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「街のデッサン(261)」旅の神髄は村上春樹に尋ねよ、旅人の考えていることが貴重

2023年1月4日(水) 配信

旅行記に学びが埋蔵されている

 国や自治体の観光政策立案の委員会、民間の観光開発事業の企画会議などに招聘されていつも思うのは、その議論のメンバーは行政担当者、ホテルや地域交通など観光事業関係者、そして大学など観光諸学の先生方(識者)が常連で、肝心の「旅する人(観光客)」の参加はほぼ皆無だ。
 
 観光客の代表を特定することは難しいかもしれないが、観光産業のサプライサイドばかりが集まっても、そのサービスを享受する人間(観光客)の経験的、客観的な評価や批判が無ければ、観光産業の事業創造や旅の神髄が創案できないように思える。「旅」や「観光」の価値、意味が掴めていないから、何にせよ費用支援や損得勘定ばかりの政策を実施することになる。
 
 本来は大学などの識者が旅人(ツーリスト)の考えを代弁すべき役割を期待されているであろうが、その先生方の多くが旅行エージェント出身であれば、集客(イベント)や事業者の利益創出に視点が流動してしまうだろう。観光が地域文化や地球環境の学びと保全の基盤になり、地域産業観光が地縁技術や地域経済の自己循環や創造・増殖の背骨になること、旅が人間の生きる糧になる哲学など理解の外にあることになる。
 
 私は恥ずかしながら「識者」として委員会や会議に呼ばれたりするが、スタンスは「旅人視点」を外さず、1人の人間が観光行動からの学びや成長を受容する大切さを話させてもらっている。本当は、ツーリストの文化体験が結果として国家や地域利益を創出する基盤となるのであるが、その迂遠なセオリーは理解されず、残念な提言で終わることがほとんどだ。
 
 次代の日本を支える国策は「観光立国」である。この構想に貢献した歴史家に木村尚三郎先生がいるが、世界各地を旅し紀行文を多数著わし、1980年代初頭には「観光立国・日本のすすめ」というエッセイでその概念を主張している。それまでの「産業立国」を凌駕する構想は、旅人としての叡智が生んだ。
 
 木村先生亡き後、次なる観光政策立案をもし私が任としたら、委員会のメンバーに識者=旅人代表として作家・村上春樹を招聘したい。彼は、長編の小説を書き上げるためにしばしば海外の都市に居留する。それらはローマやボストン、ギリシャの島だったりするが執筆している間も周域を旅し、その体験を旅行記にまとめる。この旅のエッセイ集が実に面白く、魅力的で「観光立国」の要諦を突いている。委員に旅人を入れたいとき、彼の視点・意見は必須だ。委員受諾は、むろん保証できないが。

 

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

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