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ホスピタリティの質を統一 案内所向けシステムを無償提供(トラベリエンス)

2018年3月30日(金) 配信

 現在、日本政府観光局(JNTO)が認定する外国人観光案内所は、全国に909施設。2012年に制度がスタートして以来、急速に数を伸ばしてきた。今回は、外国人観光案内所らをネットワークし、受入体制の充実を目指す無料のウェブサービス〝planetyze touch〟(プラネタイズタッチ)に注目した。
【謝 谷楓】

低コストで最大限の効果

 2月にサービスの提供が始まった“プラネタイズタッチ”。インバウンド対応に従事する外国人観光案内所や宿泊施設向けのウェブサービスで、問い合わせへの多言語対応と観光ガイド機能を併せ持つ。タブレットやスマートフォン、パソコンなどあらゆる端末に対応し、設備投資は必要ない。施設はあらかじめ翻訳した回答を入力し、来訪者は端末画面を介し必要情報を入手できる仕組みとなっている。フローをまとめた動画を再生することも可能。シンプルな操作性で、回答入力や動画のアップロードは、ブログの更新と同等の容易さだ。

 例えば、地域の観光スポット・飲食店情報や施設内でのWi―Fi利用に関する質問を想定し、多言語で回答を入力しておけば、逐次口頭での回答は不要となる。昨今、英語や中国語などが堪能なスタッフが1人はいるものの、常時配備することは難しいという案内所・施設も少なくない。“プラネタイズタッチ”を導入し事前に回答を入力すれば、対応可能なスタッフが不在時でも来訪者は母国語で情報にアクセスできるようになる。施設にとっては、今ある資産を活用できるため、インバウンド対応に掛かるコストを最小限に抑えつつ、受入体制のさらなる充実を期待できる。

サービスを無償で提供

 「自社で運営するホステルでは3人の外国人スタッフがいるのですが、英語以外に対応可能な言語は各々異なります。ユーザーの話す言語によっては、内容は容易なのに答えられないことも多々ありました」と、提供元であるトラベリエンスの橋本直明社長が開発の経緯について説明してくれた。新たな通訳案内士制度のあり方に関する検討会(観光庁)委員を務め、訪日外国人と通訳案内士のマッチングプラットフォーム(トリプルライツ)の運営も行う。東京・浅草橋で営むホステル(プラネタイズホステル、104人収容)での経験をもとに、“プラネタイズタッチ”の仕組みを考案したという。

 「ホステルということもあり、長期滞在する傾向にある欧米からのバックパッカーの利用が多いですね。渡航前に、1週間の予定をすべて決定する方は少数です。目的地を当日の朝に決めるということも珍しいことではありません。“プラネタイズタッチ”では、観光スポット情報の提供も併せて行っていますので、人気な目的地へのアクセス方法を翻訳した回答を入力しておけば、目的地の選定をサポートする電子ガイドブックとしても活用できます」。

 “プラネタイズタッチ”の無償提供は、外国人観光案内所やローカル地域の宿泊施設をネットワークするためでもある。案内所らの横のつながりを強化することで、都市からローカル、地方の中心部から点在する観光スポットへの送客を伸ばすことも可能だと考えるからだ。

 「“プラネタイズタッチ”の普及が進めば、ホステルという宿泊の場は、地域や観光スポットへの送客を実現する役割を担うこととなります。価格帯で競合する民泊施設との差別化にもつながります。外国人観光案内所でも同様の効果を期待できます。作成された多言語による回答は、導入施設間でシェアされますから、高度な語学力がなくとも、送客対応を充実させることが可能なのです」。

 同社では、オウンドメディア(プラネタイズ)を運営しており、地域の観光コンテンツを紹介する映像制作などにも携わっている。“プラネタイズタッチ”の普及は、導入施設の受入体制をレベルアップさせると同時に、自社メディアの価値を高めることにも寄与する。双方にとってプラスとなるよう工夫を施すことで、無償提供を実現した。

 「各外国人観光案内所の課題と予算事情を踏まえたうえで、無償提供できる仕組みを構築するべきだと考えました。“プラネタイズタッチ”の利用が普及すれば、自社のオウンドメディアへのアクセス増も期待できます。映像コンテンツの制作は有償で行っていますから、普及はコンテンツ制作の依頼増につながるとみています」(橋本氏)。

認定区分間の差を縮める

 現在、日本政府観光局(JNTO)が認定する外国人観光案内所は、全国に909施設(12年から認定開始)ある。パートナー施設を除き、認定区分は3種類、同社が運営するホステルも“少なくとも英語で対応可能なスタッフが常駐。広域の案内を提供”するカテゴリー2に位置する。最上位にランクするカテゴリー3の案内所は49件と全体の5%ほど、5割以上をカテゴリー1(英語対応可のスタッフの常駐が必須でない)の施設が占める。宿泊施設のほか、空港や道の駅が運営主体となる例が多い。

 「多言語対応と一対一のコミュニケーションを取ることのできる外国人観光案内所の存在は、インバウンドにとって頼もしく、旅後の口コミ効果やリピーター増につながる可能性も高いはずです。一方、多言語対応に潤沢な予算があるという案内所はほんの一部に過ぎません。カテゴリー2に認定された当社のホステルとて同じです。少ない予算で最大の効果を発揮するためにも、一つひとつの案内所をネットワークする“プラネタイズタッチ”の仕組みは大変有効だと考えています」。

 カテゴリー3の認定を獲得するためには常時、英語以外の言語対応も求められるなどハードルは高め。案内所の業務自体が無償奉仕となるため、運営主体に予算配分を期待することは困難だ。

 “プラネタイズタッチ”は、提供元である同社のビジネスモデルを補完する役割も担うことで無償提供を可能とし、各案内所・施設の懐事情にマッチする仕組みを実現した。外国人観光案内所は、インバウンドの受入体制の質向上を果たすためには欠かせない存在であるだけに、個々をネットワークする基盤づくりは、ローカル地域にとっても心強い取り組みである。今後、新たに案内所の設置を検討する地域や施設にとっても、安心材料となるはずだ。

 2月には、300ほどの外国人観光案内所が集うセミナー(JNTO主催)でも紹介された。全国レベルで観光情報の集約も期待できるため、導入と回答内容のシェアが進めば、認定区分間でのサービスレベルの差も縮まるかもしれない。

 

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