「観光革命」地球規模の構造的変化(297)ー最終回ー フューチャーデザインの必要性
2026年8月16日(日) 配信
日本で今フューチャーデザイン(FD)の重要性が認識されつつある。FDとはさまざまな課題に対して現役世代だけでなく、その課題の影響が及ぶ将来世代の立場も考慮して議論する取り組みのことだ。FDの具体例として、岩手県・矢巾町の事例を紹介したい。
矢巾町は盛岡市のベットタウンとして開発が進んだ町で人口は約2万7千人。2015年に老朽化した水道施設の見直しを行った際に、住民参加ワークショップで現世代グループと仮想将来世代Gに分かれて議論を行った。
現世代Gは水道料金の値下げと水道の安全性や美味しさを同時に要求、一方で仮想将来世代Gは水道の安全安心に伴う住民負担は当然という認識で、最終的に全体会議で水道料金値上げの提案に至った。矢巾町は18年にフューチャーデザインタウン宣言を行い、19年の新総合計画策定の際に住民参加で仮想将来世代(2060年)の観点での提言を組み込む計画策定を行った。
財務省の財政制度等審議会(国の財政制度について審議する財務大臣の諮問機関)でも「政策の立案に当たり、将来世代の視点に立って検討すべきという考え方がある」という観点で、22年11月に「今後、持続可能な財政・社会保障の在り方を考えていく上でも、次の時代を担う若年世代を含めてフューチャーデザインの考え方を活用した議論に社会各層を広く巻き込み、当事者としての関心を高めていくことが望ましく、こうした取組を具体化していく必要がある」と建議している。
私は03年に小泉政権の内閣官房に設置された観光立国懇談会のメンバーとして「観光立国の意義」について起草を行い、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」と題する観光立国政策の提言に参画した。その後、政府はインバウンド観光立国政策で成果を上げたが、現実には観光庁と観光産業の御三家(旅行業・宿泊業・運輸業)主導による目先の利益追求に力点が置かれがちの「片寄った観光立国」が推進されてきた。
今後の観光立国政策の立案に当たって、次の時代を担う若年世代を含めて、社会各層を広く巻き込むカタチでFDの考え方を活用した議論を周到に積み重ねる必要がある。最終的には地域の民産官学の協働によって、より望ましい未来志向の観光立国実現をはかることが期待されている。

北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館前館長。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。


