「温泉文化」世界遺産登録推進議連、新会長に菅義偉元首相 総会開き関連団体の活動説明も受ける

2025年3月11日(火) 配信

総会のようす

 「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録推進議員連盟は3月7日(金)、衆議院第二議員会館(東京都千代田区)で総会を開き、空席となっていた会長職に菅義偉元首相を選任した。さらに、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会や日本温泉協会、日本旅館協会、日本観光振興協会、日本旅行業協会などから、登録に向けた活動状況を聞き、連携を深めた。

 菅新会長は「温泉は世界に誇るべき日本固有の文化。登録が実現すれば、外国人が温泉目当てに全国隅々へ訪れる。地方創生と国益にもかなう」との考えを示した。そのうえで、「温泉地の皆様の声を国政に届けていきたい。自民党は公明党とも連携を強め、登録に向けて取り組んでいく」と意気込みを語った。

菅義偉新会長

 開会あいさつで、赤羽一嘉会長代行は「地方誘客が課題となるなか、ユネスコ登録を力強く前進させたい」と意気込んだ。また、「(各温泉地のさらなる発展には、)登録だけでは意味がない。温泉文化の素晴らしさを世界に示してほしい」と観光業界に求めた。

赤羽一嘉会長代行

 主な新体制は次の各氏。

 【会長】菅義偉【会長代行】赤羽一嘉【副会長】林芳正▽岩屋毅▽河野太郎▽森山裕▽小渕優子▽坂本哲志▽西村康稔▽橋本聖子▽佐藤信秋▽若松謙維【幹事長】柴山昌彦【事務局長】牧島かれん

山本知事「今年が勝負」 関係団体が取組説明

 第2部の関係団体からの取組説明では、「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会事務局長の山本一太群馬県知事が登壇。「温泉文化の登録はインバウンドによる経済効果が地方に波及し、交流人口増加による地方活性化につながる」と活動の意義を説明した。

山本一太知事

 最短となる2028年の登録に向けて、文化庁の文化審議会が25年12月ごろに国内候補を決定するため、「今年は勝負の年。菅新会長をはじめ、議連の皆様に力強く後押ししてほしい」と求めた。

 「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産推進協議会の事務局を担っている全旅連の小井戸英典副会長は「次世代につなぐため、業界として全力で取り組む」とあいさつした。

小井戸英典副会長

 具体的な同協議会の取り組みについて、全旅連青年部の清都俊仁政策渉外委員長は、業界の課題として深刻な人手不足とコロナ禍での赤字経営による債務返済を挙げ、「登録が温泉で働く人々の誇りと希望を醸成する。さらに、訪日需要の拡大や高付加価値化につながる」とした。

清都俊仁委員長

 同協議会は2月5(水)~6日(木)に開催された宿フェスなどで署名活動を展開。歌舞伎俳優の市川團十郎さんを温泉文化アンバサダーに任命し、温泉文化の価値や魅力もアピールしている。

 能登半島地震からの復興状況の報告では、おくだや(石川県・和倉温泉)社長で和倉温泉旅館協同組合青年部の奥田一博部長が登壇した。

奥田一博部長

 和倉温泉の宿泊施設21軒のうち、営業を再開した施設は現在4軒。今年中に3軒が再開予定となっている。復興に向けて、旅館や地元商店などが加盟する和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会が昨年、発足。3月18日(火)、東京都内で次世代を担う若手経営者が中心となってまとめた和倉温泉復興プランを発表する。

 同プランでは、多様で洗練された湯治の提案と、温泉文化を未来につなぐことを重点に置いていることから、奥田部長は登録について「能登半島復興の狼煙になる」と期待を寄せた。

「常磐もの」で会席プラン ホテル華の湯、福島プレDC(4~6月)契機にブランド普及目指す

2025年3月11日(火) 配信

料理を紹介する丸山賢治総料理長(3月10日)

 福島県・磐梯熱海温泉のホテル華の湯は、「ふくしまプレデスティネーションキャンペーン(DC)」の開催に合わせて、2025年4月1日(火)~6月30日(月)まで、福島沖で水揚げされる海産物「常磐もの」を主に、県産食材を会席料理で楽しめる個人・グループ向け宿泊プランを発売する。

