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【最終回】「女将のこえ231」下竹原成美さん 指宿白水館(鹿児島県・指宿温泉)

2020年3月23日(月) 配信

指宿白水館 女将の下竹原成美さん

素直な心でありがとう

 下竹原成美さんが鹿児島から指宿に嫁いで45年になる。東京の短大に進み、商社に勤務した後、鹿児島に戻った。当時の九州は新婚旅行ブーム。かつての名称「ハワイアンホテル指宿白水館」は、200室が新婚さんで埋まるほどだった。
 
 やがて、夫で現会長の和尚さんは、「ハワイのイミテーション観光は終わり」と、いち早く察し、創業者の両親を説得して和風へと回帰。薩摩の誇りを胸に、日本有数の旅館へと成長させた。
 
 海を望む5万坪の敷地に客室棟が4棟、砂むし温泉を有する1千坪の大浴場、松林の大庭園、コンベンションなど、ほとんどの施設が白水館にはそろう。
 今ではVIPも訪れるが、成美さんは、「私一人では何もできないので、みんながよくやってくれるんです」と気負いがない。
 
 若い頃は、テレビ番組側の希望でリポーター役の相撲取りと温泉に入ったこともある。「そういうものかなと(笑)」。とにかく、素直な人である。「大変でしょうと言われても、それがわからない。みんないい人で助けられていますから」。
 
 ならば、「いらいらすることはないですか?」と聞くと、「私がきりきりしていると、スタッフは本心を言わなくなりますから」と、実はよく観察していた。人と自分の観察は、リーダーの必須条件だ。「主人の父が教えてくれました。自分の目で、誰がどう行動するか見ておきなさいと。いい部分を見出して育てるということでしょうね」。
 
 白水館の敷地には、先代の時代から収集してきた薩摩焼を展示する「薩摩伝承館」がある。単体の旅館がつくったとは思えないハイレベルの美術館だ。「料理と温泉と客室を提供するだけではなく、薩摩の文化を背負って働いているという誇りを社員に持たせてあげたい、と。主人にはそんな思いもあったようです」。
 
 振り返って成美さんは言う。「楽しいこと、嬉しいことがたくさんありました。実家に帰りたいと思ったこともありません。家族にも働いてくれる人にも業者さんにも『ありがとう』です。もちろんお客さまにも」。
 
 現在は、新しい感覚を持つ、長男の利彦さんと経営に当たっている。「息子は42歳になりますが、僕の旬は今だよと申します。時代ごとの感覚で、みんなでやっていってくれると思っています」。
 
 と同時に、ありのままの人間を尊ぶ考えも継承されるだろう。昔、成美さんが和尚さんに言われた言葉で終えたいと思う。「あなたは、あなたのままでいいんだよ」。
 
 
※2000年から連載してまいりましたコラム「女将のこえ」はこれで最終回となります。お一人おひとりとの素晴らしい出会いに感謝です。これからも日本全国の女将さんのご活躍を祈念しております。
 
(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)
 
▽住所:鹿児島県指宿市東方12126-12▽電話0993-22-3131▽客室数:205室(947人収容)、1人利用可▽創業:1947年(鹿児島市にて。指宿は1960年より)▽料金:1泊2食付き17,000円(税別+入湯税別)▽塩化物泉▽1千坪の浴場施設がある。敷地に建てられた「薩摩伝承館」には、薩摩焼の文化的な作品が数々展示され、見応えあり。

 

コラムニスト紹介
 
ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏

ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。 

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