「円かの杜」開業10周年 松坂美智子女将に聞く クリーンな「水素調理」を導入

2025年2月4日(火) 配信

松坂美智子女将

 2014年12月に開業した「強羅花扇 円かの杜」(神奈川県・箱根町)が開業10周年を迎えた。脱炭素化という世界的な潮流のなかで、燃焼しても二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーに大きな魅力を感じ、旅館では前例のない「水素調理」を導入。食や音楽、温泉などにこだわった個性的な宿を目指す円かの杜の大きな特徴となっている。松坂美智子女将に10年を振り返りながら、これから宿が進んでいく道筋についてインタビューした。

 【本紙編集長・増田 剛】

開業10周年を迎えた「円かの杜」のエントランス

 ――「円かの杜」は開業10周年を迎えました。

 2009年オープンの早雲閣、強羅花扇に続き、円かの杜は14年12月に開業しました。振り返りますと、翌15年には大涌谷の噴火、19年には台風による大水害、その後コロナ禍による行動制限など、これまで考えられなかった出来事が次々に発生し、軌道に乗って加速し始めたかと思うと、どん底に落ちるような大きな波のある10年でした。
 苦境の時期に宿泊していただいたお客様から、「とてもよかったよ、また来るね」とお褒めの言葉をいただくと、涙が出るほどうれしく、大きな支えになりました。食や音楽、温泉、ブックディレクターなど、各分野の専門家の方々からもアドバイスをいただき、本当に元気づけられました。

 ――宿のあらゆるところに“こだわり”を感じます。

 創業者(飯山和男会長)の“木の美学”に対するこだわりはとても強く、飛騨の高級木材と、全館畳敷きの「自然素材に包まれた温かみ」が宿の根幹をなしています。そこに、食や音、本、温泉、サービスにもこだわり、「個性ある宿」を目指しています。
 一流演奏家によるミニコンサートや、「湯×音×食」を愉しむプランなど、箱根の森の中で独創的な世界を味わっていただければと、さまざまな企画を試みています。
 お客様が宿で過ごされるなかで、本棚に並ぶ絶版本や希少価値のある本など、さりげない遊び心に面白さを感じられたり、訪れる度に、ちょっとした変化や進化した部分を発見されたり、何十回とお越しいただけるリピーターのお客様もいらっしゃいます。

 ――環境意識への高さも大きな特徴ですが、きっかけは。

 19年の大水害の翌朝は穏やかな青空で快晴でした。宿泊客やスタッフは円かの杜に避難させていたので無事でしたが、昭和的な「侘び寂び」感が好まれた早雲閣の惨状は今でも忘れられません。

観光庁「観光地・観光産業における人材不足対策事業」、事務局はNTTコミュニケーションズに

2025年2月3日(月) 配信

観光庁(写真はイメージ)

 観光庁はこのほど、「観光地・観光産業における人材不足対策事業(人材活用の高度化に向けた設備投資支援)」の事務局を、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズに決定した。

 同事業は人手不足の解消に向け、人手をかけるべき業務に人材を集中投下し、サービス水準向上・賃上げを実現するための設備投資を支援するもの。スマートチェックイン・アウト、配膳・清掃などロボット、チャットボット、予約等管理システム(PMS)などの設備投資を補助する。

 観光庁によると4件の応募があり、応募の提案を事務局審査委員会で厳正な審査を行ったうえ、事務局を決めたという。

2月22・23日に池袋でくまモンファン感謝祭 デビュー15周年をお祝い

2025年2月3日(月) 配信

ファンへの感謝と熊本の魅力を発信

 熊本県東京事務所は2月22日(土)、23日(日)の2日間、東京・池袋で「くまモンファン感謝祭2025 in TOKYO~モンフェス~」を開く。同県の営業部長兼しあわせ部長「くまモン」のデビュー15周年を祝うもので、ファンへの感謝や熊本の物産・観光の魅力を広く発信する。

 今回のテーマは「15th ANIVERSARYサンくまプロモーション」。くまモンプロデュースで熱のこもった「アツ~い」ステージを披露する。得意のダンスやここでしか見られないコンテンツを用意。各回2時間前から入場待機列を案内するという。このほか、くまモンと写真が撮れるフォトスポットや、熊本のグルメが楽しめるマーケットなどを展開する。

