【第36回北前船フォーラムin信州まつもと ~初の内陸開催 「塩の道」で地域連携を一層拡大~】 北前船伝統的工芸品ネットワーク 設立に向け発起人会開く
2025年12月25日(木) 配信

「北前船伝統的工芸品ネットワーク(仮称)」の発起人会が11月21日(金)、ホテルブエナビスタ(長野県松本市)で開かれた。参画予定の各自治体が連携し北前船寄港地・船主集落の歴史的つながりを生かし、保有する伝統的工芸品の魅力を国内外へ発信やブランド化などを行い、新たな販路の拡大と価値の向上を目指す。今回は今年1月下旬に予定する設立総会に向けて活動方針や規約、来年度の事業と予算案などについて協議した。
発起人代表として高橋邦芳新潟県村上市長は「世界に冠たる日本工芸を共有する自治体が、北前船の歴史的キーワードで再びつながる意義は大きい。歴史と文化、工芸を結びつけ、自治体連携で世界発信する強力なプラットフォームにしたい」と意気込みを述べた。

同ネットワークには、北前船日本遺産推進協議会に加盟する52自治体のうち、伝統的工芸品を有する17自治体が参画する。会長1人、副会長若干名、幹事1人を置く。さらに、専門家や関係機関を顧問に迎え、産地支援や海外展開に必要な知見を広く取り込む体制を整える。
今後の活動方針として、①北前船ゆかりの伝統工芸品の周知と体系的な情報発信②国内外の展示会やイベントを通じ、産地の魅力を効果的なプロモーション③工芸を核に据えた「工芸ツーリズム」の展開による交流人口の拡大――などが掲げられた。
北前船交流拡大機構の浅見茂専務理事は、イタリア・ミラノで開かれたミラノ・フォーリーサローネでの出展事例を踏まえ、「現地の反応を次の作品づくりに生かし、その学びをほかの産地とも共有する循環が必要だ」と地域間連携の意義を述べた。
跡見学園女子大学の篠原靖准教授は工芸ツーリズムについて、「PR型から、販路形成へとステージが変わりつつある。課題整理とモデル形成をこのネットワークで担ってほしい」と期待を寄せた。
前EU日本政府代表部参事官で財務省大臣官房の二宮悦郎企画官は、EU日本政府代表部参事官だった経験を踏まえ、「日本の伝統工芸は欧米の超富裕層に届く唯一無二の文化資源。政府に専任の担当部署がないため、仲介機能が不足していた。自治体の広域連携が欠落していた部分を補う」と話した。
発起人である石川県輪島市の坂口茂市長は「震災からの復興において、工芸文化は地域の誇りであり、未来を切り拓く力。全国の仲間と共に一歩を踏み出したい」と述べた。
□伝統的工芸品の可能性を聞く
発起人会終了後には、工芸が直面する課題と今後の可能性などについて意見を交わす座談会が開かれた。発起人代表である高橋市長と、発起人の坂口市長と渡辺市長、有識者として二宮企画官と、浅見専務理事が参加した。進行役は篠原准教授が務めた。
冒頭、篠原准教授は「地域だけでは解決しきれない課題が増えている。広域で知恵を持ち寄る時期に来ている」と指摘した。
高橋市長(村上市)は「市の伝統的工芸品が後継者不足によって技術喪失の危機にある状態だ。さらに、多くが少量生産かつ高付加価値型で、地域だけの努力では維持が難しい」と危機的状況を語る。
そのうえで、「販路開拓に向けた広域での取り組みが欠かせない」と今回のネットワーク必要性を示した。
渡辺市長(佐渡市)は「時代とともに、家業を継がない選択をする若者が増え、産業が維持できない状況になっている」と話す。「日本文化への関心は海外で確実に高まっている。今、スタートしなければ間に合わない。優れた文化資源であっても伝えなければ届かない。国内外へ積極的に発信し、その反応を職人へと返すことが必要だ」と強調した。

坂口市長(輪島市)は、能登半島地震で約85%の工房が被災したことを説明。「技術は繊細で、期間が空くことで落ちる」と危機感を示す。また、「復旧による需要がピークを過ぎたあと、市場が縮む可能性もある。このため、全国の産地と横連携し、販路を拡大させたい。海外展開に踏み出すことで、デザインや価値提案が革新され、国内市場にも新しい波が起きる」との考えを述べた。

二宮企画官は「日本の工芸が欧州で品質が高く実用品で芸術品でもある独自性を高く評価されている。作り手がその価値を十分に理解していないケースも多い」と指摘する。

そのうえで、「意欲ある自治体がまずモデルをつくり、成功例を横展開すべきだ。今回の取り組みはプラットフォームとして最適だ。一自治体で海外へ販路を開拓することが難しいなか、連携のためのネットワークを発足する意義は大きい」と語った。
浅見専務理事は「現地の反応を次の制作に生かし、産地間でも共有できる循環型の仕組みを構築したい。若手デザイナーの感性と工芸技術が結びつく商品は、確かな手応えがある。広域ネットワークを発足させることで、経験を蓄積し共有する仕組みを大きく育てることができる」と同ネットワークの意義を強調した。
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最後に篠原准教授が、「北前船は人と物と文化をつないだ。今回の取り組みは、その『つなぐ力』を工芸の世界で再現する試みだ。地域単独では難しい課題も、連携することで未来を描ける」とまとめた。








