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「観光革命」地球規模の構造的変化(287) 対米80兆円投資の怪

2025年10月4日(土) 配信

 今夏は記録的猛暑が続いたので、私のような高齢者には辛い日々であった。かつての日本では夏には怪談が付きものだった。日本の夏の年中行事である「お盆」には、あの世から死者の霊魂が帰ってくるだけでなく、恨みを抱く怨霊も帰ってくると考えられていた。日本の夏は祖先の霊魂と交感する季節だけでなく、怨霊の無念を語る季節でもあったために夏には怪談が付きものだったと民俗学者は解釈している。

 私は子供のころから怖がりだったので怪談が苦手だ。そのため今夏の日米関税交渉で赤澤亮正経済再生相がラトニック商務長官との協議の結果、5500億㌦(約80兆円)の対米投資を約束したという報道に接したときに強い不可解を感じた。私には詳しい内容が不明であるが、単純化すると、トランプ大統領の任期中(あと約3年)に大統領が選定する米国プロジェクトに日本側が約80兆円を投資する。日本はプロジェクトを拒否する権利を有するが、その場合、米国は日本からの輸入品に関税を課す。投資額を回収するまではプロジェクトの利益を日米で均等に分配するが、その後は利益の90%を米国に、10%を日本に分配するとのこと。

 この対米投資は、タテマエとして民間主導の投資とされているが、現実には日本の政府系金融機関の資金や日本貿易保険(100%政府出資の公的輸出信用機関)の保証付きなど、公的資金による投資にならざるを得ない。そういう意味で、あたかも日本が米国の属国であるかのような不平等な協定に基づく対米投資で、真夏の怪談のようなおぞましい内容で驚愕している。

 対米80兆円投資を含めて、日本はいまさまざまな内憂外患を抱えており、優れた国家指導者の存在を必要としている。そういう危機的状況の中で新しい自民党総裁を選出するプロセスが進行中だ(10月4日投開票)。5人の総裁候補者による討論を見聞きしていても、日本の国益を守り、地域の繁栄を実現して、国民を確実に幸せにしてくれる中央政治家の不在を思い知らされるだけで、日本の未来に不安を感じるばかりだ。

 80兆円もの膨大な投資資金の余裕があれば、日本国内のさまざまなプロジェクトにこそ有効活用すべきであり、それによって明るい未来を切り拓くことができるはずだ。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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