 場所は池袋西口公園野外劇場グローバルリングシアター。22日は午前11時~午後6時まで、23日は午前10:30~午後5:30まで。

 さらに、今年のファン感謝祭は近隣施設やサービスとの連動企画が多く実施される。東武百貨店池袋店や会場周辺の飲食店とのコラボレーション企画「くまトランTOKYO」は2月22日~3月12日まで展開する。イベント会場で配布されるグルメMAPに載っている対象店舗で熊本グルメを食べると、オリジナルステッカーを先着でプレゼントする。

 このほか、池袋のまちなかを走るIKEBUSとのスペシャルコラボレーションとして、2月22日~3月12日(くまモンの誕生日まで)の期間限定でコラボ1日乗車券を販売する。

観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」 オンライン説明会(2月14日)

2025年2月3日(月) 配信

観光庁(写真はイメージ)

 観光庁は2月14日(金)、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」の公募に向けたオンライン説明会を実施する。説明会は午後1時30分から、Zoomを活用したウェビナー形式で行う。

 説明会では、①事業背景や事業概要の紹介(観光庁)②令和5年度補正予算事業における各地での事例紹介(同)③公募などのスケジュール説明(事務局)④申請方法の解説(同)――を予定する。全体で約60分を想定。

 同事業は、観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ、持続可能な観光地域づくりの実現に取り組む、地方公共団体、DMO、民間事業者などを支援するもの。オーバーツーリズムの未然防止・抑制対策に資する取り組みの補助に加えて、住民を含めた地域の関係者による協議の場の設置、協議に基づく計画策定や取り組みに対する包括的な支援を実施する。

 説明会の視聴には事前の参加登録が必要。参加登録は申し込みフォーム(https://peatix.com/event/4287687)から。

 なお、今回説明する公募などのスケジュール説明、申請方法の解説は、今後開設予定の特設Webサイト上に公開を予定する。

シーサイドホテル舞子ビラ神戸、5月1日にリニューアルオープン

2025年2月3日(月) 配信

シーサイドホテル舞子ビラ神戸

 サフィールリゾート(長田晋社長、兵庫県神戸市)が運営する、シーサイドホテル舞子ビラ神戸は5月1日(木)に、リニューアルオープンする。別館の改修工事を行っているもので、客室や大浴場、アクティビティ設備が生まれ変わる。別館の予約は2月1日(土)から開始した。

 客室は快適性を重視し、全客室を洗練されたデザインに改装した。大浴場は新たに屋外露天風呂を併設。7月には新設の専用サウナをオープン予定で、大浴場とは異なるプライベート感のある体験ができるという。

 また、フィットネスジムやゴルフシュミレーターが新設することで、健康志向の人やスポーツ愛好家の人にも喜ばれる設備を整える。さらに、夏ごろにはファミリーやグループ旅行向けに、カラオケルームや卓球施設を新たに用意する。

 公式サイトでは、リニューアルを記念したプランを販売している。

全旅連青年部 歴代部長が経験語る 中四国ブロック大会開く

2025年2月3日(月) 配信

(左から)大平修司氏(司会)、横山公大氏、鈴木治彦氏、星永重氏

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(塚島英太部長)は1月15日、高知県高知市の城西館で中国四国ブロック大会を開いた。

 基調講演で、第20代部長の横山公大氏と24代部長の鈴木治彦氏、25代部長の星永重氏が登壇し、「経験者が語る部長から伝えたい事~部長に聞きたい事」をテーマに、部長を志した経緯や取り組んできた内容を語った。

 歴代最年少35歳で部長を務めた横山氏は「小さな飲食店が涙を流しながら夢を語る居酒屋甲子園に出会ったとき、旅館には日本一を目指す場所がないと強烈に感じ、当時旅館甲子園を始めた。1位を目指すことですべきことが明確になる」と語った。

 鈴木氏は2020年の自民党総裁選の際、菅義偉元首相の出馬応援演説を行ったことに触れ、「菅先生が発案した1・2兆円予算のGo Toトラベルキャンペーンによって、観光事業に関わる約800万人の生活が守られていることを強調した。また、新型コロナ禍対応で毎日議員会館や省庁を回った。動けば変わるというのを実感した」と話した。

 星氏は初回を開催した宿フェスについて、「鈴木部長が思い描いたものとは少しカタチは変わったがスタートできた。現在は塚島部長の強い思いで実施している。回を重ねるごとに良いものになっている」と述べた。

