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〈旅行新聞5月1日号コラム〉――維持・再生に価値 長期的なメンテナンス計画が必要に

2025年5月1日
編集部:増田 剛

2025年5月1日(木) 配信

 出張や旅先でレンタカーを借りる機会がある。機動性の良い小型車や軽自動車を中心に選ぶので、トヨタやスズキ、ダイハツなど各社の乗り比べもできる。数時間のわずかな付き合いだが、命を託して一緒に旅する相棒となる。

 レンタカーの車は、毎日見知らぬドライバーと出会い、行き先も異なる。いつも同じオーナーを乗せる「マイカー」とは境遇が違う。運転者の技量やブレーキの踏み方など千差万別なので、予想できない「傷み」を感じるのではないか。また「自分のクルマではないから」という理由で、荒っぽい運転や酷使されるシーンを想像すると、単なる工業製品という範疇を超えて胸が痛む。小さなレンタカー店では、少々ヤレの目立つ車と出会う確率が高い。運転席に座った瞬間「オマエも色々な経験をしてきたようだな……」と妙に対人的な感情が湧いてくる。

 家の近所にある小さなレンタカーショップでは、若いスタッフが洗車や、専用の掃除機で車内を清掃している姿をしばしば見掛ける。レンタカーの車両が清掃され、ピカピカに輝く姿を目にすると、心が温まる。

 これと似た存在として、宿泊施設の客室を思い浮かべる。自分の部屋は誰もが愛着を持ち、過ごしやすいように自分好みにカスタマイズしていく。しかし宿の客室はあらゆる人に使いやすく、清掃しやすいように簡素化された空間として造られている。必要最低限の生活用品であるベッドやテーブル、椅子、冷蔵庫、バス・トイレなどをスタッフが毎日清掃して繰り返し使用される。自分専用の空間ではないため、あちこちに傷が残っていたり、摩耗があったりする。それが宿の歴史として味わいを生み出すこともある。

 真新しいホテルに宿泊すると、新築独特の新鮮さと清潔感で、心地よさを感じる。一方、数えきれない旅人を宿泊させてきた客室には、新築の客室にはない、歴史を刻んだ重厚な空気が漂う。「長い時を刻む」ということは、宿主に大事に手を掛けられ、宿泊客に愛されてきた証であり、歴史こそホテル・旅館の最大の誇りだと思う。その年輪を重ねた誇りは無言のまま宿泊客に伝わるものだ。宿泊施設も、より長期的なメンテナンス計画が必要になるだろう。

 昔、古いオートバイを安く買ってきて、少しずつ手を入れていったことを思い出す。錆びたチェーンを真新しいものに換え、ガタついたステムベアリングを交換し、エンジンオイルも頻繁に入れ替えた。

 一つずつ最新の部品を装着し、良質なオイルを流入させることで、購入したときよりも動きが良くなっていった。メンテナンス費用は多少かかったが、細々と改良していったので、大きな負担にはならなかった。所有する単車が年を経ていくごとに綺麗になり、ある時点で「購入時よりも性能が上がった」と感じた瞬間は、楽しくもあり、感慨深かった。

 日々進化する文明のなかで、古(旧)きものは色褪せ、捨てられてゆく運命にある。しかし古き本体に最先端の技術や製品を取り入れて、維持・再生していくことに価値を感じる人は多いはずだ。「愛情を込めて大事に手入れをしながら、少しずつ現代風に改良されていくもの」に心惹かれる。時代も維持(メンテナンス)へと局面は変わった。物にも魂が宿ると信じている。

(編集長・増田 剛)

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