山陰花めぐり協議会 花の観光施設が連携 地域つなぐ
2026年4月3日(金)配信

鳥取、島根両県に点在する花の観光施設が連携し、地域全体の魅力発信と周遊観光の促進をはかる「山陰花めぐり協議会」(会長=松下敦史・一畑パーク社長)は、「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2025」の優秀賞を受賞した。2009年3月の設立以来、「花」と「人」をキーワードに連携事業を展開し、現在では山陽エリアと連携した広域観光ルートづくりにも力を入れている。設立の経緯やこれまでの取り組みを取材した。
【土橋 孝秀】
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□官民一体で回遊性高める 山陽エリアとの広域連携も
花を軸にした広域連携として発足
協議会設立に向けて動き出したのは08年。花愛好家が複数の花施設を周遊することで、圏域の花施設の認知度と回遊性向上をはかろうと、島根県松江市が中心となり準備活動を始めた。その前年には、市内にあった「ルイス・C.ティファニー庭園美術館」が閉館し、「松江イングリッシュガーデン」として再スタートを切っており、地域の花資源を改めて観光コンテンツとして捉え直し、広域的に発信していこうという機運が高まっていた。
山陰には比較的規模の大きい花の観光施設が点在しているが、当時それぞれが個別に集客をはかるかたちが主流で、施設同士の連携はほとんどなかった。花を目的に訪れる観光客のなかには複数の施設を巡るニーズがあるにもかかわらず、地域全体としての情報発信や周遊の仕組みが十分に整っていないという課題があった。こうした状況のなか、松江市の呼び掛けにより関係施設が意見交換を重ね、花をテーマにしたネットワークづくりの検討が進められた。
09年3月、官民連携による「山陰花めぐり協議会」が発足。松江市、とっとり花回廊(鳥取県・南部町)、日本庭園由志園(松江市)、松江イングリッシュガーデン(同)、松江フォーゲルパーク(同)、しまね花の郷(島根県出雲市)の6会員でスタートした。
スタンプラリーと相互モニター研修会
協議会発足後、最初の共同事業として取り組んだのがスタンプラリー企画だ。各施設を巡りながらスタンプを集める周遊型の仕組みを導入することで、花愛好家を中心に複数施設への来訪を促し、圏域内での回遊性を高めることを狙った。各施設の開花時期や見どころを生かしながら年間を通じて花を楽しめるルートを提案し、山陰の花観光を一体的にPRする取り組みとしてスタート。現在はデジタル版にブラッシュアップし継続している。
さらに、各施設の職員が互いの施設を訪問する「相互モニター研修会」も実施した。普段は自施設で業務にあたる職員が他施設を利用者の視点で見学し、展示や園内の案内、接遇などについて感じたことを持ち寄り、意見交換を行うものだ。これにより、各施設が持つ特色や運営の工夫を共有できるようになったほか、来園者への接遇や案内方法の改善などにもつながったという。
当時、松江市観光文化課に在籍し、協議会設立の旗振り役となった原正人氏(現在は由志園アドバイザー)は「相互研修によって各職員の意識が変わった。また、施設同士の交流が進んだことで、施設・職員間のネットワークも生まれ、協議会の活動を進めるうえでの信頼関係づくりにもつながった」と振り返る。
高速道路開通を契機に広域連携へ
島根県松江市と広島県尾道市を結ぶ高速道路「尾道松江線」(中国やまなみ街道)が15年3月に全線開通し、山陰と山陽を結ぶ広域観光の環境が大きく変化した。バラやチューリップなどの観光農園が集積する広島県・世羅町の同町観光協会からの打診があり、協議会では山陽側との連携の可能性について早くから検討を進めていた。
山陽側との協議では、沿線にあるワイナリーなども含めた観光ルート構想が持ち上がったが、協議会としてはテーマの統一性を重視し、「花」を軸とした連携に絞って協議を進めることになった。その後、ワーキング部会を中心に検討を重ね、山陽側の関係施設との現地視察や意見交換を通じて連携の可能性を探った。
13年3月、山陰花めぐり協議会、世羅町観光協会、国営備北丘陵公園、鳥取市で開催される全国都市緑化フェア実行委員会の4者による広域連携の覚書を締結し、広域観光の取り組みが本格的に動き出した。
