test

〈旅行新聞6月1日号コラム〉――必要最低限の宿 アンダーステイトメントなおもてなし

2025年6月1日
編集部:増田 剛

2025年6月1日(日) 配信

 インバウンドや国策の追い風にも背中を押され、日本の旅館やホテルは補助金を活用して施設を改修するなど、高価格帯へと移行している。コロナ後に廃業する宿泊施設が多いなか、生産性を高めながら、給与水準をアップして優秀な人材を確保している宿が各地に存在していることは頼もしく感じる。

 一方で、旅行者目線からは宿泊料金が驚くほど高騰しているため、「会社の出張費内で宿泊できるホテルが見つからない」や、「国内旅行も高くて旅行しづらい世の中になった」などの声もしばしば耳にするようになった。実際、程好い価格帯の宿を見つけるのは至難の業となってきている。

 最近思うのは、宿泊料金が軒並み高くなるなか、経営を諦めかけていた、古くて立地条件の良くない宿にも、生き残れる道が十分にあるのではないかということ。「新装」「ラグジュアリー」「アクセス良好」「贅沢なひととき」などのベクトルでは勝負にならなくても、「安価」では勝機はあるはずだ。検索サイトでは、多くの人は「安い順」でソートをかける。検索順位が高めに出てくる宿は、旅行者にとって「救いの神」のような存在に映る。

 今、とても関心があるのは、「必要最低限のサービスを提供する宿」だ。建物は古くても、清掃はしっかりしていて、障子や襖の破れも補修されている。布団や毛布も高級ではないが、旅の疲れを緩和できるくらいの清潔なものが用意されている。ありきたりの箪笥が一竿、軽めのテーブルと座布団が置かれ、小さなテレビと冷蔵庫が1台。浴槽には磨いた鏡と、必要最低限のアメニティが置いてある。それ以外何もないシンプルな客室。さまざまな誘惑に負けず、安い代わりにコストをできるだけ掛けない信念を貫いた宿。

 私はそのような「過剰さ」を排除した宿を大切な宝物として幾つかストックしており、ときどき“安心して”利用する。こちらが望まぬ過剰なサービスが巷に溢れ、半ば強制的に付与されている意識がどこかにある。このため必要最低限というシンプルさを求めてしまう。

 「店をオシャレに改装したから値上げしました」的な世界に囲まれている。自分の価値観と合わないモノやサービスにはお金を支払いたくないという感覚は、今後さらに強まっていくはずだ。質実剛健な商品をプレーンな状態で提供し、必要ならば消費者がオプションとして付加できるシステムが理想的なサービスの在り方に感じる。

 日々、最高級のおもてなしサービスを提供されている宿には、尊敬の念に堪えない。一方で安価な宿にはサービスのシンプルさゆえに「必要以上に事前期待を上げない」強みもある。

 高価な食材ではなく、その時期に一番安い旬な魚や、地元野菜のサラダ、炊き立てのご飯と味噌汁の朝食が贅沢に感じたり、真夏に客室のポットに氷入りのお茶がたっぷり入っているだけで期待以上の感動に変わったりする。旅のおもてなしの原点は、案外そのようなシンプルなものなのかもしれない。

 今流行りの「付加価値をどうしたら生み出せるか」を考えた末、思いついた一つひとつのサービスが旅行者にはあまり必要と感じることのない「過剰」なおもてなしになっていないか。過剰さを控えるアンダーステイトメントなおもてなしは最も難しい。

(編集長・増田 剛)

いいね・フォローして最新記事をチェック

コメント受付中
この記事への意見や感想をどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。