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「観光人文学への遡航(73)」 エラスムス+プログラムに参加

2026年7月6日(月) 配信

 エラスムスは、ルネサンス期に活動したオランダ・ロッテルダム出身の人文主義者である。北方ルネサンス最大の学識者とされ、ギリシア語新約聖書の初版校訂を行い、キリスト教的人文主義の理念を確立した。

 彼は古典文献の正確な理解を重んじ、聖書を通じて信仰の再生を目指した。

 1509年に著した「痴愚神礼讃」において、彼は教会や聖職者の腐敗を鋭く批判した。この批判精神は宗教改革の気運を高めたが、エラスムス自身はカトリック教会の枠内での改革を望み、プロテスタント運動には合流せず、過激な分裂には反対した。「エラスムスの卵をルターが孵した」と言われるように、彼の思想はマルティン・ルターらにも大きな影響を与えたと言われている。

 ただ、1524年に著した「自由意志論」において、ルターの予定説に反論し、人間の自由意志を擁護した。彼は知性と節度、平和と寛容を重んじる信仰を説き、「理性に導かれたキリスト教的人間性」を理想とした。とくに教育分野での発言も特筆すべきものであり、子供といえども一個の人間であり、中世以来続いてきた学校における鞭による体罰を初めて否定した人でもある。

 晩年までヨーロッパ各地を渡り歩き、教育と出版活動を通じてそれぞれの地域で広範な影響を及ぼした。

 エラスムスの思想はヨーロッパ近代の自由主義・寛容の精神の源流となり、後世に「人文学の王」と称された。

 そのエラスムスの名と意思は、今日欧州の学術交流事業「エラスムス・プログラム」に引き継がれている。

 European Region Action Scheme for the Mobility of University Studentの頭文字を取って、ERASMUSと名付けられたこの学術交流プログラムは、1987年に開始された当初は大学生の留学プログラムであったが、現在では学生だけでなく、大学教員、研究者、大学職員までその対象範囲が広がり、エラスムス+と呼ばれるようになった。

 エラスムス+の目的は、高等教育分野における教育プログラムの共同開発や大学間のネットワーク形成を推進することである。教員や研究者を対象とした交流制度では、海外の大学で講義を行う教育活動や、研修活動が実施される。これらは研究費の提供を主目的とするものではなく、教育活動や人的交流を通じて国際的な協力関係を構築することを重視している。

 日本の大学もEU域外のパートナーとして参加することが可能であり、日本の教員が欧州の大学で授業を行ったり、欧州の教員が日本を訪れたりする交流が進められている。

 このエラスムス+の枠組みで、私は4月11日から19日まで、リトアニアのカウナスコレギア高等教育機関を訪問した。これから数回にわたってリトアニアで見てきたことを綴っていく。

 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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