 「常磐もの」とは、福島県沿岸で獲れる新鮮な魚介類の総称。同海域は寒流と暖流がぶつかる「潮目の海」と呼ばれ、魚のエサとなるプランクトンが多く発生することから、多種多様な魚介類の宝庫として知られるとともに、そのおいしさへの評価も高い。

 ホテル華の湯は2010年に地産地消をテーマとしたビュッフェダイニングをオープンさせ、東日本大震災後も一貫してその姿勢を貫いてきた。近年では天然トラフグの「福とら」をはじめ、食材として「常磐もの」を積極的に取り入れている。今回の企画では、水産物だけでなく、それを支える人々の技術や伝統、文化への敬意を込めて「常磐もの」と定義し、ブランドの普及を経営方針の1つに掲げている。

 販売する宿泊プランの名称は「常磐もの堪能プラン~豊かな海が育む、最高級の魚介類」。水揚げ状況からその日の選りすぐりの造り盛り合わせ4種や、「福とら」のアラの焼き物、アンコウ唐揚げなど「常磐もの」を中心に、県産食材39品を使った料理を提供する。料金は2万5000円(税別)から。丸山賢治総料理長は「春先は魚種が豊富なので、『常磐もの』の魅力を伝えるには最適」とPRする。

 JRグループと自治体が共同で実施する大型観光キャンペーン「ふくしまDC」は、26年4~6月の開催。「しあわせの風ふくしま」をキャッチコピーに、さまざまな企画を通じて、自然や歴史・文花、食と酒、体験と復興の魅力を発信する。県は25年のプレDC、27年のアフターDCをあわせた3年間(4~6月)で、来県者数4800万人以上を目標に掲げている。菅野豊臣社長は「通年企画化も視野に、『常磐もの』の魅力をより多くの人に伝えていきたい」と意気込む。

4月1日から「日本遺産 御周印帳」を販売 日観振、日本遺産ツーリズムを促進

2025年3月10日(月) 配信

「扇」と「花」の2パターン

 日本観光振興協会(菰田正信会長、東京都港区)は4月1日(火)から、「日本遺産 御周印帳」を売り出す。昨年9月から「日本遺産 御周印・御周印帳」の取り組みを開始し、これまでイベントなどで無料配布を行ってきたが、次年度から有料化して本格始動する。

 日観振は、日本遺産の認知向上と活用を目的に日本遺産ツーリズムを推進。実際に日本遺産を体感する旅へのきっかけ作りとして、文化庁や日本遺産連盟、各日本遺産協議会の協力のもと「日本遺産 御周印・御周印帳」を始めた。

 御周印帳は表紙のデザインを新たに、新年度から各地の押印場所や日観振公式サイトで、1冊2000円で販売する。蛇腹折の帳面で、表紙はステンドグラス風の「扇」と「花」の2パターン。中面には朱書きで「日本遺産」の文字があらかじめ印刷されており、そこに「御周印」を押すことで完成する仕組み。

 全国各地に設置されている「日本遺産 御周印」は新年度から押印手数料として300円を徴収。各地の文化財の修繕などに活用していく。なお、御周印を押してもらえるのは専用の「御周印帳」を持っている人限定。

日高広域観光振興協議会、海からの熊野古道マップ作成 新たな観光資源として活用へ

2025年3月10日(月) 配信

作成したマップ

 日高広域観光振興協議会(金﨑昭仁会長、和歌山県御坊市)はこのほど、「海からの熊野古道」のウォーキングマップを作成した。新たな観光資源として活用する狙い。

 海からの熊野古道は、熊野古道の紀伊路の難所である鹿ヶ瀬峠を避けるため、船で比井湊に到着後、紀伊路に合流するルート。マップには、若一王子神社(日高町)を起点とし、さまざまな見どころを巡る4コースを掲載。歴史に思いを馳せながら楽しめるという。

 マップはA4判、両面フルカラー。紀伊内原駅や御坊駅、道成寺駅、日高町役場、御坊市役所、日高振興局などに置かれている。同会ホームページ紀中を巡るHidaka Historyからダウンロードすることも可能。さらに、マップに記載の2次元バーコードを読み込むことで、スマートフォンの地図アプリ上にルートを表示させることができる。