【土橋 孝秀】

【本紙1950号または2月6日(木)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】

「観光人文学への遡航(56)」 追悼 三尾博氏(3)

2025年2月3日(月) 配信

 私が入社2年目で名古屋支店の国際線営業に異動になり、三尾課長の部下に配属された。課員は6人で、ベテラン社員が並んでいるなか、1年上の先輩と、銀行から転職したばかりの30代の先輩がいた。年の近いこの2人の先輩に業務も教えてもらったり、休日も遊んだりした。

 私が異動してきたのを機に、三尾課長は課のデスク配置を変えた。当時はどこも島式デスクで、課長がいわゆるお誕生日席、あとは課長に近いところに役職者が控えるという感じだったが、私たちの課は課長のすぐそばに1年上の先輩と私が配置された。周りの別の課の社員からも、君たちの課は面白い座席配置をしているねとよく言われていたので、これが異例の配置なのだということがわかった。

 この席次は極めて有効に機能した。課長の同部署・他部署の社員とのやりとりや、電話のやりとりが筒抜けなのである。だから、営業時の話の持って行き方やトークのスキルなどが習わなくても学べるのである。そして、課長がどのような方針で営業をしているか、その目指す想いの部分まで手に取るようにわかる。

 営業マンになる前は、国内線予約センターに所属していたのだが、予約センターはマニュアルが完備していて、素人でも段階を踏んで無理なく確実にスキルが習得できる。この完璧なマニュアルと指導法は、短期の研修で派遣された空港のグランドスタッフ業務でも同じであった。その一方、営業はマニュアルがない。配属2日目から、いきなり営業行ってこいと言われて、引き継ぎもままならないなかで営業マン人生が始まった。だから、取引先に行っても何を話したらいいかさっぱりわからない。なので、年の近い先輩にあれこれ聞きながら、そして、取引先でも、競合する外資系航空会社のセールスマンのセールストークを盗み聞きして、必死でしがみついていた。

 その必死さから、ベテラン営業マンにはない自分の強みを生かした営業手法をなんとか編み出した。当時はまだビジネスでも普及していなかったPCを駆使し、データを取り込んで、表計算して傾向と対策を取引先と話し合うということを実施したら、行き当たりばったりではなく、先手先手で施策を打つことができるようになった。

 後日談だが、課長はほったらかしていたように見せて、実は私の担当する取引先に着任前に訪問し、今度の営業マンは素人だから、教えて育ててやってほしいと頼んでいたそうだ。

 今の教育は、学校教育も社内教育もどこも手取り足取り配慮が行き届いてはいるが、わからないなか、がむしゃらにもがいて必死でしがみつくといったシーンがない。そこまでさせる余裕がなくなったという時代のせいにしそうだが、それを許す上司の器の大きさの問題ではなかろうか。

 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

〈観光最前線〉三橋節子作「三井の晩鐘」

2025年2月2日(日) 配信

近江八景の1つ「三井の晩鐘」

 35歳の若さで生涯を終えた日本画家・三橋節子さんの没後50年回顧展が、5月25日まで、滋賀県大津市の三橋節子美術館で開かれている。

 がんで利き腕を失い、余命わずかななか、絵筆を左手に持ち替え、近江の昔話を題材に描いた三橋さん。その作品群は、誤解を恐れずに言うと怖い印象。と同時に、静かに人を惹きつけるものがある。

 術後半年で完成させた100号の大作「三井の晩鐘」は、龍神の娘が子と別れ、びわ湖へ帰る姿に、幼子を残して逝かねばならない自身を重ねて描いたとされる。知るほどに、深みが増す絵だ。

 美術館からも近い三井寺の梵鐘は、音の美しさから「天下の三名鐘」に数えられる。冥加料800円で、撞くことができるので、三橋さんも耳にしたであろう鐘の音もぜひ。

【鈴木 克範】

【特集 No.665】対談「関門海峡」新時代へ “世界で一番面白い海峡”へタッグ

2025年2月1日(土) 配信

 福岡県北九州市(武内和久市長)と、山口県下関市(前田晋太郎市長)は近年、観光や文化、経済、人的交流などさまざまな分野で「関門連携」を深めている。最狭部はわずか650㍍ほどの関門海峡に面する両市は、世界にも類まれな「海峡観光」を発展させる大きな可能性を秘めている。北九州市の武内市長と下関市の前田市長が対談し、それぞれの市が有する観光資源や、両市が強力なタッグを組むことで実現する、魅力的な関門エリアの将来ビジョンなど、熱く夢を語り合った。

