「ノン・アイロン・リネン」を開発 工学博士・内藤耕氏インタビュー 労力の大幅削減と資金流失止める
2026年9月5日(土) 配信

工学博士の内藤耕氏は、生地メーカーと共同で、現場の負担を軽減する「ノン・アイロン・リネン」を新たに開発した。素材は、伸縮性に富んだ3次元形状のポリエステル100%生地のため、プレスが不要。内藤氏は「リネン洗濯の内製化フローで、作業性の飛躍的向上と現場の肉体的負担の大幅軽減を実現し、固定費の大幅なコスト削減につながる」と語る。導入した宿の実例をもとに、清掃・リネン洗濯の内製化の業務フローなど、詳しく聞いた。
【本紙編集長=増田 剛】
――宿泊業の成長産業化に向けた取り組みが活発化しています。
そもそも宿泊業界は大変厳しい市場環境に晒されています。人口減少による内需の縮小から、多くの地方で客数減によって売上を増やすことが難しくなっています。団体客が減って主要な客層が個人化して、大きな投資を伴う宿泊施設の業態転換も迫られています。同時にインフレにより、ありとあらゆる経費が上昇しています。
インバウンド客が増えている地域もありますが、人手が確保できず、「客室の清掃が間に合わない」、「調理スタッフの休日を確保できない」ことが常態化しています。なんとか人手を確保するために、賃金アップを含めたスタッフの抜本的な処遇改善にも努めなければならない状況にあります。
つまり、売上高が増えない、たとえ増えたとしてもそれ以上に経費が増える厳しい状況が今後も続きそうです。
一方、厳しい国際競争に晒されてきた製造業は、これまでさまざまな工夫をしてきました。その一つが、部品や製造方法の標準化で、これにより各メーカーは商品の開発やデザイン、ユーザビリティなどに、より専念できるようにしてきました。
宿泊業などを含めたサービス産業では、このような取り組みはまだまだ未成熟で、結果として各現場でサービスの提供方法を一から組み立てることに多くの労力を費やしています。
このような問題意識から、私はこれまでサービス産業の現場に使える部品として、労働時間管理法(稼働対応労働時間)、現場業務管理法(シフト編成ソフトopsplot)、リネン内製化(ノン・アイロン・リネン)、現場の業務フロー(リアルタイム・サービス法)を開発し、これらを裏付ける科学的理論(サービス・キネティクス原則)を提案してきました(詳しくは書籍「サービス産業・労働生産性の革新 理論と実務」旅行新聞新社)。
今回は、その一つであるリネン内製化についてご紹介します。

