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「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(258)」田毎の月 姥捨棚田(長野県千曲市)

2026年7月5日
編集部:長谷川 貴人

2026年7月5日(日) 配信

一面に広がる姨捨棚田

 「姥捨山」といえば、私たちの世代は深沢七郎さんの「楢山節考」がすぐに浮かぶ。千曲市はこの姥捨棚田と、千曲川沿いの戸倉上山田温泉で有名である。新緑の5月、姥捨山(冠着山)の麓の棚田を訪ねる機会を得た。

 姥捨の棚田は、近くを流れる千曲川と、善光寺平と呼ばれるなだらかな盆地を臨む標高460~560メートルに、1500枚以上にわたる棚田状の水田が並ぶ絶景である。

 1999(平成11)年、全国で初めて棚田として国の名勝に指定され、その指定名称が「姨捨(田毎の月)」である。大きさやさまざまな形の水田に写りゆく月を表現した「田毎の月」は、松尾芭蕉や小林一茶が訪れ歌を詠み、歌川広重が浮世絵として描いたことから有名になった。

 2010(平成22)年には国の重要文化的景観に、20(令和2)年には日本遺産(月の都千曲~姥捨の棚田がつくる摩訶不思議な月景色「田毎の月」)にも認定された。少なくとも戦国時代(1500年代半ば)から棚田としての形が整い、今に至っている。この景観は、もとより棚田自体の営みによって保全されている。つまり棚田の営農が廃れると、この景観そのものがなくなってしまう。

 幸い、千曲市は1996(平成8)年より、棚田の保全、都市・農村の交流を進めるため「棚田貸します制度」(棚田オーナー制度)を開始した。これは、市が特定農地貸付法により棚田を地権者から借り受け、会員募集し貸し付けるものである。会員は田んぼごとに年会費を払い、田植え、草刈り、稲刈り、脱穀の各行事に参加し、収穫物である棚田米は、すべて会員のものになる仕組み。

 姨捨の棚田は、JR姥捨駅や高速道路インターからも近く、手ごろな観光地にもなっている。いわば自然景観を資源として、観光が成り立っている。この地域では、ここで得られる収益が棚田の保全や地域に還元されない限り、地域の持続性の担保は難しい。

Terracesからの棚田夜景(信州千曲観光局提供)

 その棚田の絶景の場所に今年4月、一棟貸しの宿泊施設がオープンした。「The Moon Terraces Obasute」と命名した施設は、月明かりに映える夜の棚田を満喫するには格好のロケーションである。施設は地域DMOである一般社団法人信州千曲観光局が運営する。

 さらに昨年度、文化庁の支援を受け、棚田やまちなかを音声ARサービスで楽しむツアーという新たな仕組みを導入した。イヤホンをつけて歩くだけで、地域の観光キャラクターが千曲の魅力が語り出す。いわば、“音”でめぐる特別な旅という触れ込みである。

 地域の優れた景観や、後世まで受け継がれてきた歴史文化資源は、今に生きる私たちが大切に保全し活用しながら継承していくことが大切である。観光などの事業で得られた収益の一部が、こうした地域の大切な資源に再投入されるような持続可能な仕組みづくりが不可欠であろう。

(観光未来プランナー 丁野 朗)

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