〈観光最前線〉個人的に近くなった「松山」
2020年2月1日(土) 配信
関西支社にいたころ、営業で四国・松山に出向いた際、電話での言葉遣いについて、先様からお叱りを受けた。緑色の公衆電話を前に30分、いやもっと長かったか。言葉の怖さをつくづく感じた。
以来松山は、心理的距離のある地だったが、天童荒太の近著「巡礼の家」を読んで、それがぐっと縮まった。
本の舞台は道後温泉のへんろ宿。行く場所も帰る場所も失った少女が、宿の女将から声を掛けられる。「あなたには、帰る場所がありますか」――と。地元の人との交流を通じて、少女が自らの生き方を見つける物語だ。
著者が松山市出身とあり、風景や食の描写にも興味をそそられた。とくにクライマックスで描かれる秋祭りの「鉢合(はちあ)わせ」は圧巻。本を手にぜひ訪れてみたいと思った。
【鈴木 克範】