【司会=本紙編集長・増田 剛】

 ――北九州市はどのようなまちですか。

 武内:九州の「テッペン」最北端に位置し、九州最大の面積を有する北九州市は多様性に溢れ、「歴史と未来」「都会と自然」など、すべてがそろっています。
 なかでも最大の特徴は「大都市なのに人情に厚い」ところです。人の距離が近くて熱量が高い。飲食店では大盛にしてくれたり、一つおまけをしてくれたり、人の体温や熱量を体感できる素敵なまちだと思っています。
 北九州市は角打ちやアーケード付き商店街、競輪、焼うどん、焼カレーなどさまざまな発祥の地でもあり、新しいことにチャレンジをして創り出すという懐の深さを備えています。美しい関門海峡に面する門司港レトロなど観光名所も豊富にあります。昨年1年間の人口の社会動態が60年ぶりに転入超過となり、この勢いを強く、大きくしていきたいと考えています。

 ――下関市の特徴は。

 前田:下関市は本州最西端の「海峡と歴史のまち」で、長い日本の歴史の節目に〝劇的な舞台〟として登場します。
 古くは、平安から武家社会に変わる「源平合戦」のクライマックス「壇ノ浦の戦い」で、幼い安徳天皇が関門海峡に身を投げられました。女官たちが身を潜めながら毎年供養されていた伝統が今も「先帝祭」として継承されており、歴史をとても大切にしています。
 その後も、1612(慶長17)年4月13日には宮本武蔵と佐々木小次郎の「巌流島の戦い」、江戸時代・幕末には、下関戦争、倒幕・維新へ導く功山寺挙兵、明治時代には下関条約締結などドラマチックな歴史舞台として日本史を彩っています。
 このほか、「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景」3位となった角島大橋なども優れた景観を有し、海外からも数多くの観光客に訪れていただいています。
 食では、全国ブランド「フグ」の取扱量日本一、「クジラ」の陸揚げ量日本一、「アンコウ」の水揚げ量日本一など、「水産のまち」として名が知られています。かつては、2隻の船で大きな網を引いて底物の魚を獲って帰ってくる、沖合底引き網漁業・水産業で栄えた歴史があります。
 人口減少などの課題もありますが、近年は「観光を中心としたまちづくり」に大きく舵を切って、地域再生や活性化に取り組んでいます。民間企業や市民も呼応するように「自分たちができることをやっていこう」と参加していただいており、元気を取り戻していることを実感しています。
 「観光で一目置かれるまち」に育てていくことが目標です。

 ――北九州市の観光の方向性は。

 武内:磨けば輝く地域資源が点としてたくさんあるのですが、これらを戦略的につなぎ、線や面にして魅力を高めていくことが大事です。
 例えば、日本新三大夜景都市第1位・北九州市を代表する夜景スポットである皿倉山で夜景を観たあとに、北九州市の美食を楽しんでもらうなど「モデルコースづくり」にも取り組んでいます。
 また、「日本一おもしろき城」にしようと、小倉城の天守閣をユニークベニューとして活用しています。ディナーや会合などで貸し切る試みが人気で、2023年には63年ぶりに来場者25万人を突破しました。
 加えて、シニア層や海外からの旅行者を中心とする富裕層、ゆとりのある層に対するターゲッティングが重要になってきます。ユネスコ無形文化遺産・戸畑祇園大山笠など魅力ある観光コンテンツを磨き、価値に見合ったプライシングをして、富裕層の方々にも届けていくチャレンジをしています。
 観光客だけでなく、市内宿泊客の7割を占めるビジネス客にも、北九州市の多様な魅力を満喫してもらい、市内で「もう1カ所、もう1泊」を楽しんでいただける取り組みを推進しています。26年に外資系メジャーホテルチェーンとして、初めて市内2カ所にマリオットグループがリブランド開業しますが、これをきっかけに世界の方々を呼び込んでいきたいと思います。

