「観光革命」地球規模の構造的変化(294) 博物館・美術館の受難
私は80年の人生の内、43年間を博物館に在職したので博物館に強い愛着を感じている。しかし社会的には学芸員の仕事が十分に評価されておらず、残念に感じ続けてきた。
とくに2017年に当時の地方創生担当相を務めていた山本幸三大臣が公開セミナーで博物館学芸員は観光振興に理解がないと指摘し、「一番の癌は学芸員。普通の観光マインドがまったくない。この連中を一掃しないと駄目だ」と発言して全国的に厳しい批判を浴びた。私は当時、北海道博物館協会会長を務めており、山本大臣に対する抗議を表明した。その要旨は次の通り。
「日本は観光資源や観光魅力の宝島であり、日本の至るところで伝統的な自然資源や文化資源や人財が大切にされてきた。近年貴重な日本の伝統的な自然資源や文化資源や人財が損なわれつつあるなかで、それらを大切に守り、伝える努力を行っているのは各地に存在する博物館園だ。しかし日本の博物館園の多くは館員数も予算額も少ないため、十分に役割を果たせていないのが偽らざる現状だ」。合わせて「地方の博物館は地域の貴重な自然資源や文化資源を守り伝えると共に、地域における『結衆の原点』としての役割を果たしている。地方の学芸員が置かれている苦境を理解したうえで、より良く仕事を展開できる支援方策を真剣に検討すべきだ」。
政府は今年2月に国立博物館と美術館の5年間の中期目標を示したが、「自力で稼ぐ」ことを強く求める内容で関係者らには驚きと困惑が広がった。国立博物館・美術館は入場料などの自己収入と国費によって運営されているが、財務省は国立博物館・美術館について「入場料収入が不十分」と指摘し、入場料の引き上げや二重価格の導入をはかって、展示事業費を自己収入で100%賄うこと、その割合が4割を下回る場合には再編対象とすることなどを示した。
要するに財務省は国家財政が厳しいなかで、国立博物館・美術館に「自力で稼ぐ」努力を強要しており、博物館・美術館が果たす多様な役割(調査・研究、資料収集・保管、地域貢献、人財育成など)を軽視している。地方の公立博物館・美術館にも同様の受難が生じることを危惧している。観光業界による地方の博物館・美術館へのさまざまな支援を大いに期待している。

北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館前館長。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。


