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【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その58- 東京湾フェリー(神奈川県横須賀市―千葉県富津市) 日の出、日の入りの美しさ 船上から絶景を拝む

2026年2月8日(日) 配信

 私の精神性の高い旅もここ2回は、海の美しさに惹かれて、海の見える博物館・美術館を訪ねた。

 海といっても、ビーチリゾートのように、青い空、白い砂浜、大きく広がる水平線といった景観はのんびりするには心地よいけれど、精神性をあれこれ考えるには、目の前の遠くに、近くに何かある方が刺激される。だからといって、ごちゃごちゃしていたら気が散るので、適度に落ち着き、適度に何かある方がいい。

 私の最近のお気に入りは、東京湾フェリーだ。東京湾フェリーは、神奈川県横須賀市の久里浜港と千葉県富津市の金谷港を40分で結ぶ航路である。東京からほど近いところで、本格的な船旅を楽しむことができる。片道1100円、往復2000円だが、目的地で上陸しなければ、1400円の遊覧割引というものもある。

 

 

 いま私たちが首都圏から間近でこのフェリーに乗ることができるのは奇跡と言っていい。東京湾フェリーは今まで大きな危機に直面してきた。

 まず、最も大きな危機は1997年の東京湾アクアラインの開通である。川崎から木更津を一直線に結び、川崎側は海底トンネル、木更津側は橋で、両者を人工島海ほたるが結節している。このため、神奈川と房総を直接結ぶ利便性が売りだった東京湾フェリーは大打撃を被った。

 ただ、アクアライン開通当時は普通車の通行料が4000円と高価であったため、利用実績は推定交通量を大幅に下回った。そのため、2009年に千葉県知事に立候補した森田健作氏は、普通車800円を目玉公約として掲げて当選した。これが第2の危機である。

 普通車800円はさすがにインパクトが大きく、東京湾フェリーは、旅客も車両も大幅に減少することとなった。

 

富士山を背景にした「しらはま丸」(写真提供:東京湾フェリー)

 ただ、ここで東京湾フェリーは値下げ競争には打って出ることはせず、船上でのビアガーデンなどの各種イベントや、横浜港、羽田沖への遊覧クルーズの運航など、船に乗ることそのものを目的化するところで差別化をはかった。

 さらに、運航している「しらはま丸」の大きさが、ペリーが乗ってきた黒船サスケハナ号とほぼ一緒ということから、外装を黒くし、船内でも黒船の紹介をするといった、乗って楽しい工夫が凝らされている。

 イベントがなくても、東京湾フェリーから見る日の出、日の入りは絶景である。夕日は富士山をバックに全体がオレンジ色に染まる。ホームページでは夕日を見るのに最適な便が月ごとに示されている。また、初日の出も、一旦船上で初日の出を拝み、金谷港に向かうと鋸山にまた沈み、金谷港出港後あらためて鋸山からの日の出を拝むことができるということで、毎回整理券を配布するほどの人気である。

 

オレンジ色に染まる夕日は絶景(写真提供:東京湾フェリー)

 フェリーは魅力的だ。行き交う船と汽笛を交わし合うのは、あたかもエール交換をしているかのようだ。

 新幹線は精神性のかけらもないが、ローカル線、もっと言えば、蒸気機関車に私たちは精神性を見出す。「なんだ坂、こんな坂」と人生を重ね合わせる。東京湾フェリーも、そんな存在だ。吹けば飛ぶようなちっぽけな私たちへの応援歌を歌ってくれる。だからこそ、つらいとき、悔しいとき、踏ん張りたいとき、私は東京湾フェリーに乗る。次世代の頑張る人のためにも、これは絶対になくしてはいけない。

 

旅人・執筆 島川 崇
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授。2019年「精神性の高い観光研究部会」創設メンバーの1人。

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