古書の街・神保町舞台にリアル謎解きゲーム 千代田区観光協会がさくらまつりに合わせ3月12日から開始

2025年3月10日(月) 配信

「幻の浮世絵と本の街 ₋怪盗ブロッサムの仕掛けた謎₋」

 千代田区観光協会(藤井隆太会長、東京都千代田区)は3月12日(水)から、古書の街・神保町を舞台にしたリアル謎解きゲーム「幻の浮世絵と本の街 ₋怪盗ブロッサムの仕掛けた謎₋」を開催する。春のイベント「千代田のさくらまつり」の開催期間に無料で実施し、桜の名所の千鳥ヶ淵から足を延ばして街歩きを楽しんでもらうのが狙い。ゲームの企画制作はハレガケ(黒田洋介社長、東京都豊島区)。

 謎解きゲームは、「古書の街・神保町」をテーマに歴史ある古書店や趣のある喫茶店を巡る。謎解きキットのデザインや謎は古書を題材にしており、ゲームを通じて神保町の魅力や雰囲気を体感できる。

 また、現在放送中のNHK大河ドラマで注目されている蔦屋重三郎は千代田区ともゆかりがあり、キット内には江戸時代の出版文化や浮世絵の発展に寄与した蔦屋重三郎にまつわるコラムや、ゆかりの地に関連するコラムを収録している。

 謎解きキットは千代田区観光案内所と千鳥ヶ淵緑道内グッズ販売ブース(ライトアップ期間のみ)で配布する。想定プレイ時間は90~120分。期間は4月23日まで。ゲームをクリアすると景品が当たる抽選に参加できるほか、キットには周辺店舗で使用できるクーポンもついているため、主催者は「神保町の新たな魅力を発見し、今後も訪れたくなるきっかけとなれば」と期待する。

最大5万円割引に ジャルパックが海外ダイナミックパッケージセール開始

2025年3月10日(月) 配信

 

 ジャルパック(平井登社長、東京都品川区)は3月10日(月)から、海外航空券と宿泊がセットになった「JAL海外ダイナミックパッケージ」のタイムセールを開始した。行先によっては最大5万円引きになる。

 ハワイでは割引を適用した場合、10万円を切る出発日もあり、お得に予約できるという。このほか、アメリカの人気テーマパークチケットが特別価格で予約できるオプションなども販売する。

 予約は3月24日(月)午後11:59まで。出発期間は3月15日(土)~9月30日(火)まで。割引額はハワイの4~6月出発が5万円、7~9月出発が3万5000円、ヨーロッパ・アメリカが3万円など。

HIS、新たな休暇制度導入 働きがい向上目指す

2025年3月10日(月) 配信

 エイチ・アイ・エス(HIS、矢田素史社長)は3月5日(水)、新たな3つの休暇制度の導入を発表した。ワークバランスの充実と多様な働き方を推進し、従業員の働きがい向上を目指す。

 このうち積立有給休暇制度は、従業員が2年で失効する法定の有給休暇を年間10日を上限に、3年間で30日まで積み立てることができる。本人の病気やケガの治療のほか、骨髄ドナーや不妊治療による通院で使用可能となっている。仕事と通院の両立を支援する。開始日は5月1日(木)。

 HISは4月1日(火)に、1日または半日単位で使える年次有給休暇を、1時間単位で取得可能になる時間単位年次有給休暇制度も始める。時間単位で利用することができる日数の上限は5日。

 また同日には、永年勤続特別休暇制度を再開する。2018年に同制度をスタートし、コロナ禍で20年4月から中断していたが、情勢が平時に戻ったことから再導入する。同制度は勤続10年に5日、20年と30年、定年時にそれぞれ10日を与える。

「うみねこパン」と乗船券付き 休暇村陸中宮古が「宮古うみねこ丸」3周年記念プラン

2025年3月10日(月) 配信

宮古市遊覧船「宮古うみねこ丸」は7月で就航3周年

 三陸復興国立公園に位置する「休暇村陸中宮古」(嶋田哲也支配人、岩手県宮古市)は4月1日(火)から、宮古市遊覧船「宮古うみねこ丸」就航3周年を記念して、乗船券と「うみねこパン」が付いた宿泊プランを売り出す。9月30日(火)までの期間限定。

