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「観光人文学への遡航(15)」 ついに来たワクチン・検査パッケージ

2021年9月24日(金) 配信

 
 いよいよ、とうとう、この日がやってきた。

 
 私は、このコラムをコロナ真っ只中の2020年7月21日号から開始した。

 
 人文学を通して、自由の意味を改めて考えるという場がなければならない。日本人は決して血を流して勝ち取ったわけではなく、いつの間にか上から与えてもらった「自由」というものを、いや、もしかしたら本当は自由なように見えて自由ではないのではないかという事実を、まさにこのタイミングで考究していかなければ、私たちは後世に対して大変な前例を残してしまうのではないか、そう考えたことから、このコラムを書き始めた。

 
 なぜ自由をここまで考究するのか。

 

 自由は意識していないと巧妙に奪われる。

 
 本質的でないところの自由は残り、真の自由がいつの間にか、「何かに紛れて」奪われる。奪われてから気がついたのでは遅い。奪われたものを奪い返すのは至難の業である。

 
 だから、一見したら自由っぽく見えるものと、真の自由を切り分ける必要があると考えた。

 
 カントは、自由気ままに生きるという文脈での自由とは、自分が己の欲望の奴隷となっているに過ぎないと喝破した。欲望に基づく行為は、逆に不自由なのだ。 すなわち、欲望に基づく行為を優先するために、真の自由を差し出す場面が出てくると考えた。それがいよいよやってきた。ワクチン・検査パッケージである。

 
 そもそもワクチン接種の効果とは、個人の重症化の防止にあり、ワクチンを摂取しても、ウイルスに感染しないわけではないということは、ワクチン先進国であるイスラエルやシンガポールの事例を見ても明らかになっている。ただ、国として病棟の確保が課題となっているわけだから、重症化防止というワクチンの効果を期待して、国民にワクチン接種を広報するというのは国家の取る行動としては合点がいく。

 
 しかし、なぜ旅行・観光業界が、ワクチン接種を求めるその論調に乗るのか。

 
 感染予防ならワクチンではなく、陰性証明の検査で十分ではないか。ワクチンを打っても感染するし、ウイルスの宿主にはなるのである。自分だけ重症化しないで、他人には広げうるのである。ワクチンは強制ではない。さまざまな考え方を持っている人もいて、また体質的に受け付けない人もいる。なのに、ワクチンをめぐって市民が分断され、互いに対立する構図を助長しているではないか。

 
 私は、旅行・観光業が権力者に擦り寄り、権力者の片棒を担ぐように舵を切ったこの数年間で、この業界がますます市民から支持されない業界になってしまったと感じる。

 
 旅行こそ、市民の自由の体現であり、それを実現するのがこの業界なのだ。だからこそ、この業界の方々は、自由の価値を守る役割を担ってほしい。

 

コラムニスト紹介 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。日本国際観光学会会長。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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