【特集 No.677】日本旅行「第二の創業」 着地のコンテンツ開発・商材化へ
2026年3月1日(日)配信

日本旅行(吉田圭吾社長)は昨年120周年を迎え、第二の創業として今年、新たな章がスタートした。2026―30年度までの新中期経営計画のテーマを「新章」とし、「顧客と地域のソリューション企業グループ」に向けて大きく舵を切った。コロナ禍を経て直販化やAIの進展が加速するなか、日本を代表する老舗旅行会社がどのような方向に進もうとしているのか。地域のコンテンツ開発・販売や、インバウンド・グローバル事業本部の立ち上げ、他社に先駆けて取り組む宇宙旅行分野への想いなど、吉田社長に聞いた。
【本紙編集長・増田 剛】
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□宇宙旅行分野で“第一人者”に
――2025年6月に、社長に就任されました。旅行業の現状をどのように見ていますか。
コロナ禍前とは様相が大きく変わったことを感じています。航空会社や宿泊施設などの直販化がさらに進み、OTA(オンライン旅行会社)の進展、さらにDX化や生成AIが想像を超えるレベルで発展してきています。
一方で、旅行に代表される、「人が動くことそのものの需要は変わらずに存在する」と捉えています。これは2558万人が来場した大阪・関西万博で証明されました。
――昨年末までの「中期経営計画22―25」を振り返って。
旅行需要がすべて消失してしまったコロナ禍に策定した中計でしたが、厳しい環境の中で自分たちが有する能力を旅行業ではない、他の分野に振り向けることができたことに気づき、強く実感できた期間でした。
これまでは、大都市部のお客様をどこかの旅行目的地に連れていく発地側の仕事を主軸としており、「発地の人に喜んでいただける」旅行商品を企画し販売していました。
しかしコロナ禍の当時、私は東北にいましたが、自治体や企業、学校など地域の人たちは「地元の組織がいかに早く復興して経済が回るか」を第一に考えていました。つまり、発地側の立場で企画を考えていた我われと、地域の人たちとの視点は真逆だったのです。
「地域の良いところをどのようにPRすれば、より魅力的になり発展させることができるのか」を考えることが着地の発想です。この着地の視点の重要性に気づかされたことが、大きな転換点となりました。当社が培ってきたノウハウを生かしながら、着地のコンテンツ開発などに重点的に取り組んでいくことが、今年からスタートした新たな中期経営計画の大きな柱となっています。
――昨年創業120年を迎え、新しい方向性を打ち出されました。
神社仏閣の参詣、観光などの団体旅行をあっせんする目的で1905(明治38)年に創業してから120年間、旅行業を続けてきた意味をこの機にしっかりと再認識する必要がありました。そして過去を踏まえ、「第二の創業」として、新しいステップを歩んでいく想いを新たにしました。
創業間もない1908年には、滋賀県の草津から本邦初の国鉄貸し切り臨時列車による関東廻遊団(善光寺参拝団)の募集団体旅行を実施しました。
当時の善光寺は「全国から善光寺参りとしてお客を呼び込みたい」希望があり、一方、草津の人たちは「遠く憧れの善光寺にお参りしたい」という2つの要望を、しっかりとつないだことに大きな意義がありました。
創業者の南新助は発地だけでなく、着地の発想も備えており、お客様の満足を得る“ホスピタリティ精神”で行動した。そこから当社はツーリズム産業発展の一翼を担ってきました。
このような創業の原点、DNAを再認識して、人と地域の喜びに貢献できる会社を目指し、次の100年につなげていきたいと思っています。
――それでは、今年からスタートした新たな中期経営計画について具体的に教えてください。
5カ年中期経営計画(26―30年度)のテーマを「新章」としました。過去から歩んできた道がベースにあり、そこから次の章に入る意味が込められています。
新たなグループ理念と企業ビジョン「地域と顧客のソリューション企業グループ」として、より具体的に地域社会への貢献を果たしていくことに重点を置いています。
長期的にみると、社員数は自然なかたちで減少していきます。少ない社員数でも今以上に地域社会に貢献できる仕事の進め方に変えていくことが計画の根底にあり、生成AIやDX化などが加速するなかで業務運営の生産性を高めていくことが基本になっています。
また、今後も伸長するインバウンド事業に関連して、日本とは別の三国間の旅行といったグローバル事業なども多角的に進めていく方針です。
海外拠点をむやみに拡大していく考えはありませんが、目的地として地域の魅力を開発していくことは、その地域の「着地開発」でもあります。国内における着地の考え方と同じですが、グローバルな視点からもお互いの相互交流を進めていくことに変わりはありません。
年初には「インバウンド・グローバル事業本部」という専門組織を立ち上げ、そこを中心に訪日や三国間の事業を強力に進めていきます。
当社の大きな柱は、①ツーリズム事業(個人旅行事業)②ソリューション事業(自治体・企業・学校営業、BTM事業)に加え、もう1つが「インバウンド・グローバル事業」。これら3本柱が主軸となります。
これまでインバウンド事業は、ソリューション事業に包含されていましたが、1つの柱として成長させていきます。
――団体営業の方針は。
単に手配をするだけでは我われの存在価値はありません。今後も大きな事業として、質をさらに高めていくことを追求していきます。
教育事業でいえば、「学生を集められるような魅力的な修学旅行を企画する」など、学校の課題解決につながる、コンサルティングを含めた教育旅行を志向していく計画です。