同年には試験的な取り組みとして「山陰花めぐりスタンプラリーPLUS」と「山陽花めぐりスタンプラリーPLUS」を実施。山陰側のスタンプラリーに山陽側施設を1カ所加えるなど相互に参加するかたちで運営し、広域連携に向けた実務面の検証や情報共有を進めた。こうした取り組みを通じて、施設や団体間の信頼関係を徐々に築いていった。
広域連携事業が高い評価を受ける
15年3月、山陰・山陽双方が参加する新たな枠組みとして「山陰山陽花めぐり街道協議会」を設立し、広域周遊の核となる事業として「山陰山陽花めぐり街道ドライブスタンプラリー」を開始。山陰と山陽に点在する花の観光施設を巡る広域型の企画として展開し、中国やまなみ街道を利用したドライブ観光と組み合わせることで、両地域を結ぶ周遊観光の促進をはかった。
同時期には広域連携の先進事例として知られる「北海道ガーデン街道」の取り組みを参考にするため、同街道の関係者を招いた勉強会も開催した。この勉強会を契機に、従来のスタンプラリー中心の仕組みを見直し、各施設の見どころや花の見ごろ、周辺観光情報などを掲載したガイドブックの制作に着手した。それまでスタンプラリー台紙が唯一の共通コンテンツで、施設紹介などの情報は限られていたが、ガイドブック化によって花をテーマにした旅の提案をより充実させることができるようになった。また、ガイドブックに広告協賛を募ることで、加盟施設や団体の負担金だけに頼らない事業財源の確保への道筋を模索した。
16年には日本観光振興協会と日本旅行業協会(JATA)が主催する「ツーリズムEXPOジャパン」のジャパンツーリズムアワード・プロモーション部門で、山陰山陽の広域周遊事業が評価され部門賞を受賞。同年には中国北京で開催された「中国花海博覧会」にゲストパネラーとして招待された。海外からも広域連携や官民一体となった組織への関心が寄せられた。
PRイベントや新たな連携を拡大
山陰花めぐり協議会には、19年に中国庭園燕趙園(鳥取県・湯梨浜町)が、22年には鳥取市がそれぞれ新たに加入。現在は2市5施設で構成する。
これら5施設をお得な料金で巡ることができる共通チケット「山陰花めぐりPASS」(冊子)を、一畑トラベルサービス(松江市)と協働で開発。昨春には多言語対応のモバイルチケットを導入し、インバウンド向けにもPRを始めた。販売方法の見直しや周知の強化などを進めながら利用拡大をはかっている。
また、広域連携の取り組みを生かし、各地で開催される観光イベントや花関連イベントへの出展も積極的に行っている。中国やまなみ街道沿線の施設と連携したPR活動のほか、国営備北丘陵公園で開催されたイベントなどにも参加し、山陰の花施設の魅力や周遊観光の楽しみ方を発信してきた。
こうした取り組みに加え、自動車ユーザーを対象とした観光振興の一環として、日本自動車連盟(JAF)中国本部と、山陰山陽花めぐり街道協議会として連携。ドライブ観光の安全・安心の啓発とあわせ、花施設を巡る観光ルートのPRを行っている。
さらに、24年度には日本庭園由志園が埼玉県東松山市の市有施設「東松山ぼたん園」の指定管理者に選定されたことを受け、関東圏との交流も視野に入れた情報発信を検討。松江市と東松山市はいずれも市花が「ぼたん」であることから、花を通じた都市間交流や相互誘客につなげたい考えだ。
官民連携組織ならではの課題
山陰花めぐり協議会は官民一体の組織であり、運営には公金が含まれる。このため予算執行の透明性や公平性が求められ、加盟施設や団体の理解と合意形成が重要なポイントとなる。また、民間施設の負担金は、各施設の規模や集客数が異なることから、集客規模に応じて金額を設定する。事務局機能は年度ごとに持ち回りで担当し、活動は各施設の担当者で構成されるワーキング部会が中心となって進めている。
地域貢献活動にも注力へ
発足から16年。山陰花めぐり協議会は、花という共通の観光資源を軸に施設同士の連携を深めながら、山陰地域の観光振興に取り組んできた。個別施設の魅力発信にとどまらず、周遊観光という視点で地域全体の価値を高めてきた点が特徴だ。
今後はデジタルスタンプラリーや共通チケット、イベントなどでのPRに加えて、地域貢献活動にも注力していくという。具体的には地元の団体や小学校などに花の苗を贈呈するほか、花壇づくりやプランターへの植栽を行って寄贈するなど、花を通じた地域貢献活動を展開する予定だ。地域住民や子供たちが花に触れる機会を増やすことで、地域の景観づくりや花文化の醸成にもつなげたいとしている。







