2025年2月4日(火) 配信
松坂美智子女将
2014年12月に開業した「強羅花扇 円かの杜」(神奈川県・箱根町)が開業10周年を迎えた。脱炭素化という世界的な潮流のなかで、燃焼しても二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーに大きな魅力を感じ、旅館では前例のない「水素調理」を導入。食や音楽、温泉などにこだわった個性的な宿を目指す円かの杜の大きな特徴となっている。松坂美智子女将に10年を振り返りながら、これから宿が進んでいく道筋についてインタビューした。
【本紙編集長・増田 剛】
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開業10周年を迎えた「円かの杜」のエントランス
――「円かの杜」は開業10周年を迎えました。
2009年オープンの早雲閣、強羅花扇に続き、円かの杜は14年12月に開業しました。振り返りますと、翌15年には大涌谷の噴火、19年には台風による大水害、その後コロナ禍による行動制限など、これまで考えられなかった出来事が次々に発生し、軌道に乗って加速し始めたかと思うと、どん底に落ちるような大きな波のある10年でした。
苦境の時期に宿泊していただいたお客様から、「とてもよかったよ、また来るね」とお褒めの言葉をいただくと、涙が出るほどうれしく、大きな支えになりました。食や音楽、温泉、ブックディレクターなど、各分野の専門家の方々からもアドバイスをいただき、本当に元気づけられました。
――宿のあらゆるところに“こだわり”を感じます。
創業者(飯山和男会長)の“木の美学”に対するこだわりはとても強く、飛騨の高級木材と、全館畳敷きの「自然素材に包まれた温かみ」が宿の根幹をなしています。そこに、食や音、本、温泉、サービスにもこだわり、「個性ある宿」を目指しています。
一流演奏家によるミニコンサートや、「湯×音×食」を愉しむプランなど、箱根の森の中で独創的な世界を味わっていただければと、さまざまな企画を試みています。
お客様が宿で過ごされるなかで、本棚に並ぶ絶版本や希少価値のある本など、さりげない遊び心に面白さを感じられたり、訪れる度に、ちょっとした変化や進化した部分を発見されたり、何十回とお越しいただけるリピーターのお客様もいらっしゃいます。
――環境意識への高さも大きな特徴ですが、きっかけは。
19年の大水害の翌朝は穏やかな青空で快晴でした。宿泊客やスタッフは円かの杜に避難させていたので無事でしたが、昭和的な「侘び寂び」感が好まれた早雲閣の惨状は今でも忘れられません。