――一部の宿でリネンの洗濯内製化が進んでいます。
固定費の大幅な削減が期待できるリネン洗濯の内製化について、私は10年以上前から高い関心を持ち続けてきました。
ゴルフ場や健康ランドなどでは早くから、代表的なリネン類であるタオルや部屋着などの洗濯内製化を普通に行っていたので、作業工程などのノウハウは蓄積していました。しかし、宿泊業の場合、「シーツ類をどうするか」が大きな課題でした。
ずいぶん前のことですが、ある旅館経営者から、「海外のホテルでは化学繊維製の生地のシーツを使い始めている」ことを耳にしました。もしこれが事実ならば、伸縮性がある化繊生地は、シワのコントロールが容易になり、これによりプレス加工を省ければシーツ類の形状の制約がなくなり、ベッドメイクや布団敷きの労力を大幅に削減できるだけでなく、これまで外注されてきたリネン類の洗濯の内製化で資金流失を止めることもできると思いました。
――「プレス加工の呪縛から解放される」ということですね。
糊付けしてプレスすることでシワを解消できるメリットがありますが、デメリットとしてプレス機を通すために形状の制約を受けてしまうことがあります。もし伸縮性により、シワのコントロールが容易になれば、プレス機を通さないボックス型の「3次元のフィットシーツ形状」が実現し、現場の日々の作業性の飛躍的な向上につながります。
このような考えから、洗濯の内製化に適した素材をずっと探していたところ、大手インテリア量販店がフィットシーツ(ボックスシーツ)を販売するようになり、「これだ」と思いました。しかし、仮に家庭用として使えたとしても、毎日洗濯・乾燥をする旅館やホテルで「耐用が可能なのか」という課題があり、最終的に実用に至りませんでした。
同様の問題意識から、さまざまなメーカーから化繊生地の業務用シーツ類が販売され始めていますが、実際の現場で使おうとすると色々な課題が出てきました。
例えば、ベッドに掛けるシーツは、下側のゴムの力で止める形状になっているものが多く、乾燥機を高頻度で使用するうちにゴムが緩んでいくことも考慮に入れなければなりません。また生地によっては、生地自身がへたり、また毛玉やほつれやすかったりもします。また静電気防止の加工がされていないと、洗濯時のスタッフの負担が大きく、また埃や毛類を引きつけます。
しかし、ある温泉旅館で実際にリネン類の内製化に着手してみると、洗濯が意外にも手間が掛からないことが分かりました。ベッド、掛け布団、枕などのリネン類を細かく仕分けせずに洗濯・乾燥して、その日のうちに客室に戻してベッドメイクなどをしてしまうので、作業工程が大幅に減り、既存の清掃業務の中で内製化へ移行できてしまいました。
リネン類の外注業者は洗濯工場への運搬などの手間から一般的に4―5日分の在庫を抱える必要があり、夏の繁忙期などはシーツやタオル類などの枚数が足りなくなることもあり、施設側の枚数の管理に多くの労力を費やしています。しかし、内製化すれば、使ったシーツ類を即洗濯し、1時間後に元に戻せるので、その日のベッドメイクが可能になり、極言すれば1日分の在庫で回るようになります。
はがしたシーツ類を洗濯して元の客室に戻すため、保管する作業や、一次保管した場所にシーツ類を取りに行くといった作業も無くなります。「何枚取りに行くか」という帳票づくりの作業も不要になります。
内製化で一見すると仕事量が増えるように考えがちですが、不要となる作業量はその何倍にもなります。ベッドメイクや布団敷きの肉体的負担減により省人化も進み、帳票づくりや枚数の管理が無くなり、現状の清掃スタッフの人員で実現できてしまうだけでなく、外注していた時よりもむしろ省人化を実現してしまうのです。
――具体的にどのような作業工程ですか。
フロアごとに各客室にあるシーツ類を一斉にはがして、仕分けもせずに洗濯機1台分の容量の大きさの袋に入れて洗濯し、乾燥機に移し替えます。乾燥が終わると、取り違えないよう別に色分けした袋に戻します。このときに枕カバーとベッドのフィットシーツはベッドに取り付けることでシワが伸びて解消できますが、デュベカバー(封筒状の布団カバー)は、お客の目に直接触れる部分なので、簡易的に折り畳んで運ぶようにしています。
当初は洗い終わったシーツ類を同じフロアにワゴンで運ぶやり方でしたが、洗濯に30分、乾燥に30分と計1時間分の時間差が生じるため、前日の夕方に洗った1フロア分を在庫として余分に持ち、それらを最初のフロアに持って行き、フロアごとにずらしてシーツ類を交換しながらベッドメイクするように変えました。
そうすると、時間のロスなくシーツ類の回収とベッドメイクが一連の作業で同じチームででき、最後に洗濯した1フロア分のシーツ類を、翌日の最初のフロア分として持って行くため、枚数を管理する作業もありません。
――客室清掃やリネンの交換では静電気対策が重要です。
リネン洗濯の内製化により、清掃前にシーツ類を集め、そしてベッドメイクしなければならないので、毛や埃を巻き込んでしまうケースがありました。そこで生地の素材に静電気防止糸をつけると、表面もツルツルして髪の毛などが張り付くこともなく、問題が解決しました。
これまではベッドメイクを清掃後にやるので、気づかずに舞っていた綿埃が、お客が入室したときにテーブルなどに付着してしまうことも多くあります。このためベッドメイクを最初にやって、その後に、床回り、水回りの清掃を分業制で行っています。
――内製化した清掃をチームによる分業制にしている理由は。
1つの客室に複数のスタッフが入ることになり、1つの客室を複数の目で見ること(チェック)が可能になります。これによってミスを発見しやすくなります。
例えば、冷蔵庫の清掃に4人が手を触れます。①冷蔵庫の電源を切ってドアを開ける人②拭く人③仕上げる人④客室案内時に冷蔵庫の中を開けてお客に説明する人――です。
1人で完結すると、どうしても見落としが出てきます。作業工程の中にチェック機能が働き、「作業中に品質が上がっていく」方法を取っていて、多くの宿泊施設で行われているフロントスタッフによる客室のチェックもなくせます。
――現場の負担を軽減するために開発された新素材とは。
生地メーカーとの出会いがあり、ポリエステル100%の静電気防止糸の入った「ノン・アイロン・リネン」を共同開発できました。
開発のなかで重要視したのは、①「作業性」を上げていく②「耐久性」を担保する――の2点です。
作業性を上げる部分では、現場の肉体的な負担が大きく軽減されるため、一度体験すると、むしろ現場スタッフから経営者にリネンの洗濯内製化を催促することが実際に起こっているところがこの内製化の特徴です。
3次元形状のシーツは4隅を引っ掛けるだけなので、ベッドを動かすこともなく1人でベッドメイクが可能です。また、短辺と長辺、裏と表、対応するベッドのサイズを迷わず、一目で分かるように糸の色を変え、セミダブル、ダブルベッドも糸の色で見分けられるように工夫しています。デザインは無地とストライプの2種類をそろえています。
耐久性については、毛玉やほつれ、へたりの問題をどう解消していくかがポイントです。3次元形状の下には輪ゴムを使わず、生地自身の伸縮性だけで止められる素材を採用し、不快な就寝中のシーツのズレが生じないところも強みです。
綿の掛布団カバーは乾燥機を掛けると縮むため、少し大きめに作るため間延びした印象もありますが、開発した生地は縮むことがないので、布団のサイズに対して若干小さめに作っています。これによって全体的に布団がふっくらし、シワが目立たなくなります。
このノン・アイロン・リネンに関心があれば、QRコードからお問い合わせください。サンプルを有償提供もしています。







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