 「宮古うみねこ丸」は2021年1月に運航を終了した「みやこ浄土ヶ浜遊覧船」に代わり、23年7月から就航している。展望デッキからは、太平洋の大海原や船上からしか眺めることができない国指定天然記念物「ローソク岩」をはじめ、雄大な景色が満喫できる。24年9月24日には乗船者数10万人を突破した。

 船内では、うみねこパンが1個200円で販売されており、ウミネコの餌付け体験ができる。アカモクなどの海藻が練り込まれており、ウミネコはもちろん、人も美味しく食べられるという。乗船した人のみ購入できるパンで、土産にもおすすめ。

 今回の宿泊プランはシーサイドビュッフェ付きで、夕食や朝食は海の幸や山の幸が好きなだけ堪能できる。料金は平日2人1室利用時、1人1万5200円~。チェックイン時に乗船引換券・パン引換券がもらえる。船は毎週火曜日が運休なので要注意。7月と8月は毎日運航する。

【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その47- 奥能登の真脇遺跡&ウッドサークル(石川県・能登町) 縄文人の精神性に触れる旅 神秘的な空間ウッドサークル

2025年3月9日(日) 配信

 今回の精神性の高い旅は、石川県・奥能登の富山湾に面した、内浦海岸東部にある真脇遺跡。およそ6000年の時を超えた縄文遺跡があります。北陸では最大級の遺跡であり、国指定史跡として認定されています。

 近くには、真脇ポーレポーレという温泉付きのホテルもあり、縄文人の文化を親切に教えてくれる真脇遺跡縄文館も、隣接しています。

 真脇遺跡やウッドサークルについて知識を深めるには、真脇遺跡縄文館も、訪れてみてください。真脇遺跡は、大学の考古学者の先生たちがよく訪れているとのこと。アカデミックな香りが漂いながらも、素朴で癒される土地のエネルギーを感じます。

 

 

 真脇遺跡は、土器・石器・木製品・巨大な柱・イルカの骨など、大量の出土品が見つかりました。「イルカの骨」という部分に、私のアンテナのセンサーが反応。大量のイルカの骨が見つかったというところから、「イルカ漁」が盛んに行われていた土地であり、縄文人の食生活を知るうえで大きな手掛かりとなりました。イルカの骨だけでなく、魚や獣類、人間の骨までも発見されています。

 また、写真にありますように、レプリカですが、クリの木で作られた縄文時代晩期の環状木柱列であるウッドサークルも、縄文人の非常に深い、心温まる精神性を感じずにはいられません。石川県金沢市にある、先に確認されたチカモリ遺跡のウッドサークルとよく似ているそうです。

 さて、真脇遺跡が大量のイルカの骨が出土されていた場所であるということは、アイヌの熊の魂を崇めて天に送る「熊送り」(イオマンテ)と同じように、イルカの魂を送る儀式があのウッドサークルの中でも行われていたように思えてならないのです。

 

真脇遺跡のウッドサークル

 哲学者の梅原猛先生もおっしゃられていたように、アイヌの人々も、真脇の人々も、生きていくうえでありがたく頂戴する熊やイルカの肉に感謝して、また来年もいただけるようにと丁重に祈りを捧げたのではないでしょうか。イルカからは、食肉だけでなく、油などもとれたそうです。

 豊漁と再生を祈り、心の底からの感謝の気持ちが真脇遺跡を訪れてみて感じずにはいられません。感謝と再生の祈り無しに、ただイルカ漁をしているとは私には思えないのです。無用な殺生はいけないことですが、生きていくためには、イルカ漁をやらないと生きていけなかったのでしょう。

 感謝の心に溢れた、真脇の縄文人の「命あるものへの思いやり」に満ちた精神性が心に響くのです。

 ウッドサークルに関しても、やはり「人は亡くなって天へ還り、再びこの世の地へ戻ってくる」という、「生と死の循環の思想」を感じずにはいられません。例えば、橋というのは「天と地を結ぶもの」という考え方があります。「生と死と循環の思想」からも、京都の天橋立は、はじめは橋を通して神様も人も自由に天と地を行き来したのかもしれませんが、あるとき神様が眠っているときに、橋が倒れてしまい平面的なものになってしまったといわれています。

