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「観光人文学への遡航(19)」 安心保障関係とは(1)

2022年1月18日(火) 配信

 経済学の用語に「レモン市場」という言葉がある。レモンとはまさに柑橘類のレモンであるが、別義で役に立たないものや人、欠陥品、ポンコツ車といった意味がある。なぜレモンというか。それは、レモンが厚い皮に覆われているので、中身が腐っていることが外見を見ただけではわからなくて、持ち帰って切ってみて初めて粗悪品だということがわかることに由来する(逆に、中身の品質もちゃんといいことが購入時からわかるものをピーチと呼ぶらしい)。

 
 買い手にばれないことをいいことに、故障が内在する中古車(それ自体をレモンと称する)を、故障があることを黙って販売しようとするセールスマンばかりだと、市場には質の悪い中古車ばかりになってしまう。買い手はそれから逃れるすべを知る由もなく、買い手は中古車そのものを敬遠することになり、中古車市場が成り立たなくなってしまうことのように、財やサービスの品質が買い手にとって未知であるために、不良品ばかりが出回ってしまう市場のことをレモン市場という。

 
 世の中はまさにレモン市場にあふれていて、欠陥品をつかませられないか、騙されないか、裏切られないか、不安に思うことが多い。かつて世間を騒がせた中国製の食品偽装の問題はまさにそのレモン市場の様相だったといえよう。

 
 パッケージツアーを嫌う学生が多いことに驚くが、これもまさにレモン市場の様相である。

 
 そこで、買い手の不安を解消するために、ちゃんとした商売をしているように伝えることが必要となる。それが、マナーを徹底したり、敬語を使ったり、マニュアルを通して品質の均質化をはかったり、人によってクオリティが変化するといけないので、サービスのパッケージ化をはかったりする行為に結びつく。

 
 そのような仕掛けを加えることで、買い手が抱く心配事を除去し、安心を保障する。そこで得られる関係のことを「安心保障関係」と言う。安心保障関係では、サービスは固定化され、誰がサービスを行っても均質的となり、不確実性が低減されていく。

 
 就職活動で、学歴を見たり、資格の有無を問うたりするのは、まさにこの安心を保障するためのプロセスだと思うと納得がいく。人事部の採用担当者は、自分の上司(採用担当責任者)から、目前に並んだ同じような就活生の中で、なぜこの人に内定を出すか問われたときに、学歴や資格を語ると説得力が増すことからも、この安心保障関係が初対面とか初期段階での関係性構築では有効に機能する。

 
 相手のことが分からないときに、相手を安心させるツールこそが、学歴だったり資格だったり丁寧な言葉遣いだったり身だしなみだったりといった、パッケージ化されたマニュアル的なものだといえる。

 

コラムニスト紹介 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。日本国際観光学会会長。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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