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「良心」のある店 ― “絶妙な加減”の追求こそ、難しい

2016年3月21日
編集部

 カツカレーが好きである。だからこの欄でもカツカレーについて、何度か書いてきた。

 カツカレーは好きだが、だからといってすべてのカツカレーが好きなわけでもない。例えばトンカツ屋さんと、カレー専門店の出すカツカレーは、似て非なるものであるし、店によっては、ごはんとカレーとカツを完全に分離して出すところもあれば、カツに半分カレーをかける店や、カツ全体にカレーをかける店もある。千差万別だ。

 カツカレーの主役は何か?と問えば、多くの人はカツと答えるだろう。しかし、私はそうは思わない。

 というのは、ごはんとカレーの両者で、すでに極めて高い水準のハーモニーを奏でている。このまったき、完璧世界に、カツが天から降ってきた“異物”してトッピングされる存在であることに、演出者(料理人)が気づいていればいいのだが、時としてカツが突出してスタンドプレーをしてしまう、いや、むしろそれを助長するケースがあるのが残念でならない。

 ごはんとカレーが築く世界は完成されているがゆえに、退屈さを感じないわけではない。だから、差し色的に、福神漬けやらっきょなどでアクセントをつける。よりアバンギャルドな世界を求めるなら、チキンや牛カツ、ハンバーグなどをトッピングできるし、グリーンカレーなどの変化球もたまにお目見えする。カツは目立つが、トッピングの一つに過ぎない存在でもあるのだ。

 主張控えめなごはんと、スパイスの効いたカレーに、油を含むカツを加えるのは、ひとことで言えば、賭けである。実際、多くの店で、バランスを崩している。私の好みのカツカレーは、3分の2ほどカレーがかかって控えめにカツが顔を出すタイプだ。食後カツカレーを食べた満足感に包まれているのに、カツを食べた記憶が残らないのが理想である。

 以前ラーメン屋でチャーシューに埋めつくされたチャーシュー麺が出てきて、気持ち悪くなった苦い経験があったが、カツカレーを注文したときは、美しいハーモニーを奏でるカツカレーが食べたいのだ。

 一時期、ご当地ハンバーガーが全国で一世風靡したことがあった。地元の食材を挟んで、B級グルメとしてPRしたいというのがその意図だが、なかには1500円もするハンバーガーもあった。また、こだわりのラーメン屋で、一杯1500円以上するラーメンもある。だけど、2千円近いお金を払うとしたら、ちょっとしたランチコースも食べられる。高級食材を惜しまずに盛り込むことで、値段が高くなってしまうということもあるだろう。しかし、何かを突出させることはわりと容易い。難しいのは、絶妙な加減の追求である。1泊5万円、10万円のホテルが素晴らしいのは周知の通りだが、1泊1万円―1万5千円で宿泊客に満足感を与えられる宿の真の努力は、あまり評価されていない。

 私は食べたことはないが、高級なホテルや洋食店で3千円もするカツカレーも存在するだろう。手間をかけ、きっと美味しいに違いない。でも私は1千円以下で食べられる美味しいカツカレー屋さんを探す。食べ物屋さんも旅館も「良心」のある店が好きだ。良心のある店とは、絶妙にバランスの取れたカツカレーを廉価で出す店を思い浮かべる。

(編集長・増田 剛)

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