「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(175) また来てもらいたい想いを行動に乗せて 「泊まる」から「帰る」場所へ
2025年8月11日(月) 配信

先日、あるホテルで「また必ず来たい」と強く心に刻まれる体験をしました。出張でクライアント企業を訪問するため、余裕を持って早めのフライトで現地入りした日のことです。梅雨空のその日は湿度も高く、不快指数の高い一日でした。チェックインには少し早い時間でしたが、打ち合わせまで少し時間があったため、荷物を預けようとホテルに立ち寄ったのです。
フロントにその旨を伝えると、やはり部屋の準備はまだとのこと。それでも快く手続きを進めてくださり、荷物を預けることができました。時間までフロント前のソファで休むことにしたのですが、ここからが忘れがたい体験の始まりでした。
ソファに腰を下ろすと、間もなくウェルカムドリンクとして冷たいコーヒーや紅茶を持って来てくれたのです。驚いたのはその後です。スタッフはカウンターの中へ戻ることなく、自然に話しかけてくれたのです。少し離れた斜めの位置に立ち、圧迫感を与えることのない心地よい距離と声のトーンが、「話しかけられる喜び」と「見守られている安心感」を与えてくれました。
しばらくして別のスタッフが「お部屋の準備が整いました」と笑顔で知らせてくれました。本来より早めに用意してくださったようで、その配慮のおかげで、部屋で少し休むことができたのです。
打ち合わせのため外出する際も感動は続きました。「傘をお持ちでなければ、こちらをどうぞ」と、さりげなくホテルの傘を手渡してくださったのです。忙しい業務のなかで、お客様一人ひとりに心を向ける姿勢に強く胸を打たれました。
さらに夜、食事を終えてホテルに戻ると、再びスタッフが笑顔で「お食事はいかがでしたか?」と迎えてくれました。こうしたお客様の行動に合わせた、ちょっとした会話が親近感を強めて宿泊先を「泊まる場所」から「帰る場所」へと変えていくのです。
翌朝、雨はまだ降り続いていました。空港に向かうためタクシーを手配してもらい、到着した車に向かう際の出来事です。スタッフがホテルの傘を差しかけながらタクシーまで丁寧に見送りしてくれました。そのとき、彼女は「ゆっくりお休みいただけましたか?」と優しく声をかけ、名刺をくださいました。名刺を渡す行動には、あなたをまた迎えたいという気持ちが込められていると考えます。
そして、タクシーのドアが開いた瞬間に、ドライバーに一言「大切なお客様ですので、安全運転でよろしくお願いします」という久しぶり素晴らしい言葉に出逢いました。それらすべてが創り出した「またこの地に来るときには必ずこのホテルに来るだろう」という気持ちを胸に空港に向かったのです。
コラムニスト紹介

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。




