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【特集 No.671】 再生 長門湯本温泉 「オソト天国」で滞在型温泉地へ

2025年8月1日
編集部:増田 剛

2025年8月1日(金) 配信

 山口県・長門湯本温泉は、2016年1月に温泉街全体を再生するまちづくり計画「マスタープラン」が策定され、活性化に向けて日々進化している。公民連携と、地元住民を巻き込んだ「温泉街の魅力創出→各施設の収益向上→地域への再投資」のサイクルが機能し、今、最も注目すべき温泉地の一つとなっている。温泉地再生への取り組みの中心的な役割を担う、老舗旅館「大谷山荘」社長の大谷和弘氏に、まちづくりの中核となる公衆浴場「恩湯(おんとう)」への想いや、今後の目指す方向性などを聞いた。

【本紙編集長・増田 剛】

「恩湯」核に暮らしを大事に

 2020年3月、大谷和弘氏は大谷山荘の5代目社長に就任した。同時期に「星野リゾート 界 長門」が開業、公衆浴場「恩湯」のリニューアルオープン、そして新型コロナ禍への突入が重なった。

 長門湯本温泉の再生への流れが動き始める契機となったのは、2014年に破産した老舗名旅館の跡地に、長門市の前市長・大西倉雄氏が星野リゾートの誘致に乗り出したところからだ。

 星野リゾートの星野佳路代表は単なる旅館の出店でなく、温泉街全体の再生へ、まちづくり計画の草案を提案。これを基に、長門市は「マスタープラン」策定に動き出す。

 同市は、経済産業省から地方創生人材支援制度で派遣されていた木村隼斗氏(当時・経済観光部長)が牽引し、「温泉街の魅力創出→各施設の収益向上→地域への再投資」といった持続可能な仕組みづくりを進めていった。

 「マスタープラン」は16年1月に策定された。これにより、衰退に向かっていた長門湯本温泉の再生への道が敷かれた。「恩湯」を中心に散策ができるように、飲食店の誘致や文化体験、憩える空間づくりなど、そぞろ歩きが楽しい「オソト天国」をコンセプトに、地域を巻き込んだ“歴史と未来をつなぐ”壮大な実験が始まった。

 「明治時代の写真を見ると、音信川と温泉を中心に、暮らしを大事にしているようすが残っている。元々この街には歩く生活動線の構造があった」と大谷氏は長門湯本温泉のルーツを辿る。

 ワークショップや社会実験は85回、専門家会議55回、推進会議(意思決定会議)10回など住民との対話を重ねていく。「専門家会議は毎月8時間ぶっ通しで開き、事前の準備や反省会も含めると、回数は3倍ほどになる」と振り返る。

 「将来出店してほしい飲食店」などを集めたイベントを開催すると、想定以上に若い人が多く訪れた。「温泉街に座る場所が無かったので実験的にベンチを置くと、実際に多くの人が座ってくつろいでいました」。

 河川と道路を散策し、憩いの空間として活用できるように、協議会を設立。道路にベンチを置く「歩車共存」は警察とも交渉を続けた。通行止めのエリアを設けるなど、しっかりとした管理体制のもと運営している。

 川床の管理には水量などのデータをとり、常設化を実現。「昭和初期までは音信川に沿った旅館の前に、住民たちがテラスを作っていました。そのような文化が根付いていたので、懐かしさもあったのでしょう。高齢者の理解も得やすかった」と話す。

 そして、長門湯本温泉再生の核となる「恩湯」のリニューアル事業に対して、長門市は「民設民営」で公募した。1920年代に温泉組合が解散し、温泉の権利をすべて市に渡していた。それ以来、恩湯は行政が設営していたが、年間約数千万円の赤字が続いていた。

 「大寧寺第三世住職、定庵禅師の時代、1427(応永34)年の伝説から約600年続いている恩湯なので、私たちがやらずに手放してしまうと、お寺や神社、住民との関係が希薄になっていく。地元の有志が集まって『長門湯守株式会社』を立ち上げました」。 

 大谷氏が「兄のように頼りになる」と話す楊貴妃浪漫の宿玉仙閣の伊藤就一氏に相談すると、伊藤氏は「このまま放っておくと、温泉街ごと滅ぶから」とスクラムを組んだ。さらに山口銀行が無担保、無保証で融資してくれたのも大きかった。

 恩湯広場や川床、竹林の階段などハード整備が進み、コンテンツがそろってくるなかで、エリアマネジメント会社「長門湯本温泉まち株式会社」も地元有志のメンバーで設立した。代表には伊藤氏が就任し、経産省から長門湯本温泉に派遣されていた木村氏は、同省を辞め、マネージャーとして舵を取る。

 持続可能なまちづくりには、積み立てによるハードの修繕や、マーケティングも必要となる。その原資は「入湯税」だ。

 従来150円だった入湯税を、300円に引き上げた。心配の声もあったが、12軒の旅館と何度も議論を重ねた。増額した150円を基金として……

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