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フットパス ― 旅の原点「歩く旅」でまちを知る

2016年10月11日
編集部

 「フットパス」に取り組む地域が増えているという。

 フットパスは森林や田園地帯、古い街並みなど、地域に昔からあるありのままの風景を、楽しみながら歩くこと「foot」ができる小径「path」のこと。発祥地は英国だ。「歩くことで地域ならではの風景が見えてくるし、地元の方との温かな触れ合いこそが、フットパスの楽しみ」なのだという。

 つい先日、福岡県中間市の観光政策を担当する芳賀麻里子係長と、西山千恵子さんが旅行新聞を訪れ、この「フットパス」の取り組みについて熱く語ってくれた。中間市は北九州市の南側に隣接し、人口約4万2千人の小さなまちである。2015年に、「遠賀川水源地ポンプ室」が明治日本の産業革命遺産の構成資産として、ユネスコの世界文化遺産に登録されたが、これによって全国から観光客が大挙して訪れたというわけでもない。いわば、多くの地域がそうであるように、町の名前を言っただけで、何かを連想させる強烈な観光資源があるわけでもない、普通のまちである。

 ただ、そのような小さなまちであったとしても、ちゃんと探せば色々と魅きつけられる話題があるものなのだ。

 例えば、俳優の高倉健さんは、この中間市の出身である。そして、小田宅子(おだ・いえこ)さんの生家跡も、このまちにある。この小田宅子さんは江戸時代の女性だが、53歳の時に仲間の女性とお伊勢参りをし、そのまま善光寺、日光、江戸を巡る約5カ月の旅をした。そして『東路日記』という紀行文も残している。作家・田辺聖子さんの小説『姥ざかり花の旅笠』のモデルにもなっている。

 つまり、現在の「女子旅」の先駆的な存在として、今また脚光を浴びつつあるというのだ。

 さて、この小田宅子さんは、なんと高倉健さんの5代前の祖先にあたるそうだ。中間市にはいくつかフットパスのコースが整備されており、このようなストーリーを耳にすると、一見ありふれた長閑な町並みや、ボタ山のある風景でも、ゆっくりと歩いてみたくなるものである。

 自分たちのまちを知るには、まずは歩かないとわからない。そして、旅の基本は「歩く」ことだ。

 私も旅先では歩き回る。なぜ自分は旅先で足が棒のようになるまで歩くのだろうと考えたことがある。それは、やはりその土地の空気を吸いたいと思うからだ。

 クルマで旅をする時も、少し暑くても、また寒くてもエアコンではなく、窓を開けて運転をする。その土地の木々や植物の匂い、人家からの生活の匂いなどが、ハンドルを握るドライバーズシートにも流れ込み、ときどき胸を切なくさせる。

 旅は五感を鋭敏にさせる。その土地で見た風景や街並みの像はいずれ薄れていく。しかし、何気なく歩いて感じたその土地の空気の匂いは、意外に記憶に残っている。再訪した時に、視覚的なものよりも、むしろその土地の匂いによって、記憶が鮮明に蘇ってくることが多い。

 旅は“快適”の追求が大きな潮流となっている。全行程で不快な思いもせずに、長い旅もできるようになった。快適至上主義的な旅へのアンチテーゼとして、旅の原点である「歩く旅」の意義を、フットパスは小さな町から、静かに、やさしく、未来人にも教えてくれるかもしれない。

(編集長・増田 剛)

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