2025年12月1日(月) 配信
旅行新聞新社(石井貞德社長)は12月1日、取材活動などを通じて見聞きした今年の観光業界の取り組みの中から、創意工夫の見られるものを独自に選び、表彰する「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2025」を選出した。同賞は2021年に創設し、今年が5回目。グランプリは、旅館を核とした革新的な創造事業を展開する「和多屋別荘」(佐賀県)を選んだ。優秀賞には「金太郎温泉」(富山県)と、「山陰花めぐり協議会」(鳥取県、島根県)を選出した。各賞の地域の拠点として歴史や文化、自然などと人を結びつける新たな試みや挑戦を紹介する。
□ グランプリ 和多屋別荘
旅館を核とした「次代の嬉野創造」事業
茶畑に点在するうれしの茶を愉しむ空間を巡るティーツーリズム
日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2025のグランプリに輝いた「和多屋別荘」(小原嘉元社長、佐賀県嬉野市)は、旅館を核とした「次代の嬉野創造」事業に注力している。
“嬉野”が有する独自の文化や経済的な価値を、和多屋別荘社長の小原嘉元氏は「三層構造」に分解。そのうえで旅館が「新たな魅力創出の拠点」として、3つの層を創造的に再融合することによって、ティーツーリズムなど画期的な事業を生み出している。
三層の基礎となる「第一層」では、1300年前から湧出する「嬉野温泉」、500年前から栽培が始まった「うれしの茶」、400年の歴史をもつ「肥前吉田焼」――が独自の共存関係を築き、普遍的な価値を形成する。
その上の「第二層」に、圧倒的優位性がある和多屋別荘の2万坪の豊かな土地、最上層の「第三層」は、これらを活用した事業や商品開発と捉える。
地域に根付いている歴史的伝統文化を背景に、旅館業と不動産業を掛け合わせた、「ホスピタリティ事業×リーシング事業」では、既にさまざまな革新的な事業が創出され、注目を集めている。
コロナ禍の2020年3月には、日本で初めて温泉旅館内に会社を設立。和多屋別荘内にサテライトオフィスを設置し、イノベーションパートナーズ(東京都)をはじめ、24年12月時点でIT企業など6社が入居している。
また、「社員は温泉入りたい放題」などサテライトオフィスの取り組みが話題となり多くの視察を受けるなかで、スタートアップ支援の必要性が高まり、22年3月には温泉旅館内にインキュベーション施設を開設した。佐賀県や県外、アジアにおける次世代イノベーションの拠点を目指している。
日本語学校の入学式
25年4月には温泉旅館内に日本語学校「ICA国際会話学院 嬉野校」を開学した。高度人材に向けた外国人日本語学校として24年に文部科学省から認可されている。生徒数は25年4月時点で1学年生50人、26年4月には2学年生と合わせて100人。近い将来には定員200人を目標に据え、人口減少という大きな地域課題の解決にも期待が寄せられている。
また、旅館内の売店跡地の170坪に、お茶と読書を愉しむ書店「BOOKS&TEA三服」を21年11月に開業。1万冊を超える書籍を所蔵し、書籍は書店同様に購入ができる。
翌22年11月には「書く愉しみ」を応援する温泉旅館初の文学賞として「三服文学賞」を設立。第1回は2170作品の応募があった。25年には「嬉野地域賞」も新設し、文学を通して地域の声を未来へと残すことにも目を向けている。
このほか、世界的なパティスリーショップ「ピエール・エルメ・パリ」をはじめ、お香の大手メーカー「日本香堂」、嬉野市のお茶農家「副島園本店」のショップ誘致など、約2万坪の土地を活用した事業や商品が次々に生まれている。
ティーツーリズムは、茶畑に点在するうれしの茶を愉しむ「茶空間体験」や、ゲスト滞在中のお茶のお世話をすべて担うティーバトラー(茶泊)などで構成され、ストーリーを伝えながら付加価値を高めたサービスを提供している。生産者である茶農家と、価値を創出する茶商や旅館、飲食店、そして嬉野温泉を訪れる旅行者など消費者が結びつき、うれしの茶のみならず、エリア全体のブランド化も同時に進めている。
