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〈旅行新聞11月1日号コラム〉――社員旅行の一風景 今の時世を象徴するような温泉宿の宴

2025年11月1日
編集部:増田 剛

2025年11月1日(土) 配信

 秋も深まり、冬の気配も漂い始めた10月下旬、ふと1人旅がしたくなり、かねてより一度訪れてみたいと思っていた、富山県の越中八尾を目的地と定め、早朝に単車のエンジンに火を入れた。

 まずは神奈川から中央自動車道、長野自動車道で松本市を目指した。中央自動車道の下りは上り坂が続く。この日は風も強く、途中から霧雨に変わった。

 山梨から長野にかけては、大きく成長したススキが左右に揺れ、所々で金木犀も香った。標高が高まるにつれ、気温は低下し、「もう一枚、重ね着して来ればよかった」と後悔した。

 松本市から上高地、そして高山市方面へ安房峠を越えて行った。単車にナビゲーションシステムを装備していないため、安房峠の旧道に迷い込んだ。すれ違う車も皆無に近く、多数の猿が道路の真ん中に座っていた。横をゆっくりと通り過ぎる時も逃げなかった。スマートフォンは圏外になりがちで、振出しに戻るという失敗もあった。

 熊による被害が連日報道されるなか、1人の女性が旧道を歩いているのを見掛けた。「この道を1人で歩く勇気はないな」と思いながら、枯れ葉に覆われた細い道をすれ違った。

 高山市を抜け、岩や石が目立つ神通川沿いの山間の道を走り、越中八尾に到着したのは、日没後だった。

 誰もいない古い街並みに、オレンジ色の街燈が等間隔に灯されていた。幻想的な「おわら風の盆」は9月に行われていたが、その趣を想像しながら、静かなまちの空気を吸い込んだ。

 宿は射水市に予約していた。とても空腹を感じたので、目についた焼き肉店で「一人焼肉」を楽しみ、温泉に入った。

 翌朝は、宿の朝食会場で特性カレーライスとクロワッサン、イチゴジャム、コンソメスープ、千切りキャベツのサラダと、熱いコーヒーを求めた。朝食会場のテレビは、高市政権の外交が本格始動したようすを高揚感とともに伝えていた。そして日本海に近い場所から、再び来た道を復路として辿って帰った。

 さまざまな旅のスタイルがあるが、単車の1人旅は、その「気まま」さが良い。一方で、夏から秋にかけて、1人旅の対極にある団体旅行の一行と遭遇したのが印象的だった。

 1つは、新千歳空港行きの成田空港ロビーで、20人ほどの社員旅行が出発する前に、社長が張り切ってあいさつをしていた。早朝6時台だったが、聞いているベテランぞろいの従業員は全員、缶ビールを片手に赤い顔をしている人もいた。“昭和っぽさ”が懐かしく感じた。

 もう一つは、鹿児島県・指宿温泉の大型旅館の宴会場で食事をしていると、15人ほどの団体客が浴衣姿で入ってきて、若い社長の乾杯の音頭とともに、宴が始まった。

 社長は30代半ばで、アルコールが苦手らしい。ソフトドリンクコーナーでコーラを何度もおかわりして、一生懸命に社員に話し掛けながら座を盛り上げようとしていた。従業員は50~70代が中心で、生ビールや芋焼酎のお湯割りなどを飲んでいた。

 今の時世を象徴しているように、中小企業の従業員は総じて高齢化が進んでいた。宴会場で若い社長が、親の世代に近い従業員の慰労と親睦を兼ねて、奮発して大衆的な温泉旅館に連れて来た姿が何とも味わい深く、芋焼酎を片手に目が離せなかった。

(編集長・増田 剛)

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