test

「街のデッサン(263)」ソーシャルキャピタルが社会力を再生させる、社会関係資本の存在意味

2023年3月19日(日) 配信

存在意味の創発を持続させる(八木橋百貨店)

 社会は複雑な人間同士のリアルな「関係」によって成り立っている。その複雑な関係こそが、部分の総和を超えた「創発」を生む。総体がソーシャルキャピタルだ。

 私が中学生だったころ、担任の先生の薦めで吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」を読んだ。下村湖人の「次郎物語」に感動している文学少年には、いきなりレベルの高い社会小説を押し付けられた感があったが、読み込んでいくうちに興味が持続し了読できた。分けても心に残ったのは、どういう訳か第1章の主人公・本田潤一少年が、コペル君というあだ名で呼ばれるきっかけにもなった、銀座のデパートメントストアの屋上で叔父さん(母親の弟で、大学を出たばかりに法学士)との共同体験であった。霧雨にけぶる7階からは銀座通りを見下ろすことができた。その通りには大勢の人々が行き交い、自動車や電車は渋滞し人々は多様に行動して、通りが海溝のように思え、満ちたり干たりして、それぞれの生き方を想起させる。

 コペル君はその風景から「人間て、まあ、水の分子みたいなものだねえ」と突然思い付く。その晩、家に帰った叔父さんはコペル君に、ものの見方について一文をしたためた。こうやってコペル君は、叔父さんや自己体験から「人間はどう生きる」かの世界観を学ぶことになる。それがこの本の筋立てであり、社会関係資本の大切さを物語った。

 私は今、東京の代々木で暮らしている。新宿と渋谷の何カ所もの百貨店に徒歩で買い物に行けるが、昨年から今年にかけて複数が終業に追い込まれた。昨年末に小田急百貨店が閉店し、今年1月には東急百貨店本店が店仕舞い。私の家内は小田急では洋品小物や文房具など、東急本店の地下食料品売り場で贈答品などがご贔屓だった。しかし、百貨店はもう百科は要らない、縮小が強いられる。

 この1月、所用で埼玉県熊谷市の近在を旅した。中心市街地で地方百貨店・八木橋に出会う。八木橋では目下ハンズフロアーを目論んでいるが、存続の鍵は市民の多様な関係性を生み出す社会関係資本による「創発の場」の発現である。

 実のところ私たちは、百貨店の本当の役割を見通すことができなかった。本質はコペル君が屋上から新しい社会の発見をしたような人間関係への目覚めだ。銀行やオフィスの屋上からは社会資本は生まれない。新型コロナ禍の蔓延で途絶えたリアルな人間の温もりに満ちた交流と社会関係の創造が、「〝創発〟百貨店」を舞台にすると予感するのは、私だけであろうか。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

いいね・フォローして最新記事をチェック

コメント受付中
この記事への意見や感想をどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。