「観光革命」地球規模の構造的変化(285)日本人ファースト
2025年8月10日(日) 配信
先日の参議院選挙で与党の自民、公明両党が大敗し、日本政治は根本的大転換の時代を迎えた。自民、公明両党は昨年の衆議院選挙で少数与党に転落しており、今回の参議院選挙でも大幅に議席を失って、自公政治の限界が明確に示された。ところが参院選後の朝日新聞社の世論調査では、「石破首相は辞めるべき」41%、「辞める必要なし」47%、という極めて意味深長な民意が示されている。
大敗を喫した与党に対して、野党の立憲民主党や日本維新の会は獲得議席が横ばいであったが、国民民主党と参政党は議席を大幅増加させた。とくに参政党は他党とは異なり、「日本人ファースト」を声高に叫んで大躍進を遂げた。参政党の政策は十分に練り上げられていないが、「行き過ぎた外国人受け入れに反対」という排外的主張のウケが良い点に危惧を感じている。
政府は2030年に6000万人の外国人観光客受け入れを国家目標にしているが、観光地では既に人手不足が現実化すると共に、オーバーツーリズム批判が顕著になっている。参政党による「日本人ファースト」が排外主義に傾斜すると、政府が目指しているインバウンド観光立国の実現は容易ではなくなる。
「週刊新潮」は「夏休み穴場の旅行先はココです! インバウンドの少ない観光地ベスト5」という特集記事を組んでいる。要するに観光庁の「宿泊旅行統計調査」に基づいて、47都道府県の中で宿泊者の少ない県を穴場とみなして紹介している。
具体的には統計調査最下位47位の島根県から順に、福井県、鳥取県、秋田県、山口県の穴場観光地を取り上げている。日本全国の観光名所がインバウンドで溢れ返り、混雑、騒音、ゴミ問題などの「インバウンド公害」の深刻化で国内旅行を控える日本人のためのプロモーションが行われているわけだ。
インバウンド隆盛化に伴うオーバーツーリズム問題は日本人による国内旅行の低調化を生み出しており、円安による外国人消費が目立つなかで「日本が安売りされている」と感じている日本人が増えている。
日本各地の旅行業界のリーダーは行き過ぎた外国人観光客排斥が生じないように、参政党との対話を進め、「平和産業としての旅行産業」の意義を周到に伝える必要がある。

北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。