――AIの活用について。
これから数年のうちに、旅行の企画やお勧めの場所の紹介、地元の情報などはAIでカスタマイズして提供できるようになり、簡単なツアーの手配や、場合によっては営業も担っていくのではないでしょうか。
しかしながら、AIには地域との人間関係づくりはできません。我われ人間だからこそできる部分を最も強化していきます。これが今後進んでいく「地域と顧客のソリューションビジネス」にしっかりとつながっていくはずです。DX化や、AIを生かした事業全体に投資を行っていく発想も重要になってきます。
――さまざまな地域と連携を広げていますが、どのように収益を上げていかれますか。
地域の観光コンテンツは色々ありますが、宿泊や、観光施設の入場、食などさまざまなコンテンツを開発して、商材化していくことがベースとなります。これらを取り仕切るサプライヤー側に挑戦していきたいと考えています。
旅行会社の主な業務は、宿泊や交通機関、オプショナルツアーなどをつなぎ合わせる仲介業でしたが、これからは提供する側にチャレンジしていく。この1つがコンテンツ開発です。
実際に、北海道の大樹町で宇宙関連ビジネスを運営しています。大樹町ではロケット発射場があるだけではなく、さまざまな衛星を使ったスマート農業や、土地そのものの観光開発にも取り組んでいます。
これらを観光素材として取り扱う総合サプライヤーとして、他の旅行会社に販売しています。とりわけ親会社であるJR西日本グループのエリア(WESTER経済圏)を中心に、全国に広げていきたいと考えています。
――日本の雇用創出に向けてグローバル人材の育成について。
実は先ほども、キルギスの大学の学生にオンラインで日本の歴史について講義をしてきました。東南アジア諸国をはじめ、キルギス、ウズベキスタンといった中央アジアは日本と親和性が高い。これら関わりの深い国々から日本で働く人材を仲介する事業がメインとなります。
今後は日本からキルギスへの観光といった相互交流をサポートするなど、事業の幅を拡大していく予定です。また、キルギスの国内産業の発展のために一定の投資も考えられます。
JR西日本関連では、鉄道、バスの運転士や整備部門など技術職も含め仲介していく。既に多くの実績もあり、当社も採用しています。
日本の文化や風習、ルールなどをしっかりと理解して守れるように、海外の方々の教育などにも、手厚いフォローやサポートをしていく事業を進めていきたい。これらは私たちの得意分野だと考えています。
――本格的にAIが進展する時代において、どのような人材が求められますか。
人間同士の関係を作れる人材です。たとえAIが進展しようとも、私たちの主たる業務は、あくまでも「人の交流であり、地域との関係づくり」です。これまでと同様に当社の取り組みに理解をいただける、日本旅行のカラーにマッチした人材と共に成長、発展していきたいと思います。
――宇宙旅行にも注力されています。
今回の中期経営計画では、新しい核となる事業を作っていくために、さまざまなものにチャレンジしていきます。グローバルな展開に加え、当社が既に取り組んでいる事業領域は宇宙です。
いわゆる有人の宇宙旅行に本格的に取り組んでいるのは、国内旅行会社では当社が初めてです。
2030年代には、5人ほどのシャトルで宇宙空間を経由した2地点間の輸送が可能になります。40年代には、50人規模で宇宙空間に滞在する宇宙旅行を実現させる予定です。
私たちが思い描く宇宙旅行は、実際に行くまでのプロセスも含まれます。シャトルの建設現場や、宇宙食の試食、宇宙に行くための訓練、宇宙関係者との懇談の機会なども、すべて宇宙旅行の一環という考え方です。そのコンテンツを我われが取り仕切って、1つの商品として販売していく。今年から、優先搭乗券の予約を開始します。
宇宙旅行事業はコンテンツ開発の1つであり、宇宙というコンテンツを当社がサプライヤーとなって提供していく。これまで携わってきた国内旅行、海外旅行に、宇宙という新たなコンテンツを開発・創出することにより、さらに裾野の広い事業展開が可能になります。宇宙旅行分野における“第一人者”の旅行会社として成長していくために、地道に一歩ずつ歩んでいきます。
――日本旅行協定旅館ホテル連盟との関係は。
連盟は今後も揺るぎないパートナーであり、より大きなメリットを享受していただけるような施策をこれからもどんどん打っていきます。送客拡大はもちろんですが、宿泊施設が抱えるさまざまな課題についてもより強固な関係を築き、ウィン―ウィンの関係として恩返しをしていきたいと思っています。
人材不足という課題に関しては、既に旅館にも海外人材を供給しています。個人旅行では埋まらない平日には、団体旅行やインバウンド客を送客できるように、連盟と二人三脚で双方が発展できるような事業に取り組んでいきます。
――最後に抱負を。
コロナ禍では私自身も現場に入り、社員とともに苦境を乗り越えました。そして120周年の節目で社長を任されました。
先人たちが築いた歴史を大切にしながら、今いる日本旅行の仲間たちと「総合観光業」として、新しい歴史を築いていきたいと考えています。
――ありがとうございました。
【本紙1968号または3月5日(木)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】


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輪島温泉宿泊業協同組合の大向洋紀理事長、輪島市観光協会の新甫実会長、日本旅行の三好一弘ツーリズム事業本部長、輪島市の中山由紀夫副市長-120x120.png)
