月22日(土) 配信

夏の陽射しを浴びながら青山を歩いていると、かき氷ののぼりが目に入る。小さな庭の向こうにある創業1923(大正12)年の紅谷にふと足を止める。多くの人々が集まる流行りの街にも、長い時間を刻んできた老舗があることに気づく。
老舗の魅力は、商品だけではない。店先で交わされる何気ない会話や、包みを受け取るときの優しい笑顔にも、この店が長く愛されてきた理由が感じられる。こうした積み重ねが街に暮らす人にも、旅人にも心地よい記憶を残していくのだろう。
大正時代から受け継がれてきた和菓子づくりは評判を呼び、列を作ることもしばしば。ガラスの棚に並ぶミニどらや、蕨餅、季節の和菓子には、派手さではなく丁寧な仕事と温もりが感じられる。
青山には世界的なブランドショップや新しいカフェが次々と誕生している。一方で、こうした老舗が変わらぬ暖簾を掲げ、昔と変わらぬ味を守り続けていることに、この街の奥深さを感じる。
そして、流行を追いかけるだけではない、人々の暮らしに寄り添う時間が積み重なっているからこそ、何度訪ねても新しい発見を与えてくれる。
歩く人の足を止め、店先をのぞき込み、小さな包みを手にして帰っていく――。その何気ない日常の風景こそが、長い年月をかけて街の魅力を育ててきたように思えた。新しいものが次々と生まれる一方で、こうした老舗が街の記憶を支えているのだろうと思う。
青山紅谷には、小さいながらもイートインスペースもある。お気に入りの一品を、その場でいただくこともできる。
3代目が考案したという1つ300円のどら焼きは、値段以上に長く受け継がれてきた味を届けてくれる。日持ちは3日間。手のひらに収まる小ぶりサイズなので、お持たせにも適している。そんな一品に出会えるのも、街歩きの楽しみである。
味のある街とは、古い建物が残る街ではない。人が育み、受け継いできた時間が流れている街だからこそ、また歩いてみたくなるのである。
(トラベルキャスター)