市や観光協会、タクシー会社、茶商などと連携し、地域の人たちとの交流による「嬉野の本物に出会う旅」といった着地型体験ツアーの商品化にもつなげている。
□ 優秀賞 金太郎温泉
バックヤードツアー実施、“立入禁止”も新たな切り口で
普段は入れない温泉地下設備など巡る
優秀賞の「金太郎温泉」(木下荘司社長、富山県魚津市)は今年6月から、普段は立入禁止の温泉管理施設などを巡る宿泊者向けバックヤードツアーを実施し、人気を集めている。
館内ツアーを行う施設は多いが、館内の美術品などを観賞するものが大半で、裏側を見せる施設は少ない。エコや環境問題への関心が高まるなか、同ツアーは宿の魅力を新たな切り口で紹介できるとともに、企業としての取り組みを広く、深く知ってもらう良い機会にもなると考えた。
同館地下にある温泉設備は、国内最大級の規模を誇る。ここでは75度の源泉と水を熱交換して温度を調整しながら、浴槽やシャワーに適温で届ける工夫が施されているのだが、その制御はスタッフが毎日手動で管理しているという。
ツアーでは、立山連峰や富山湾などが一望できる屋上も散策。各夕食会場の見学では、スタッフが各会場のこだわりを紹介するなど、普通に宿泊しただけでは気づかない同館の魅力を存分に味わうことができる。
このほか、地元に精通したスタッフが周辺の見どころを案内する体験ツアー「大人の遠足ぶらり旅」も実施。こちらも観光地ではない“ふだんの富山”の風景や地元の人々との交流が楽しめると好評だ。
同館は今後、周辺ホテルや飲食店と連携した企画なども計画。地域一体となって地元、魚津市のファンを増やしていきたいとしている。
□ 優秀賞 山陰花めぐり協議会
2市5施設が手を結ぶ、〝花〟テーマに「回遊」高める
右から2人目が山口康介会長(10月下旬、燕趙園での植樹式)
優秀賞の「山陰花めぐり協議会」(会長=山口康介・とっとり花回廊園長)は、鳥取・島根両県に点在する花の観光施設が「花」と「人」をテーマに連携し、統一したイメージで地域の魅力を発信することを目的に、2009年3月に設立した。花を通じた観光振興と滞在促進を目指し、山陰の自然・文化・人々を結ぶネットワークとして活動を重ねてきた。
協議会は、松江市、鳥取市、とっとり花回廊(鳥取県・南部町)、中国庭園燕趙園(同県・湯梨浜町)、日本庭園由志園(島根県松江市)、松江フォーゲルパーク(同)、しまね花の郷(同県出雲市)の2市5施設で構成する。
これら5施設がお得に巡ることができる共通チケット「山陰花めぐりPASS」を発行し、地域内での回遊・周遊を促進。今春には多言語対応のモバイルチケットを導入し、インバウンド向けにもPRを始めた。
15年の尾道松江線「中国やまなみ街道」の全線開通では、その数年前から山陽地域との連携を強化。広島県世羅町や備北丘陵公園などと協議・試行を経て、同エリアの観光協会や花施設と共同で「山陰山陽花めぐり街道協議会」を設立し、広範囲での活動を展開している。
また、会員施設である由志園が24年度から埼玉県東松山市の「東松山ぼたん園」の運営を開始した。松江市と東松山市がいずれもボタンを市花としていることから、“ボタンの縁”を生かした相互PRにも取り組んでいる。
□ 「100選」会場で表彰、26年1月16日に
前回グランプリに輝いた加賀屋グループ(写真右)
日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2025のグランプリ、優秀賞は、26年1月16日に京王プラザホテル(東京都新宿区)で開催する旅行新聞新社主催「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」などの表彰式会場で表彰する。表彰式終了後には、各入選施設と祝賀パーティーを開く。
受賞の取り組みについては順次、26年発行本紙で詳しく紹介していく。
【本紙1964号または12 月5日(金)以降日経テレコン21 でもお読みいただけます。】