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〈旬刊旅行新聞7月11日号コラム〉観光業界の人材育成の難しさ 一朝一夕では「思想」は得られない

2018年7月12日
編集部:増田 剛

2018年7月12日(木)配信 

思想なき人材育成はあり得ない

観光業界こそ、「そこにしかない」オリジナル性が求められる。なのに、見渡すと模倣性が蔓延っている。

 どこかの地域で「ゆるキャラ」が大ヒットすると、瞬く間に、どこの地域にも「ゆるキャラ」が存在するようになる。

 B級グルメで集客に成功した自治体がスポットライトを浴びると、挙ってB級グルメ探しが始まる。

 「二番煎じ」や「柳の下の二匹目のドジョウを狙う」という言葉がある。誰かがやって成功したものを真似ることを揶揄した言葉である。けれど、実体は2番や2匹目といった話ではなく、「ヨソの地域でやっているから、ウチもやらなければ」という強迫観念に近いものを感じることがある。

 最初にやって世間の注目を浴びた先駆者が手掛けた製品やサービスなどと、精巧な模倣品は一見、似通っているために見分けがつかないかもしれない。しかし、よく細部を見ると、まったく別物であることが分かる。

 画期的な新製品の開発や、新サービスを始めた経営者を取材する機会がある。最初に考案した人物だけに、新製品の紹介にも熱が入るし、「なぜこのようなサービスやシステムを始めたか」についても事細かに説明してくれる。「類似品がどんどん市場に出回るかもしれませんね」と尋ねると、経営者の多くは「まったく心配していない」と答える。「真似したくても、他社には真似できませんよ」と余裕の表情を浮かべる。

 オリジナルと模倣の違いは何か。それは、人がこの世に生み出した作物に思想が備わっているか、無いかである。

 私たちはあまりに流動的で、かたちのない世界に生きているために、自分たちが生きている社会の解釈に戸惑ってばかりだ。だからこそ、先人、あるいは同時代に生き、深い域にまで到達した思想に触れることを求める。アーネスト・ヘミングウェイの描いた小説の主人公や、レイモンド・チャンドラーの名探偵フィリップ・マーロウに感情移入してしまうのは、ストーリーの巧みさだけでなく、彼らの深い思想が登場人物に色濃く投影されているからである。

 思想は文学や建築物、クルマの設計、文房具のデザイン、居酒屋のサービススタイルにまであまねく存在する。思想は、自らが深く関わったものの中にしか存在しないし、とても尊いものである。だが、思想には好悪がある。自分にぴったり合う思想と、まったく合わない思想が存在する。

 例えば、旅先である旅館に宿泊する。客室の設えや、料理の提供方法、食材選びが、自分にはしっくりとこないこともある。でも、「なぜこの食材を使ったのか」「どうして露天風呂をこのようにデザインしたのか」といったことを宿の主人と話しているうちに、自分の認識が大きく変わることがある。訪れなければ知ることのなかった世界観を一身に浴び、その土地に根差して生活する主人の思想に直に触れる瞬間だ。これは旅人にとっても幸せな体験である。

 一方、どこかで成功した旅館を模倣した宿の外観は美しいかもしれないが、深い思想が不在であり、虚しさだけが漂う。

 観光業界の人材育成の難しさが叫ばれている。当然である。一朝一夕では思想は得られない。大切なのは考え続けること。だが、ここに助っ人を招く地域も多い。

(編集長・増田 剛)

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