 ――映画のロケ地としても有名ですね。

 武内:過去30年間に700本以上の映画やドラマなどを撮影した映画のまち・北九州として、カンヌやベルリンなど世界の映画祭に送り出す作品も出ています。アジアの映画スターが北九州で収録をしているため、聖地巡礼の地にもなってきています。
 北九州国際映画祭も24年に2回目を迎え、海外との結びつきを強めながら、エンターテインメントが着実に根付いてきています。ポップカルチャーフェスティバルも延べ約8万3千人集客しました。「エンタメ」と「仕事」の力がまちを大きく成長させます。「エンタメ」の部分を一層強力に推進していきたいと考えています。

 ――下関市も唐戸市場のエリアが大きく変わる計画があります。

 前田:関門海峡に面した唐戸市場は、全国の行ってみたい漁港・漁場市場ランキングでは常に上位に名を連ねています。25年秋には、星野リゾートが開業を予定しており、エリア一帯の伸び代はとても大きいと思っています。
 現在、関門海峡沿いのエリアを「日本一のウォーターフロント」に育てることを目標に、星野リゾートとも将来像を共有しながら滞在時間を延ばすことを目指して、コンテンツの磨き上げに取り組んでいます。
 人気の水族館「海響館」も大幅なリニューアル工事を行っています。
 新たな魅力あるまちづくりが同時進行で進んでおり、関門海峡での観光を存分に楽しんでいただき、その先に地元経済の発展を見据えています。
 26年10―12月には「山口デスティネーションキャンペーン」が展開されるので、照準を合わせて盛り上げていきます。

 ――両市が連携することによって関門エリアがより魅力的になっていくと思います。構想や夢を語ってください。

 武内:国内では「海峡観光」が実現できる稀有なエリアであり、世界に伍していく潜在力を有しています。「海峡観光」は、可能性に満ちた未開の分野なのです。私はトルコのボスポラス海峡に匹敵する魅力があると思います。
 関門エリアは歴史の舞台を巡っていく「大人の旅の目的地」としても適しています。現在、北九州市が最も力を入れているのは、「すしの都」。関門海峡はフグやタコなど非常に素晴らしい海産物に恵まれており、両岸でしっかりとグルメエリアであることを積極的にアピールしていきます。
 両市は市長会談を定期的に開いています。今年度の大きな成果としては、関門エリアで使える地域通貨「かんもんペイ」を両市初のふるさと納税共通返礼品としました。海峡を跨いでの地域通貨の共通返礼品は全国初で、関門エリアの周遊促進につながるものと大いに期待しています。
 今年は門司港レトログランドオープンから30周年を迎えます。唐戸エリアのリニューアルと併せて、25年は記念すべき年でもあり、大きな弾みにして両岸の魅力を味わえるような観光ルートを創っていきたいと思っています。26年には門司港レトロ地区に新たなホテル進出も予定しており、さらなる賑わいの拠点としても期待しています。
 インバウンド誘客に向けては、北九州空港―門司港・唐戸市場を船で結ぶ「フライ&クルーズの実証運航」を計画しています。また関門海峡の雄大な眺望を楽しむことができる門司港レトロの和布刈地区に、「九州最北端の記念碑」の設置も実現に向けて動いています。
 下関市は毘沙ノ鼻に本州最西端の地として記念碑を有していることから、両市の関門二極踏破証明書を発行すれば、両市の回遊性を高める新たな名物の1つになるのではないでしょうか。

 前田:巌流島は全国的にも名前が知られているわりには、まだまだ課題もあります。現状では水道や電気などインフラが通っていないため、イベントを企画しても、その都度大きなお金がかかってしまいます。大規模なイベントが開催できるような環境整備が必要だと強く感じています。
 以前に小倉城に行ったときに、宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の戦いをしっかりとアピールをされているのを見て感心しました。両市間の交流がさまざまな場面で進んでおり、市職員の交流もさらに深めていくことによって、潜在的な能力を引き出していけるのではないかと期待をしています。
 関門海峡には1日700―1千隻の船が往来し、潮の流れも速く変わっていく特徴を生かした体験メニューを充実させる潜在能力を持っています。下関港と韓国・釜山港はフェリー航路もつながっており、外国人旅行者にも観光エリアの回遊ができるようなルートづくりや発信力が不可欠です。これまで眠っていた資源を掘り起こしていくなかで、その魅力を地元の人たちに気づいてもらう。そして、地元市民に誇りと自信を持ってほしいと思っています。
 拡大している外国人旅行者へのキラーコンテンツには、北九州市が掲げる「すしの都」があります。そこに下関の豊かな「海の幸」を合わせて、相乗効果を高めていけば、日本を代表するグルメエリアになる。これらも、それぞれが単独でアピールするよりも、「関門エリア」として発信していくことで魅力も数倍にパワーアップし、世界中にも届けることができると信じています。
 武内市長にも負けない熱量で、関門海峡を両市が盛り上げていこうと思っています。我われトップが先頭を切って頑張っていきましょう。

