【アーストラベル水戸・尾崎精彦社長】旅で社会課題を解決 誰にも負けない茨城専門の旅行会社に クラファンも開始
2026年9月4日(金) 配信

アーストラベル水戸(尾崎精彦社長、茨城県水戸市)が企画・運営する職場体験企画「シゴトリップ」はこのほど、「ツアーグランプリ2026」(主催=日本旅行業協会)で国内旅行部門優秀賞を受賞した。茨城県の子供たちに地域の魅力を伝えるため、「県内から県内へ」をコンセプトに、職場体験を深化させた教育プログラムを展開する。「誰にも負けない茨城専門の旅行会社」を目指す、尾崎社長に話を聞いた。
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コロナ禍で生まれた 「シゴトリップ」
尾崎社長は大学卒業後、旧東急観光(現東武トップツアーズ)に入社し、水戸支店に配属された。埼玉県出身の尾崎社長と茨城県との出会いはここから始まる。約10年在籍し、その後は同じく10年ほどフリーランスで旅行業を手掛けてきた。このときの縁で、2020年12月に「アーストラベル水戸」を第三者承継した。当初2人からスタートした会社は6年で10人のスタッフを抱えるまで拡大。現在の事業割合は教育旅行6割、法人・行政関係で4割だ。
一方、事業承継した時期はコロナ最盛期。県外をまたぐ移動が制限されていた。このなかで、学校側から「近隣でコロナ禍でもできる屋外の体験はないか」と教育旅行の相談を受けたことで、茨城県内に目を向けるようになる。
尾崎社長自ら地域の事業者に会い、体験することで茨城には多くの魅力ある場所や事業、そして人が溢れていることに気付く。「茨城からの発地型旅行をメインに扱ってきたが、茨城に人を呼び込む、または県内間の移動で地域とつながりを持ち、お金を落とす方が企業として価値が高いのではと考えた」。こうして数年前からシゴトリップの原型となる教育旅行が始動した。
現在のシゴトリップは中学2年生時に推奨されている、職場体験を深化させたもの。バスを利用した日帰り企画で、職場体験と校外学習を合わせたような運用が行われている。午前中に各職場体験を行ったあと、午後は地域のキーパーソンによる講演、観光施設や道の駅などでの見学・買い物で構成する。
特徴は生徒の興味や学校の特性から最適な職場体験先を組み合わせること。現在は農業や観光、福祉、製造業など200社以上の事業所と連携してプログラムを用意する。10~15人程度の少人数制で、生徒自身が関心のある体験を選ぶことができる。実績では、23~25年で延べ33校・約4500人が体験した。

内容だけではなく、教職員の負担軽減がはかられていることも特筆する点だ。教育現場では長時間労働や業務の煩雑化が課題として挙げられるなか、ときに1日数百件も電話を掛け、調整を行わなければいけない職場体験の企画や運営は学校側に大きな負荷となる。それを同社が一手に担うことで、教員に負担なく良質な体験を提供する。
ツアーグランプリの表彰式では「緻密なリサーチのもとで少人数の職場体験を実現し、先生の負担を減らしながら、生徒の探究学習と地域の担い手育成を両立させる、業界のベンチマークとなる企画」などと評された。
また、旅行商品では異例といえるが、現在シゴトリップ全体の仕組みに関して特許を出願中だ。理由について尾崎社長は「協力してくれる事業者や受入先への感謝と社員がプライドを持って働けるよう、カタチを示したかった」と語る。
茨城でホンモノ体験を 「あすたび」を提供
同社のコンセプト「あすたび」は「明日に生きる旅」の略で、「一度の体験で明日からの見え方が変わる、ホンモノの好奇心を引き出す旅」の提供を掲げる。
尾崎社長によると、県内の高校卒業後の進学者のうち8割が首都圏の学校に進み、そのまま県外へ出てしまう。「しかし、県内にも光る仕事やプライドを持って働いている人がいることを知っていれば、大学などの卒業後に茨城に戻る選択をする子が増えるかもしれない」と考える。
教育旅行の現場では、実際に体験する前と後では考えが変わる生徒たちが少なくない。事前アンケートでは働くことにネガティブな印象だった生徒も、輝いている大人を見て、地域の魅力や自身の将来の可能性に気付きを得る。「体験は引率の先生も感動している。働く本来の意味を知ってほしいので、仕事内容というより熱意のある『おもしろい人』にスポットを当てる」とこだわる。
シゴトリップ以外に、首都圏の私立学校の教育旅行を請け負うことも増えた。昨年度の実績は6校。生きるために必要な第1次産業から、つくば市を中心に最先端の技術や研究を学べることが進学校に受けている。尾崎社長は「東京ではできないことが茨城ではできる」と自信を見せる。
3年後に取扱10億円へ 茨城専門を極める
今後はこうした県外客の取り込みも積極的に行っていく。シゴトリップは業務内容から年間15~20校が限度で、現状ではほぼ最大値だが、県外の学校は3年後を目途に50校まで取り扱いを増やし、会社全体の取扱高は10億円を目標に掲げる。
茨城県への教育旅行誘致に向け、同社は一般社団法人「森と未来の学校」も設立している。教育関係者や他産業の事業者らと新しい教育旅行を考え、オリジナルの旅を創出するのが狙い。
尾崎社長はこうした教育旅行の取り組みをまとめた書籍を10月初旬に発刊する予定だ。
将来的にはインバウンドの取り扱いも視野に入れる。「インバウンド客にとってディープな日本の体験は魅力だと思う。我われは県内約200事業者とつながりがあるので、多様な体験が提供できるのが強み」とし、2~3年後に本格的な誘客を実現したい考え。
尾崎社長は「茨城に人を呼び込みたい。人口減少、円の価値が下がるなかで、外貨を獲得することが地域にとって重要だ」と強調する。
ここまで茨城、地域活性化にこだわるのは、旅行会社の存在意義を考えた末のこと。「東日本大震災やコロナ禍で、旅行会社の価値の低さを感じ、『なくてもいいのでは』とさえ思った」。そこを経て、存在価値を高めるため「旅で社会課題を解決し、地域や小さい事業者の価値をしっかり伝えられる会社になっていきたい」と前を向く。
取り組みを継続することで応援してくれる人も増えた。報いるためにも「誰にも負けない茨城専門の旅行会社でありたい」と力を込める。
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□クラウドファンディングを開始
尾崎社長は10月、これまでの取り組みをまとめた書籍を出版する。この一環で、教育の最前線で活躍する人々との対談動画を制作。本と動画により、地域とつくる教育旅行を広く全国へ発信していくため、このほどクラウドファンディングを開始した。
プロジェクト名は「子どもたちに『明日に生きる旅』を。地域とつくる教育旅行を全国へ」。プラットフォームのCAMPFIREで11月21日まで展開している。
支援は3000円~10万円で、リターンは書籍など。支援金は書籍や動画の制作費、広告、出版記念イベント運営費などに充てられる。

