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「街のデッサン(221)」バラの谷のジプシー 未来を生きるノマド(遊牧の民)モデル

2019年9月8日
編集部:長谷川 貴人

2019年9月8日(日) 配信

2人の愛らしいロマの少女

 ブルガリア、ルーマニアを巡る旅の4日目。ツアーのバスはブルガリアの一大産業であるバラの香水やオイルの生産地「バラの谷」へ向かっていた。このバラの谷とは、バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈に挟まれた平原一帯を指す。観賞用には向いていないが、香油用としては最高の品質を誇るバラの栽培に気候や風土が適していて、生産地はこの地域に集中している。

 街道を走るバスが、丁度ブルガリアの国土の中心を示すという塔が立つ地点で止まった。その周辺に広がっているバラ畑で、ピンク色をしたバラの花を摘み、香りを体験しようという算段だ。バスを降り、バラ畑に入っていくと先客がいた。10人ほどの人数で、特異な色彩の衣装の大人子供が混じった家族のような人々だ。掘立小屋の脇には馬の繋がれた荷車があって、彼らの相貌を見て直ぐにジプシーだと分かった。

 ヨーロッパの国々を巡ると、いたるところでこのジプシーと呼ばれる人々に出会う。彼らとの出会いの多くは、教会などの人々の集まる場所で幼子を抱えた女性が物乞いをしているような情景が多い気がする。イタリアのフィレンツェでは、サンタマリア・デル・フィオーレ教会の前でスリをした容疑で警官に尋問されているジプシーを見たし、ロンドンの地下鉄では妻が小さな子供たちに囲まれてバックに手を入れられた事もある。

 ツアーに参加すると添乗員が必ずスリや置き引きに注意し、パスポートは肌身離さずにと散々警告、その仮想の相手が暗にジプシーを示すことがほとんどだ。
 バラ畑の前にたむろしていたジプシーの家族は、バラ摘みを仕事にしている人々だった。バラ摘みは午前中の花が最も香りを放つタイミングで収穫することが求められているようで、バラック小屋ではズダ袋のバラを計量する最中だった。小屋から2人の少女が飛び出してくると、私と妻に写真を撮ってくれと、せがんでいるようだった。2人の笑顔が飛び切り可愛らしかったし、屈託のないようすが自然で元気に溢れていた。2人の間に妻が入った写真を撮ってやった。こんな近くで彼らと接したのは初めてだった。

 バルカン半島の諸国では、ジプシーの事を「ロマ」と呼んでいる。ロマとは、ロマニ語で「人(ひと)」の事だというが、彼らはまさに「人間」そのものだと私は感じた。ジプシーの過去は、侮蔑と差別の歴史だった。しかし、哲学者ジル・ドゥルーズのいう真のノマドとは権力や制度や格差と無縁で生きてきた彼らしかいない、と私には思えてならない。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

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