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「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(189) 機械化が進むほど「人の言葉」が大切になる 「温かい言葉」はサービスの原点

2026年10月18日(日) 配信

西川丈次のもてなし上手

 久しぶりにお逢いした企業の代表と話をする機会があり、そのご縁から、後日その会社へ伺うことになりました。いただいたメールには、「路線バスを使うと便利ですよ」そんな一言も添えられていました。

 そこは初めて訪れる地域であり、路線バスに乗ることには大きな不安を持ちました。サービスを提供する側にとっての「当たり前」が、利用する側にとっても当たり前とは限りません。ここに、サービスを考えるうえで大切なことがあります。

 やって来たのは、大手のバス会社でした。ある停留所で降車ボタンが押されました。1人の男性が降りていきます。そしてドアが閉まり、バスが動き出そうとしたその瞬間です。後方から「降ります~」という声が聞こえました。振り返ると、横の荷物置き場から大きな荷物を持ち上げようとしている年配のご婦人がいました。

 ドアが再び開きます。ご婦人は急いで出口へ向かわれました。待たせてしまった、そんな思いがあったのでしょう。少し慌てたようすでした。しかし、運転士からは何も声はかかりません。黙って降りて行かれるご婦人を見ているだけでした。

 もちろん、運転士にも事情があるでしょう。定刻運行も安全運転も大切です。車内には「バスが停車してから席を立ってください」という表示もあります。そのご婦人は大きな荷物があったこともあり、揺れる車内で立たずに停車するまで座っていたのだと思います。一方、先に降りた男性は、停車前からドアの近くまで移動していました。だからドアが開くとすぐに降りることができました。

 同じバスに乗っていても、利用者にはそれぞれ事情があります。だからこそ、サービスに必要なのは、「全員を同じように扱うこと」ではなく「一人ひとりの事情を想像すること」なのではないでしょうか。バスを降りていくご婦人の後ろ姿を見ながら、何とも言えない気持ちになりました。そこには、少しだけ「あきらめ」のようなものを感じたのです。「仕方がない」「迷惑を掛けてはいけない」「急がなければいけない」そんな思いを抱えながら、日々このバスを利用しているのかもしれません。

 先人の運転士の方々が、利用者への感謝や思いやりを込めて使ってきた温かい言葉。それは古い接客ではありません。むしろ、どれだけ時代が進んでも失ってはいけない、サービスの原点なのだと思います。

 人を運ぶだけなら機械にもできる。でも、人の不安を取り除き、人の心を安心させ「またここを利用したい」と思ってもらうこと。それは最後まで「人」の仕事なのではないでしょうか。あらゆるサービス業界で考えるべき本質です。

 

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

 

 

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