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「街のデッサン(241)」小さな店でも観光文化の担い手 鎌倉の人気店の閉店が教えてくれた

2021年5月9日(日) 配信

店が鎌倉文化の舞台だった

 卜部ご夫妻とは、今から十数年前に鎌倉の極楽寺に思い切って「構想博物館」という大仰な名前で研究所と私塾を開設してから、ずっと懇意にしている。2地域居住の実験的意味があって、東京の渋谷と鎌倉のパラレルライフだ。ご夫妻の住まいがその構想博物館の目の前で、建物を建てた折にごあいさつに伺って以来、京都出身の豪放磊落なご主人の圭右氏とは気が合った。よくお茶を一緒にしながら、商売の話や、京都から鎌倉に移り住んだ経緯などを伺った。

 圭右氏は話し上手、父親が彼に輪を掛けて粋人で京都から東京に出て鎌倉に移り住んだ話は小説のよう。ご夫妻の人生にも何度も大波乱があり、結局は長谷の大仏様近くに洒落た「プチカフェ」を経営することになって20年余。私たち夫婦も時々はカフェにお邪魔して、お喋りを楽しんだ。

 この1月中旬、コロナ禍で東京を動けないでいる私たちに、奥さんの裕子さんから電話があった。「お久しぶりね」と電話に出た妻に、裕子さんが切り出した。「実はね、お店を閉めることになりました。長谷の商店街は閑古鳥。昨年の11月ごろから観光客がほとんど来なくなって、周りの店も閉店が増え、主人も85歳になったので、もうこの辺でと見切りを付けました」という。ご夫妻は3年ほど前に逗子のマンションに引っ越しをしていて、長谷の店が無くなると簡単に会えなくなる。妻と私は、急に寂しく悲しくなった。

 もうひとつショックだったのは、東京と鎌倉の行き来に必ず寄って食事をしていた江ノ電駅に隣接したカフェ・ロンディーノが、昨年11月に閉店したことだった。このカフェ食堂は、たぶん観光客にも地元の住民にも鎌倉で一番愛された店ではないかと私は確信している。まずメニューの品々がお安く美味。例えば、看板セットのハンバーグ定食は飲み物付きで800円、10年前は650円だった記憶がある。私は、ワンプレートのハンバーグにジンジャエールを頼んで、本当に満足していた。そして店員がよく訓練されていて、歯切れの良いサービスをしてくれた。開店したのは1967年、53年間の歴史だ。

 店主の沖喜八重さんの父親・安治さんが、美容院を間借りしてスタートさせた。コロナ禍で6週間の休業を余儀なくされたが、閉店の理由は客足ではなく、人手不足などで店の持つ文化の劣化を心配したからだという。卜部さんや、八重さんの店仕舞いは、こうやって長年培われた貴重な鎌倉観光文化資本が失われ、今後その再生が問われると嘆息をしたものだ。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

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