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〈旅行新聞7月1日号コラム〉――街づくりは「ゆっくりと」 グローバルな均質化の流れは抗い難い

2025年7月1日
編集部:増田 剛

2025年7月1日(火) 配信

 先日、山口県の長門湯本温泉を訪れた。約10年ぶりの再訪で、温泉街は大きく様変わりしていた。かつては、大型観光バスが駐車場に並んでいた長門湯本温泉も団体旅行から個人旅行に移行するなかで、前回の訪問した10年前は「時代の変わり目」を迎えていた時期だった。

 名旅館「白木屋グランドホテル」の跡地には、星野リゾート「界 長門」が開業。温泉街のシンボル・公衆浴場「恩湯」がリニューアルオープンするなど個人的にも注目していた。星野リゾートは単に旅館が進出するだけではなく、長門湯本温泉を再生する街づくりの「マスタープラン」を策定。さまざまな専門家も加わり魅力溢れる温泉街へと生まれ変わりつつある。

 この過程と、これからの長門湯本温泉について、大谷山荘社長の大谷和弘氏にインタビュー取材しており、次号8月1日号で詳しく紹介する予定だ。

 昼食には、長門湯本温泉の歴史ある木造アパートをリノベーションした「瓦そば柳屋」で、楽しみにしていた瓦そばを食べた。ここはオススメだ。隣の席には若いサラリーマンの男性2人が瓦そばを食べていた。2人の会話から察すると、1人は最近東京から山口にUターンしたらしく、「どう、こっちに戻ってから東京に行くこともあるの?」と先輩格の方に聞かれ、「いや、行きたいという気持ちがまったく無くなりました。渋谷とか行っても疲れるだけですし……」と答えていた。

 取材後、関門海峡に向けて山口の海辺と里山の道を車で走った。感じたのは生活文化の豊かさだった。たまたま立ち寄った道の駅に並ぶ地元の野菜や果物、海産物、加工品、地酒などのクオリティの高さもそうだが、野焼きの煙の匂い、田園風景、清流など、失われつつある日本の美しさに心が動かされた。そして瓦そば屋で耳にした2人の若者の会話を思い出した。

 途中、子供のころの記憶が蘇り、下関市の土井ヶ浜を訪れた。懐かしく誰もいない真っ白い浜辺で静かな波にそっと手を入れた。再び車に戻り、薄暮の海岸線を淡い夕陽を浴びながら車を走らせていると、昨冬、宮崎県から大分県方面へ向かう日向灘の小さな港町で感じた「懐かしさ」と同じ感情が湧き起こってきた。その理由はどこにあるのか考えると、1つの答えが浮かんできた。それは失われつつある古き良き日本の風景だった。

 世界中から「日本を訪れたい」と思っていただけることは、大変ありがたいことである。遠方からの旅行者には、心から歓迎したい気持ちでいっぱいである。しかしながら現状は、マナーやルール違反も見られ、各地でトラブルが発生している。国が推進する観光立国は、経済的利益を除いて「正しい道」を進んでいるのだろうか。失われることは、余り語られない。

 「うちの地域はインバウンド比率が低い」と、肩身が狭そうに話される場面にしばしば出会う。だが、外国人に知られていない観光地や温泉地だからこそ、愛する日本人も多くいる。「外国人に発見されていない」ことが、日本人旅行者にプラスに作用する時代でもあるのだ。

 インバウンドで活況な観光地の多くは経済的利益の代償として、陳腐化との闘いもある。個性化よりも、「グローバルな均質化」に向かう流れは抗い難い。街づくりは性急ではなく、ゆっくりと育てていくことが望ましい。

(編集長・増田 剛)

 

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