 

真脇遺跡縄文館

 真脇のウッドサークルも、天と地を結ぶものであり、崇高な儀式や祈りを捧げたのかもしれません。イルカだけでなく、人間や獣類の骨も出土された真脇遺跡であるからこそ、あらゆる生命体の魂を天に送って、再びこの世に生まれてくるという愛情と感謝に満ちた祈りを捧げたと思わずにはいられません。

 このウッドサークルの中心に立つと、天界へとつながっていけるような感覚になってしまいます。縄文人の残したものの背景に潜む深く心温かな精神性が、死というものに対して大らかな境地にさせる効果をもたらすのではないでしょうか。

 交通アクセスは、JR金沢駅から特急バスで縄文真脇温泉口下車。徒歩14分程度。バスの乗車時間は、2時間程度。

 

旅人・執筆 石井 亜由美
カラーセラピスト&心の旅研究家。和歌山大学、東洋大学国際観光学部講師を歴任。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。

「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(242)」 日本遺産による新たな都市連携(群馬県桐生市)

2025年3月8日(土) 配信

桐生織のルーツといわれる白瀧姫(桐生市HPより)

 群馬県桐生市の郊外に、2柱の織物の神が祭られる白瀧神社という小さな御社がある。京都から織物の製法を伝えたという「白瀧姫」を祀る神社である。京都に出仕したこの地の男が、官女白瀧姫を見初め、身分違いの恋だが、見事な和歌を披露して白瀧姫を故郷へと連れて帰ったとか。そして白瀧姫はこの地に養蚕と機織を伝えたという伝説である。8世紀半ばの物語である。

 桐生の織物の隆盛を象徴するさらに2つの話がある。一つは1333(元弘3)年、新田義貞が鎌倉倒幕のため挙兵した際、桐生で織った絹を使って幟にしたという話、もう一つは1600(慶長5)年関ヶ原の戦いで、徳川家康の要請により、わずか1日で旗絹2410疋を織出し、東軍勝利に貢献したという話である。徳川家の祖、新田義貞旗揚げ由来で、縁起のよい桐生製の歴史を紐解く物語である。

 その桐生では、江戸時代後期には手工業生産を分業化し、いわゆるマニュファクチャー制度を確立した。そして、明治になると、ジャガード機など、当時の最先端技術をいち早く導入して近代的な生産体制を確立した。1887(明治20)年の日本織物株式会社の設立を機に、「西の西陣・東の桐生」と呼ばれるような日本を代表する産地としての地位を築いていった。

 こうした桐生の織物の歴史は、「かかあ天下~ぐんまの絹物語」として2015年に日本遺産に認定(桐生市のほか甘楽町・中之条町・片品村)されている。桐生など絹織物が盛んだった上州では、女性が養蚕・製糸・織物で家計を支え、近代以降は製糸工女や織手として活躍した。まさに「おれのかかあは天下一」である。

桐生有鄰館で開催された日本遺産・織物フェスタ

 その桐生で2月初旬、織物に由来し、かつ日本遺産に認定されている5都市の市長ほかトップリーダーが集うシンポジウムが開かれた。足利市(銘仙/近世日本の教育遺産)、館林市(紬・モスリン/里沼)、八王子市(多摩織/霊気満山高尾山)、十日町市(越後縮・絣・明石織/究極の雪国)である。

 日本遺産の認定地域では、近年、地域内はもとより、同じテーマをもつ他地域との連携が盛んである。桐生(糸)・八王子(織)・徳島(藍)・山形(紅花)の4つの産地が連携した新たな絹製品の共同開発などの事業も生まれている。

 この日の討議も、日本遺産と織物という経糸と緯糸を組み立てた新たな事業連携、これら資源を生かしたまちづくりの手法などについて熱心な討議が行われた。荒木恵司桐生市長からは、これら都市連携を生かした事業創造のための新たな推進体制の構築など「桐生アピール」もご提案いただいた。

 各地域は、その後それぞれの発展経緯を辿っているが、織物都市としての遺伝子は今も息づいている。多様なテーマによる都市連携が、新たな産業創出や都市再生の起爆剤になってほしい。

(観光未来プランナー 丁野 朗)