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激変する世界 ― この夏もいつものように旅に行こう

2016年7月21日
編集部

 耳を澄ませば蝉の鳴き声が聞こえる。もう本格的な夏がやってきた。

 仏・ニースで大型トラックによるテロ事件が発生した。その直後にトルコでクーデター未遂が起こった。国民投票でEUを離脱した英国に、テリーザ・メイ首相が誕生した。仲裁裁判所は南シナ海をめぐる中国の領有権主張を否定した判決が下された。日本では参議院選挙が行われ、国民の多くが改憲を望んでいる結果が出た。そして天皇陛下が生前退位を望まれた。

 世界中で、これまでの枠組みを揺るがすような事件や出来事が毎日のように発生している。にも関わらず、日本のテレビニュースはリアルタイムで世界情勢を報じないし、相変わらずドメスティックな思考のまま、ワイドショー的な切り口でしか、ニュースを伝えない。私はテレビを消して、外に出た。

 外に出ると蝉が鳴いていた。変わらぬ夏が到来した、とその瞬間思った。最近は毎週土曜日、家の近くのブリティッシュバーで、ジントニックを飲む。昼の3時から開いているので、重宝している。世界がどんなに激動しようと、蝉は鳴くし、いつもの酒場で、いつもの酒を飲む。一見、世界と切り離されているように見えても、やはり世界とはつながっているのだ、と酒を飲みながら世界のことや、身近なことに考えをめぐらす。

 最近、ブリティッシュバーの近くに、安い焼き鳥屋を見つけた。この焼き鳥屋は夕方5時から開くので、ブリティッシュバーで軽く、2、3杯飲んでから、河岸を変える。この焼き鳥屋は、焼き鳥1本60円、ポテトサラダなどのつまみは一皿200円。そして280円の焼酎も濃い。これだけ安いと、オヤジばかりが集ってくる。それも、みな1人客だ。散髪帰りに寄るオヤジもいる。店の中央に長テーブルがあり、オヤジたちは空いた席に座り、店にあるテレビで、相撲やサッカー中継を眺めながら、焼き鳥を食べ、酒を飲む。十年一日のごとくだ。

 このような風景は、世界中どこでも見られる。たとえ、自国の政権が変わろうと、あるいはクーデターが起ころうと、テロによる惨劇が発生しようと、近くの安い酒場に寄り、安い焼き鳥や、フィッシュ&チップスをつまみ、住み慣れた自分の住処に帰っていく。あまり騒ぎ立てない。静かに酒場の空気を感じながら、自分の長年のスタイルは、変えない。

 何が起こっても不思議ではない世界である。大規模テロもこの日本だって明日にも起こり得る。もちろん自然災害もだ。 

 しかし、何が起ころうと、生活の一つひとつを大事に生きていくことが大切である。世界で、あるいは、身近に起こるあらゆる動きを、どこかの国のテレビのように遮断せずに、つながりながら、なおかつ、日々の小さな楽しみを犠牲にしない姿勢が、結果社会を強くする。

 事務所に近い東京・上野の国立西洋美術館が世界遺産登録され、大きなニュースとなったのは喜ばしいけれど、登録翌日に国立西洋美術館を訪れ、炎天下の中で長蛇の列を作る人々が映し出されていた。メディアなどで話題になり、注目されるとすぐに集まる人々だ。一方、テロや災害があると、逆の反応になりがちでもある。外の世界を意識しながら、自分のスタイルを大事にしたい。この夏もいつもの酒場で酒を飲み、旅に行こうと思う。

(編集長・増田 剛)

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