【特集 No.666】加賀屋グループ 26年度冬に「新旅館」開業目指す
2025年3月1日(土) 配信
「加賀屋グループ」(石川県七尾市)は、旅行新聞新社が取材活動などを通じて見聞きした観光業界の取り組みのなかから、創意工夫の見られるものを独自に選び表彰する「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2024」(2024年12月1日号発表)のグランプリを受賞した。24年1月1日に発生した能登半島地震に被災し、和倉温泉にある4ブランドの旅館は休業中だが、26年度冬の新館開業に向けて前進を始めている。グループ全体の「リブランディング」を目指す加賀屋の渡辺崇嗣社長に将来ビジョンなどを聞いた。
【本紙編集長・増田 剛】
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□和倉を拠点に「大改革」へ 宿のリブランディングに着手
――能登半島地震により本業の旅館業が休業するなか、昨年(2024年)1年間はどのような事業の方向性を打ち出されましたか。
誰も予想ができなかった1月1日の大地震に、スタッフは宿泊客の対応に全力を尽くしました。地域の方々やマスメディア、SNSもスタッフの頑張りを認めていただき、それが私たちへの「応援のメッセージ」として大変励みになりました。
お客様のお見送りが無事に終わったあと、早い段階で建物の被害状況の確認を建設会社にお願いをしました。
しかしながら、和倉温泉にある加賀屋グループ4ブランド7棟をしっかり診断するには、掘り起こしの作業なども必要で、想定よりも多くの時間がかかりました。出てきた診断結果も大半がグレーゾーンで、判断が難しい状態でした。
加賀屋本店については、雪月花、渚亭、客殿、本陣の4棟うち、築年数が比較的浅い雪月花、渚亭を軸にどのように立て直すか、議論をスタートしました。
既存の建物を残した場合の改修費用と、新館建設に掛かる費用の比較など、夏以降は両睨みで検討を続けました。さらに建設関係の人件費や資材の高騰などの影響もあって工期と費用の見積もりにも時間を要しました。
――従業員の雇用維持などは。
被災により自宅での生活ができない従業員も多く、また、さまざまな申請手続きなどもあり、まずは各家庭の対応に専念してもらいました。
少し落ち着いた従業員から「旅館の片付けなど協力します」と出社してくれましたが、館内は立ち入り禁止状態だったため、作業を進めることが難しい状況でした。調理スタッフは避難所で率先して炊き出しを行うなど、少しでも地域に貢献できることに専念しました。
従業員は最初の数カ月は自宅待機してもらい、それから出向というかたちで対応しました。
1年間延長となった雇用調整助成金をベースとしながら、当社グループ内の宿泊施設「金沢茶屋」や、全国8カ所に出店しているレストランも含め、約1100人の従業員のうち、現在約160人が出向しています。
ありがたいことに全国の宿泊施設や、食品会社、スーパー、物販事業者など約40社からも当社スタッフの出向受け入れのお声掛けをいただきました。
一方、当社グループのレストランなどは人手不足により、これまで機会損失を発生させていた店舗もありましたが、従業員を手厚く配置することが可能になりました。
先日、慣れない地で仕事や生活をしているスタッフの激励に行きました。新しい仕事に挑戦しているスタッフの目は輝き、「今得ている経験やノウハウをいずれ和倉に持ち帰ってチャレンジしたい」と話す言葉がとてもうれしかったですね。
他社で学んできたかけがえのない経験を、しっかりと発揮できる環境をつくることが経営者の役目だと、改めて認識しました。
――昨年末に新旅館開業の発表がありました。
雪月花、渚亭を改修する案が困難だと判断した段階で新旅館建設へ思い切って舵を切りました。
震災から1年近くが経ち、社員も不安になりますから、「年内には方向性を示したい」という想いがありました。開業は26年度冬(27年3月まで)を目指しています。
「あえの風」「虹と海」「松乃碧」については、