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価格に反映されない“クオリティ”を発信 (たびらい)

2018年6月12日
編集部:謝 谷楓

2018年6月12日(火) 配信

”現地主義”OTA・たびらいの仕組み

 インバウンドの増加や住宅宿泊事業法(民泊法)の施行など、旅行業界は新たな転換期を迎えている。伸び悩む国内旅行をどう立て直すか? 独自路線を歩むOTA(オンライン旅行会社)・たびらい(パム、長嶺由成社長)に注目した。【謝 谷楓】

直販を支援するOTA

 最新の統計によると、日本国内の宿泊旅行消費額は3兆5132億円(2018年1―3月期)。前年同期と比べ5・6%の増加で、1人当たりの支出額(単価)も同8%アップした。延べ旅行者数が減少したものの、高単価が消費をけん引した格好だ。17年の国内宿泊旅行を見ると、観光・レクリエーション項目でFIT(個人旅行客)がじわり増加している。インバウンド市場と異なり横ばい傾向だが、個々の消費単価を引き上げることで、国内旅行の活性化を期待できるかもしれない。

 地域への集客とリピーターを形成するためにできることは何か? 沖縄県を本拠地とするOTAたびらい(運営=パム、長嶺由成社長)では、“現地主義”を掲げた取り組みで、独自の支援体制を確立している。宿泊施設との関係について、同社の宿泊事業部長(兼編集長)熊﨑俊介氏は本紙インタビューに対し、次のように語った。

 「たびらいは、地域や宿泊施設に関連する情報を集め、編集し伝えることに注力することで成長を遂げてきました。OTAは、使い勝手の良いUI(ユーザー・インターフェイス)や予約システムを思い浮かべがちですが、その部分は普通のレベルで十分という姿勢を取っています。旅行者の来訪目的は、デスティネーションならではの観光コンテンツにあると考えているからです」。

たびらいの熊﨑俊介氏(左)と星竹彦氏

 OTAと言えば、卓越した技術力でユーザーと宿のマッチングを支援し、宿泊施設にとってはマーケティングやPR面でもサポートを期待できる存在だ。一方、近年はサイトコントローラーの普及が示すように、複数のOTAに登録する宿が増えている。国内と海外で違いはあるが、OTAの手数料率はおよそ10―20%。販売チャネルの増加によって売上が増えても、手数料がかさむことから、利益増を望めない宿も出てきた。

 「国内・海外問わず、さまざまなOTAが市場に参入し、付加価値の高い機能が当たり前と化すにつれ、成約手数料も高騰しています。今後、このようなビジネスモデルを推進するだけでは、施設とウインウインの関係を保つことは難しいと見ています。我われは、コアな記事制作を実現するための人材育成にリソースを投入し、直販をサポートする仕組みを整えました。一例ですが、カヌチャリゾート(沖縄県名護市)とのタイアップでは転職旅行の特設サイトを開きました。経験者コメントや宿泊プランの紹介記事を掲載し、同ホテルの直販サイトに誘導する仕組みとなっています。情報を収集し、コンテンツをつくり上げる我われならではの企画です」。

 最新の統計によると、旅館の直販率は10%ほど。TTA(既存旅行会社)やOTA経由には及ばないが着実にシェアを広げている。たびらいでは、価格といった数字には反映されない地域・施設のクオリティを情報化する企画・編集力の提供を通じ、直販を支援するビジネスモデルを構築しているのだ。

友人という立場からPR

 「OTAやメタサーチ全盛のなか、どうしても価格が指標となってしまいます。一方、旅慣れした中から上級の旅行者など、地域・宿に愛着を持つコアなファン層の取り込みには、現地の楽しさを具体的に示すことがより大切です。沖縄県・首里城は定番スポットですが、城下町散策や琉球カルチャーとの関わりを記事化して伝えることで、コアな沖縄ファンの来訪を促すことができます。地域に根づく宿泊施設への送客やリピーターづくりでも、有効な施策です」と、同社東京支店の責任者で、主に商品の仕入れを担当する星竹彦氏は説明する。

 「オンライン予約事業でも、“現地主義”ならではの取り組みを行っています。地域の魅力と旅行者のニーズ、双方を理解したうえで現地の友人という立場から旅程を提案しているのです。問い合わせ方法1つとってみても、ユーザーとのタッチポイントに心を砕いています。一例ですが、沖縄エリアでの宿泊施設選びで利用できる“ローカル案内所”サービスを行っています。メールだけでなく、電話でも気軽に問い合わせでき、ホテル選びを無料で手助けする環境をつくりました」。

 客室の機能や価格だけではなく、宿や地域での楽しみ方提案に軸足を置くことで、心の通ったアナログなサービスを提供できると強調する星氏。この姿勢は、地域の文化・歴史など、他OTAでは取りこぼしがちな情報にもフォーカスできるメリットを持つ。

売れる施策を提案

 同社は現在、沖縄本社以外に6つの支店・営業所を抱えている。デスティネーションとされる北海道や九州では“現地主義”に基づく情報発信を行い、東京支店は旅行会社から商品を仕入れる拠点という位置付けだ。星氏ら東京支店の使命は、TTAから良質なパッケージツアーを確保すること。ユーザーが集う都心のトレンドを地域の支店に届け、高品質なコンテンツ制作をサポートする機能も担う。

 「仕入れたツアー商品を売るだけでは、旅行会社からの信頼を得ることはできません。“現地主義”に基づくコンテンツをつくり、ユーザーに発信することができるからこそ、安心して商品を任せてもらえるのだと捉えています」。

 ビジネスモデルは、各旅行会社や、航空会社の商品を集めるメタサーチに近しい。一方、星氏が述べるように、価格以上にコンテンツを重視する姿勢を鑑みれば似て非なる業態というべきだろう。

 「とりあえず休みがあるから旅行に行くというライトユーザーではなく、ターゲットはあくまで旅慣れした中・上級者。各地域のファンとリピーターを育てなくては、消費単価を上げることはできないと踏んでいるからです。デスティネーションに位置する各支店とは日々、テレビ会議を通じ情報を共有しています。都心のトレンドを現地の編集・ライタースタッフに伝えるよう心掛けているのです。価格のみを指標としない分、コンテンツの面白さや伝え方が販売状況に直結します。長期滞在につながる上級者らの心を動かすためにも、都心と地方部の情報交換を重視しています」。

 アナログさを売りにする一方、OTAであることも確か。販売データなどは可能な限り、旅行会社に提供し、プランの改良に役立てられている。

 「ユーザーだけでなく、旅行会社にとっても頼りになる現地の友人だと考えてください。売れる施策を提案できる体制が整っているのです。パッケージツアーの販売で困っていることがあればぜひ、ひと声掛けてほしいですね」。

 同社では、すべてのスタッフが地域に赴き、現地での旅やレジャーを楽しめるよう“ローカル体験補助制度”を設けた。工芸やマリンスポーツ体験から宿泊費まで適用範囲は広く、プライベートの旅行を通じて誘客につながるアイデアの生まれやすい土壌を築いている。飽和市場と化した国内旅行の盛り上げにつながる制度だ。

 6月15日から本格解禁する民泊ビジネスでも、地域での体験が大きな目玉となることが明らかとなってきた。“現地主義”を掲げるたびらいの成長は、オンライン旅行販売の行く末を占うものとなりそうだ。

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