test

「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(229)」地域レガシーの再生(群馬県富岡市)

2024年2月24日(土) 配信

世界遺産・富岡製糸場正面玄関と東置繭所

 地域には、歴史の中で輝き、大きな役割を果たした時代がある。そんな地域のレガシー(過去から引継ぎ、未来へとつなぐ)を学び、新たな地域レガシーを形成していこうという事業が動いている。観光庁が2021年から始めた「レガシー形成事業」である。

 この事業では地域再生のための抜本的プランを検討し、その実現可能性調査などを踏まえ、新たな活用計画の策定と実現を目指している。23年度現在、全国で14の事業が動いているが、その1つ、世界遺産富岡製糸場の事業に関わらせていただいている。

 富岡製糸場は、14年6月、ドーハで開催された第38回世界遺産委員会において世界遺産に登録された。「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、富岡製糸場をはじめ、田島弥平旧宅(伊勢崎市)、高山社跡(藤岡市)、荒船風穴(下仁田町)の3市1町に点在する養蚕関連史跡によって構成される文化遺産である。

 300釜のフランス式繰糸器が並ぶ繰糸場をはじめ、長さ104㍍、高さ12㍍の東置繭所と西置繭所、動力場の蒸気釜所、フランス人技師ブリューナが滞在した首長館(ブリューナ館)、鉄製の貯水槽(鉄水溜)など、1872(明治5)年操業以来の製糸場の姿を今に伝える貴重な文化遺産が現存する。

内部改修が終わった西置繭所

 世界遺産登録された2014年は、大きな話題となり、それまで年間20万人ほどだった来訪者は一気に134万人まで急増した。しかし、製糸所内部の見学は、動かない機械類、飲食や土産などの制約、単調なギャラリーなど、「一度見たらもう十分」といった感想も聞こえてきた。案の定、登録2年後あたりから客足が衰え、コロナの影響もあり20年ごろには、登録前の水準に戻ってしまった。近年、少し回復したものの30万人に届かない。国宝・重要文化財・世界遺産の建物は、このままでは膨大な赤字を抱え、大きなお荷物になってしまう。

 事業では、世界遺産登録前の12年に策定した「旧富岡製糸場整備活用計画」の原点に戻ることから始まった。繰糸機の再生による生糸生産の再現を含む動態展示、国宝3棟を核とした世界遺産ミュージアムとしての全体整備、他施設での宿泊・滞在施設、レストラン・カフェ、教室などの再整備。さらには、製糸場周辺のまちなかにある古民家再生など、地域ぐるみの再生を狙う抜本的な活用計画の策定を意図している。

 富岡製糸場のレガシーとは何か。かつての整備活用計画では、友人であり、近代化産業遺産群33などをともに手掛けた故清水慶一氏(国立科学博物館)が掲げた「颯爽たる気概」を踏襲したいと思う。富岡製糸場が完成した明治初期、日本人は西洋列強に追いつき、これらを超える強い気概をもっていた。文化財であるがゆえに活用が難しいというのは本末転倒。重要な文化資源とその精神を守るためにも、多くの方々に訪ねてもらえる抜本的な活用が急務なのである。

(観光未来プランナー 丁野 朗)

いいね・フォローして最新記事をチェック

コメント受付中
この記事への意見や感想をどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。