「観光革命」地球規模の構造的変化(290) 安全保障と観光立国
2025年1月12日(月) 配信
中国の軍事的挑発や威嚇が頻発するなかで新しい年を迎えた。昨年末には中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射や中国公船による領海侵犯、中露の爆撃機による日本周辺での共同飛行などで挑発や威嚇が行われた。それに対して航空自衛隊は日本海上で米軍のB52爆撃機と共同訓練を実施し、米国は世界最強艦隊と評される原子力空母リンカーン号を中核にした空母打撃群を日本近海に配備し、日本の防衛ライン強化がはかられている。
憂国・救国の学者・戦略家として著名な内田樹氏は新刊書「沈む祖国を救うには」(マガジンハウス新書)で独自の観光立国論を展開しているので紹介しておきたい。内田氏の論点を私なりに要約すると、以下の通り。
「温泉、神社仏閣、桜や紅葉、伝統芸能、美酒美食・・日本には世界に誇る観光資源がある。一朝一夕でできたものではない。千古の努力の成果である・・やはり日本の未来は『観光立国』だろう。食文化と接客の質において間違いなく日本は世界一である・・だとすれば、世界中の人が『日本に行きたい。日本で休暇を過ごしたい。できたら日本で暮らしたい』と思うところまで『歓待の国』化したらどうか・・兵器を買う金があったら観光資源を充実させる方が安全保障上効果的であると私は考える」。
とはいえ中国、ロシア、北朝鮮など嫌日的国家に囲まれる日本の安全保障は容易ではない。同盟国の米国は日本の防衛費を国内総生産(GDP)比3・5%へ拡大することを非公式に求めており、防衛費増額による増税が不可避になり、旅行どころではなくなる。
北欧諸国はロシアによるウクライナ侵攻を受けて防衛費が膨らみ、福祉国家が大きな曲がり角を迎えている。旧ソ連・現ロシアの脅威に対抗するために1949年に設立されたNATO(北太西洋条約機構)に加盟して集団的自衛権に基づく安全保障を重視している。ところがNATOは加盟国に一層の防衛費増額を求めているために財政が圧迫され、社会福祉の大幅見直しに至っている。
観光は文化的安全保障としての役割を期待されているが、強力な軍事的脅威に対して決して万全とはいえない。「平和産業としての観光産業」の発展に貢献している業界関係者のさらなる尽力が求められている。

北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。