 武内:今こうして下関市の前田市長と私ががっちりと手を握って「連携を強めていこう」と語り合っていること自体が価値のあることです。
 世界で一番面白いエンタメに溢れた海峡をキーワードに、両市が強いタッグを組んでいく歴史的であり、奇跡的なタイミングにあると思っています。関門海峡発展の新時代に向かってともに前進していきましょう。

【本紙1950号または2月6日(木)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】

〈旅行新聞2月1日号コラム〉――旅と文学 仄暗い文学の世界の妖しさは増すばかり

2025年2月1日(土) 配信

 福岡県北九州市の旧門司三井倶楽部には、1922(大正11)年冬にアインシュタイン博士が宿泊した寝室や、居間がそのまま復元・保存された「アインシュタインメモリアルルーム」が存在する。

 同じ2階には、門司区が出生地とされる小説家・林芙美子(1903―1951)の資料室がひっそりとある。昨秋、帰省の際、門司港レトロを訪れた折にふと立ち寄ってみた。林芙美子は好きな作家の1人だ。少し薄暗い空間で、静かな時間を過ごした。「花のいのちは短くて苦しきことのみ多かりき」の自筆色紙も飾られていた。

 林芙美子の代表作の一つ「浮雲」を読んだのは20歳前後だった。一冊の文庫本「浮雲」だけを持って、代々木公園のベンチで日がな一日読み耽った。

 魂が纏わりつくような男女のもつれが果てしなく続き、この物語を書いた女性作家の筆力に眩暈がしたことを覚えている。

 林芙美子のディープな小説の世界も素晴らしいが、実は紀行・旅行記も好んで読んでいる。ハルビンや、シベリアの三等列車、巴里(パリ)、台湾、樺太などの旅行記を数多く残している。彼女は身長140㌢ほどの小さな体で1人、大きなトランクを持って欧州やロシアの街を訪れていた。

 スマートフォンで欲しい情報は何でも得られる現代でも、初めて訪れる海外の旅行地には不安を覚え、さまざまなトラブルに遭遇する。明治生まれの物書きの女性が、未知の世界に思いを馳せ、単身で旅をする度胸にも魅かれるところだ。

 当然、思い通りにならない旅が続き、彼女も心細さや後悔などの心情も吐露するが、世の中や旅に対して過剰な期待を持たぬ胆の据わり方に、読者は引き込まれる。「旅と真正面に向き合い、そこで起こるすべてを自らの運命として受け止める」覚悟ある姿勢が清々しい。

 北海道稚内市から船で樺太を旅する「樺太への旅」も1930年代の当地の暗さが伝わってくる。昨夏、私は単車の旅で稚内港から礼文島にハートランドフェリーで渡った。日本の最北端・稚内市から方角は違えども、遠く船で離れていくときに、甲板の上で頭に浮かんで離れなかったのは、なぜか林芙美子の樺太への旅の情景だった。

 林芙美子は酒についても書いている。「或一頁」という小品は、まず文章の巧みさに酔わされる。作品では、自宅で一人、広島の「賀茂鶴」を呑むシーンがある。「柔らかくて、秋の菊のような香りがして、唇に結ぶと淡くとけて舌へ浸みて行く」とさらりと表現している。

 私はこの一文を読んだ足で、まっすぐ酒屋に行き「賀茂鶴」を買って帰った。林芙美子の筆の力によって毎晩、「賀茂鶴」をお猪口に注いで「秋の菊のような香り」を味わっている。旅と同様に、彼女の酒と向き合う距離感や姿勢が好ましい。

 人や仕事、旅、酒など、一つひとつと向き合うことの連続が人生であり、その対象と向き合ってきた距離感や姿勢が、その人を表すものだと考える。

 旅も美しい写真や動画で表現されることが圧倒的に増えてきた。一方、文字のみで旅を伝える旅行記は、情報がアップデートされることもなく、古びてゆくばかりである。しかしロウソクで小穴を覗くような、想像力を掻き立てる仄暗い文学の世界の妖しさは、時とともに増すばかり。

(編集長・増田 剛)