「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(177) どちらも大切なお客様 「基準」設けて行動に自信を
2025年10月18日(土) 配信

以前は電車内で「携帯電話での通話はご遠慮ください」というアナウンスを頻繁に耳にしたものです。しかし最近はあまり聞かなくなりました。これは決して、車内で携帯電話を使う人がいなくなったからではありません。多くの人が「車内通話はマナー違反である」と認識するようになり、注意の声を掛けたり、厳しい視線を送ったりする乗客が増えたことが背景にあると考えられます。つまり、マナーが社会に浸透しつつあるのです。
しかし、携帯電話による通話のマナー違反は、ツアーバスやレストランでも起こっています。静かに過ごすべき空間で携帯電話を使う人がいると、周囲には不快な表情を浮かべる人が少なくありません。多くの場合は、一緒に楽しい時間を過ごしている相手の前で、せっかくの機会を台無しにしたくないという想いから直接注意をすることを避け、添乗員やレストランのスタッフに対応を依頼する人が多いのが現実です。
ところがサービス提供者にとってこれは非常に難しい問題です。注意しなければならないのは当然ですが、電話をしている人も、迷惑に感じている人も大切なお客様であるため、どちらにも不快な思いをさせずに伝える工夫が求められます。
この問題に直面したクライアント企業で社内会議を開き、対応の在り方について議論しました。結論として重要なのは、言葉選びと配慮です。「ご遠慮ください」と強く制止するのではなく、「ご協力をお願いします」と依頼のカタチで伝えることです。そして、ほかのお客様に聞こえないよう静かに小さく声を掛けることが望ましいという意見が多く出ました。お客様のプライドを傷つけずに理解を得るための工夫が必要なのです。
さらに忘れてはならないのが、会計時のひと言です。注意を受け入れてくれた方に対して「先ほどはご協力いただきありがとうございました」と感謝を伝えることで、最後に良い印象を残すことができます。その一言が、お客様が再び来てくださるきっかけとなるのです。
一方で、昨今話題となっているカスタマーハラスメント対策の観点からも、言うべきことを伝える姿勢は欠かせません。しかし、サービス業において「ダメなことはダメ」と一方的に突き放すことは簡単ではありません。お客様に寄り添いつつも毅然と伝えること。その難しいバランスを意識することこそが、真の接客力であり、信頼を築くために不可欠なことでもあります。
カスハラ問題の多くは、サービス提供者のその瞬間における行動で起こることです。だからこそ、小さな事例であっても社内的な基準を設けて、取るべき行動に自信を持たせることが大切なのです。
コラムニスト紹介

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。





